第二十二章 風呂
同性の友人と風呂に入るということは十三番にとって、初めての経験だった。狭い風呂の中、十三番は西園寺と二人で話す。こういうのをこの国では、裸の付き合いというんだっけと十三番は考えた。
「西園寺さんは、私のことは警戒しないのか?」
ずっとわだかまりとして心にあった言葉を、ようやく十三番は口に出来た。風呂に入るため、西園寺は眼鏡を外している。髪型も三つ編みではなく、おろしている。眼鏡を外し髪をおろすと西園寺は印象が変わり、まるで知らない人みたいだ。
「私は杉野さんのことは信頼できると思うんです」
「どうして?私も二十五番と同じような存在だ」
「でも、私は杉野さんとは一緒に過ごしました」
「たった三日間程度だろう。それで何が分かる?」
「私は人付き合いは時間じゃないって思っているんです。例え、何年一緒にいたってわかりあえない人はいます。確かに、私は杉野さんとはそんな長い時間一緒にいなくても分かるんです。杉野さんはそんなに悪い人じゃない」
十三番は一瞬、戸惑った。そんなこと、初めていわれた。悪い人じゃない。信じられる。信頼できる。十三番にそんな言葉を告げる人は今まで周りにいなかった。それなのに、西園寺は十三番にそんな言葉を与え続けた。
どうしてだろう。十三番は西園寺に何も与えていないというのに。
「西園寺さんは、どうして私を信じるんだ?」
疑問を口にだすと、自分の声が震えている気がした。風呂の中だからだろうか。それを受けて、西園寺は持ち前のおどおどした態度に再び戻って言った。
「あの、怒らないでくださいね?」
「別に怒らないけど」
「私、杉野さんに勉強教えたりした時から思ってたんです。杉野さんって嘘が下手だなぁって」
「…え?」
「た、例えばクイズやった時に、恵美押勝の本名はなんでしょうって聞いたじゃないですか。その時、杉野さん顔を赤くして、分かってる
、分かってるって言いましたよね。でも嘘だなって。その時から、私の中で杉野さんは嘘が下手な人っていう印象で…」
「…だから、信じられる、と」
「は、はい」
ばれていたのか。
今、西園寺は髪型も眼鏡も外し、学校での格好と全く事なっている。それでも、今の怯えたような雰囲気からは何となく、学校での西園寺が思い出される。怒られると思ったのだろう。しかし十三番は怒らないと言ってしまった。約束は破れない。馬鹿にされたようで少し腹がたつが仕方ない。思わず、拗ねたような言い方になった。
「っ、私は別に嘘が下手なわけではないからな。いつか思い知らせてやる」
その子供のような口調に、くすくすと西園寺が笑う。やたらと楽しそうだ。
「…なんだよ」
「やっぱり杉野さんは良い人です」
「はぁ?」
「だって、さっきも慰めてくれたし、今も約束を守ろうとしてくれた。本当に西園寺さんは―」
「…もう、あがる」
ああ、気に入らない、気に入らない。西園寺といると、どうしてこんなに心がざわめくのだろう。




