第十六章 到着
「やっぱり?」
聞き捨てならない。十三番は思わず聞き返した。二十五番は何か知っているのだろうか。にやにやと二十五番は笑う。
「いやいや、私は何も知らないよー。知ってるといたら、西園寺さんだよねー」
西園寺は相変わらず、顔色が優れない。俯いたまま、こちらを見ようともしない。その態度も不可解だ。
「西園寺さん、なんなんだこれは」
カプセル弾を持ったまま、十三番は問い質す。
「これは、父の作ったものなんです」
西園寺は浮かない表情でぽつぽつと絞り出すように話始める。
「…どうして?」
西園寺雫の父、西園寺雅道は製薬会社に勤めていた。しかしその会社は至って普通の製薬会社だった。それなりに業界大手で、風邪薬で知られている。こんなカプセル弾をつくるような会社ではない。
状況的に考えて、このカプセル弾が彼らをおかしくした原因と見て、間違いないだろう。十三番にはいくつか解らないこともあるが。
「ギロチンが作られたのも、もともと行われていた絞首刑が残酷だからっていう理由からなんだってね。苦しむ時間を減らしてあげたいっていう善意がギロチンをつくったんだね。でもその結果、ギロチンが導入されたことで死刑がやり易くなった。苦しむ時間を減らそうっていう善意が、より多くの人を殺しちゃったっていうとなんだか悲しいよねー」
唐突に二十五番が語りだした。十三番は理解出来ない。しかし西園寺ははっと二十五番の方を見た。
そして西園寺は初めて二十五番を見た。この車に乗って、ずっと虚ろな目をしていた西園寺は運転手なんて見ていなかったらしい。怯えたような目で西園寺は二十五番に向けた。
しかしそれもどこ吹く風とばかりにひょうひょうとした口調で二十五番は言った。
「ここが私達のアジトだよー」
二階建の一軒家。家の色は白色で、洋風な庭付きの家。といっても豪邸と言えるほどの大きさではない。車を駐車場に停めると、何か企んでいるかのような笑顔を浮かべて二十五番は言った。
「さて、話の続きはアジトでしよっか」