第一章 準備
十三番はホテルの鏡の前で自分の姿を確認した。鏡の中にはセーラー服を着たショートカットの少女の姿が写っていた。年相応のあどけなさというものが目付きの悪さで息を潜めている。片目を隠すように伸びた前髪も手伝ってかかなりきつそうな性格に見える。後ろのソファーに座る二十五番がにやにやしながら
「似合うねー」
とヤジをとばしてきた。
「うるさい。こんなもの似合っても何も嬉しくない」
「うんうん。気持ちはわかるけど、それ超お嬢様学校の制服なんだよー。それ着たくて受験して落ちて泣いている人がいるんだから少しは我慢しなよ」
「くだらない。私がこれを着ることとそいつらが受験に落ちることに因果関係はないだろうが」
「そうだねー。十三番ちゃん裏口入学だもんねー」
「裏口入学とか言うな。これは仕事だ」
「まぁさ、仕事とは言いつつ学校に行くのなんて最後の機会なんだから楽しんできなよ」
「どうでもいい」
十三番は学校の件についてこれ以上話したくなかったので、話題をそらすためにもテレビをつける。するとニュースがやっていた。そこでは十三番が起こした殺人事件のことなんて全く話題にならず、薬物中毒者が起こした殺人事件が話題になっていた。最近の薬物には凶暴性を高める効果が強く規制を強めなくてはいけないとコメンテーターの一人が熱弁を奮っている。
番組を見ながら二十五番は十三番に話しかける。
「加藤隆三の影武者は上手くやっているかな?」
「知らないな。もう私達の仕事は済んだ」
「同じ国のエージェントなんだから少しぐらい気にしてやってもいいんじゃなーい?」
十三番も二十五番も日本に送りこまれたとある国のエージェントである。加藤隆三を殺したのは彼が十三番達の祖国にとって何らかの害を与える存在だったからだ。といっても下っ端である十三番は加藤隆三を殺した事細かな理由なんて教えられていないが。
彼女達が番号でよびあうのには下手な仲間意識を持たないようにさせるという理由があるらしい。仲間意識を持たれると集団でクーデターを起こす可能性が高まるということで、他人行儀な番号呼びが十三番達には義務付けされていた。
この事は十三番も二十五番から噂として聞いて知っていた。といっても十三番はその事にはなんの感想も持たない。強いて言えば十三番達の国なら考えそうなことではあるというのが十三番の感想だった。
十三番が薬物汚染の実態について述べる番組に見入っていると、二十五番が軽い口調で任務のことを確認してきた。
「これから十三番ちゃんは私立和桜女子高校に潜入してもらいまーす。名前は杉野美咲。設定資料はここにあるから覚えておいてねー。私は今回サポートにあたるから」
「今回も、だろう」
十三番は苦言を呈する。前回も見張りとか言って二十五番は手伝いすらしてこなかった。
まぁ、いい。どうせいつだって頼れるのは自分一人だ。そう十三番は一人ごちて設定資料を読み、明日に備えた。