第二十一章 警戒
「ただいまー」
能天気で明るい声が玄関から聞こえてきた。二十五番の声だ。十三番は思わず顔を顰める。
「二人とも、おかえりはー?」
にやにやと人を食った笑顔を浮かべる二十五番。しかし人を食った笑顔というのも十三番の感想が入った話だ。実際に二十五番の笑顔を見たら、人懐っこい無邪気な女の子という印象を与えられるだろう。そうなのだ。それが二十五番のやり方なのだ。相手を信頼させ、篭絡させるプロ。年齢が合えば、私立和桜女子高校に潜入捜査を命じられたのは二十五番だったのだろう。
実際、西園寺はつられて
「お、お帰りなさい?」
と返事を返してしまっていた。
「ありがとうー、雫ちゃん。っていうか、十三番ちゃんは無視なの?ひどーい」
「うるさい。疲れているんだ」
苛立ち混じりに十三番が返事をしても、二十五番は余裕のある表情を浮かべている。
「あ、そうだ。汗かいてるだろうし、十三番ちゃん達、お風呂入ってきちゃう?準備しといたよー」
何も考えていないかのような軽い口調。しかしどこか裏があるような。いつも通りの二十五番の話し方だった。そしてその話し方のまま、二十五番は続ける。
「先に雫ちゃん入ってきていいよー。お客様なんだしさー。ついでに着替えな。制服って落ち着かないよねー」
西園寺はどこか緊張した様子で言った。
「あ、あの、お風呂、杉野さんと入っちゃ駄目ですか?」
「ん、杉野?…ああ、まぁいいけどー。お風呂、そんなに広くないよー」
一瞬、杉野というのが誰のことかわからなかったようだが、すぐに十三番が潜入捜査で使っていた名前だと思い出したらしい。二十五番はあっさりと了承した。
「…私には聞かないのか?」
「ご、ごめんなさい」
十三番が聞くと、慌てて西園寺が謝ってくる。
「駄目、ですか」
恐る恐る、西園寺は隣に座る十三番のことを見つめた。
「別にいい」
そっけなく十三番は答えた。二十五番も言っていた通り、このアジトの風呂はそんなに広くない。二人も入れるだろうか。しかし十三番も西園寺も小柄なので大丈夫だろうと、十三番は結論付けた。
「着替えは後で、持ってとくねー」
「頼む」
二十五番に着替えの準備を頼み、十三番と西園寺は浴室に向かった。といっても、リビングからそんなに離れたところにあるわけではない。リビングから見ると浴室は向かいの部屋になる。
風呂に入るためには、脱衣場で服を脱がなければならない。そのため、二人は脱衣場に入った。
そして二十五番が着替えを取りに二階に行った音を見計らい、十三番は聞いておきたいことを西園寺に聞いた。
「私と一緒に風呂に入るのって、二十五番と二人きりになりたくないからなの?」
西園寺の表情が固まった。




