第十三章 校章
先に美咲が窓から街路樹に向かって飛び下りた。それを後ろから西園寺は見ていた。西園寺は、ごくりと唾を呑み込んで呼吸を整えるように深呼吸をした。―自分は杉野美咲を信じることにしたんだ。心にそう言い聞かせて、西園寺は美咲の隣に飛び降りた。
「いたっ」
西園寺は飛び降りた後に、そう声をあげた。上手く受け身がとれなかったのだ。足に衝撃が走る。「見せろ」と美咲は言って西園寺の足を確かめる。
そして西園寺に感心したように美咲は言う。
「捻挫だけか。運がいいな」
「ええ?大丈夫って言ったじゃないですか」
「二階といえども、打ち所が悪ければ死ぬぞ。普通は骨折するし」
「そ、そんなこと、聞いてないです」
「言わなかっただけだ。まぁ、君は体重が軽いから大丈夫だろうと思ってはいたが」
「ちょっ、ちょっと」
「まぁ、君と私では『大丈夫』の定義が違っただけだ。私は嘘はついていない」
それでも不満有りげな西園寺に気がつきつつも、美咲はそれを無視する。
「私の仲間の応援がすぐ来る」
「えっと、連絡をとりあったんですか」
「別に連絡なんてとりあってない。ただ私のこの校章」
そういって実際に左胸についている校章を外してみる。和桜の校章は安全ピンでつけるもので、美咲は外すのに苦労した。この校章は金属製なので硬い。それを西園寺に渡しながら、美咲は続ける。
「発信機になっている。私が学外に出たとなれば、仲間が何らかのリアクションをするだろう」
「へぇー」
しげしげと校章を見つめる西園寺。桜の形をした校章に興味がでたらしい。美咲は西園寺にそれで遊ばせておくに任せた。そして辺りを警戒する。
「あの、この格好目立ちません?補導されちゃいますよ」
警戒している美咲に、西園寺が至極真っ当なことを言ってきた。
「ああ、だからここで待つ。ここなら人通りも少ないしな」
私立和桜女子高校は最寄り駅というものがない。駅に出るスクールバスが朝と夕方にあり、基本的にそれで生徒達は登下校する。スクールバスは二十分ほどで駅から学校を繋いでくれている。駅から不便な場所にあるため、生徒を除けばこの周辺で出るのは不審者くらいだろう。
だというのに、足音が聞こえる。嫌な気配がする。何人か近づいてきている。誰だ。校長を殺した奴の仲間か。はたまた別の勢力か。もしくはただの通りすがりか。
美咲は今の状態を確認する。足手まといが1人。持ち物はさっきナイフを投げたため、予備のナイフはあと一本しかない。煙幕ももう使ってしまった。
さて、二十五番がくるまでどれだけ耐えられるだろうか。十三番は考えてみた。