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十三番と呼ばれた少女  作者: 弓 あかり
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第九章 悪趣味

日曜日がくれば、月曜日が来て、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜と一週間が巡っていく。そのくり返しを何度も過ごしていくうちに、一年が経っていく。そんな日常を十三番が享受していることについては、自分自身懐疑的だった。実際、この学校で過ごす日々は任務を遂行すれば直に終わる。

美咲は月曜日の学校をどこか気だるい気持ちで受けていた。もともと十三番として与えられた任務は西園寺雫の誘拐。この学校への潜入はおまけのようなものだ。そして西園寺雫を調査することは自分の好奇心以外の何物でもない。

「次、杉野。第一次世界対戦が始まった年がわかるか」

うわのそらで授業を受けていると、あてられた。美咲は覚えていなかった。少しだけ、焦る。 ちらりと心配そうに西園寺がこちらを見てくる。すると前の席に座っている斎藤亜利砂が後ろを振り返り、口パクで何か言ってくる。

『いく人死ぬぞ』

「…1914年」

考え、理解する。そして美咲は答えた。

「正解だ」

あっさり教師は言うと、第一次世界対戦の説明を始める。といってもこの授業は日本史なのでそんな詳しいところまで解説したりしないのだが。中国分割や西ドイツの成り立ちについて教師が話すと、終業のチャイムが鳴った。

起立。礼。日直の挨拶で授業が終わる。

授業が終わると美咲は前の席の斎藤に対してこう言った。

「とりあえず、ありがとう」

そっけなく、美咲は言った。

「いえいえ、どーも」

無邪気そうに斎藤は笑う。

「つーかお礼に、ちょっと一緒にトイレ行ってもらってもいい?」

「…は?」

どんなお礼だ。何故か西園寺が心配そうにこちらを見ている。

「別にいいけど」

断る理由もない。それに任務遂行するまでできだけ美咲は目立たないようにきをつけなくてはならない。自分の正体がバレてクラスメートを口封じに殺すのは面倒だ。

「そ、ちょっと、一緒に行こー」

斎藤はどことなく二十五番に似ていた。警戒心が解かれるというか、警戒心を持つのが馬鹿らしくなってくる。

斎藤は自然なノリで教室正面の空き教室に入っていく。

「おい、どこに行く?」

美咲は困惑しながらも追ってはいる。すると斎藤はすかさず扉を閉めた。

「杉野さんってさ、雫と仲いいよね」

「…ああ」

「これからも仲良くしてよね」

「は?」

にこにこと心を読ませない笑顔で斎藤は言った。

「何でそんなことを指図されなくちゃいけない?」

美咲は思わず不平の声をあげる。内容というよりそんなことを斎藤に指図される理由が分からない。

「そりゃ、私が雫の友達だからだよ。あの子、杉野さんには心開いてるし」

「それなら、君が仲良くしてやればいいんじゃないか」

美咲はこのクラスに来てから二日目だが、まだ斎藤と西園寺が話しているところを見たことがない。

「まぁ、そうなんだけどねー」

飄々としている斎藤を美咲は軽く睨む。

「私も雫と仲良い時機あったんだよー。でもある時、ちょっとケンカになって…」

「ケンカって?」

「ケンカってほどでもないかなぁ」

苦笑しながら、斎藤は遠い眼をした。

「高一の時に、雫のお父さんがさ、死んだんだよね。あたしはその時、雫の一番の親友はあたしだって思ってたんだ。だから、真っ先にあたしを頼るって。

でも雫はあたしに弱音を吐いてこなかった。それでね、あたし雫に言ったんだ。『辛い時はいつでも頼って』って」

そこで自嘲するように斎藤はうっすら笑みを浮かべた。

「そしたらさぁ、雫ったら何て言ったと思う?あの子、あたしに『あなたに迷惑をかけるほどでもありません』って言われたんだ。その時、あたしは思ったね。雫はあたしに心開いてないって。

それであたしから雫と離れていったんだ」

「…」

「でもさ、今になって分かるよ。雫は不器用で人の愛しかたが分からないんだって」

「愛?大袈裟だな」

「そうかな。愛なんて巷で使われまくっている言葉じゃない?師弟愛、友愛、親子愛。

まぁ、なんていうか、人との接し方がわかってないというか」

「…どうしてそんなことを私に?」

「罪悪感もあるかなぁ。あたしがいなくなって、雫は孤立してしまったし。

まぁ、だからさ、雫がちょっと秘密主義なところがあっても変わらず仲良くつきあってやんなよ」

軽い調子で斎藤は言うと、ポンと肩を叩く。そして続ける。

「まぁ、杉野さんも不器用そうだけどねぇ。初めて見たときから思ってたんだけと、その前髪片目隠れちゃって邪魔じゃない?せっかく綺麗な眼をしているんだから、見せなきゃ損だよ」

「斎藤さんは悪趣味だな」

西園寺だけでなく、美咲の世話まで焼くつもりか。思わず口からでた。

「え、何が?」

「…語呂の覚え方が」

「あぁ、あれ、塾の先生に教えてもらったんだよ」

はにかんだように、斎藤は笑って見せた。

「ほら、授業始まっちゃうから、早く早く」

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