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第1話「バレットパンツァーオンライン」

「おおおお。これがバレットパンツァーオンラインかぁ」


 僕ことユニオンはホームタウンにたどり着いていた。

 誰もが最初にたどり着く、『はじまりの街』だ。

 未来的な建物が立ち並び、街の中央には高いタワーが設置されている。


 僕はいわゆる初心者の服的な服装をしている。黒のタートルネックに緑のカーゴパンツ。茶色のコンバットブーツを履いている。

 ティターニアオンラインの時は中世ヨーロッパ的な服装だったからなあ。近代的な服装にちょっと違和感を覚える。まあ、すぐに慣れるだろう。


 僕はさっそく色んなウィンドウを呼び出してみる。操作感覚はティターニアオンラインの時と変わりは無い。クエストウィンドウやイベントウィンドウのありかも変わりは無い。

 フレンドリストを呼び出す。当然まっさらな状態だ。

 僕は苦笑する。ティターニアオンラインの時には、たくさんのフレンドリストで埋まっていたものだ。


「そういえば、みんなはどうしてるのかな……」


 一緒にパーティを組んだギルドの人たち。ギルドは違えど、争ったり協力したりしたプレイヤー達。彼らはどうしているのだろうか。

 僕と同じように、このバレットパンツァーオンラインに来ているのだろうか。


『生きてる生きてる? ユニくん生きてる?』

「うぉあっ!?」


 僕の眼前にいきなりウィンドウが開き、思わずのけぞった。個人通信(ウィスパー)だ。名前さえ知っていれば遠く離れた人とも通話ができる便利な機能だ。


 個人通信(ウィスパー)を飛ばしてきた人の名前を見る。知った名前だった。ティターニアオンラインの時からの知り合いだ。どうやらそいつもこのゲームにコンバートしていたらしい。


「……シャルケ」

『おお! 生きてる! (なま)ユニくんだ! こっち来てたんだねえ。そうだよ、シャルケだよー』


 個人通信(ウィスパー)ウィンドウから甘ったるいアニメ声が漏れてくる。これで地声なんだから驚きだ。シャルケはぎひひひひ、と女性らしからぬ笑い声を発する。うわ、やっぱりシャルケだ。


『よし、すぐ合流しよう。すぐ行くから待っててねぇぇぇ!』

「いや、いい! シャルケが来るとわけがわからなくなるから、来なくて――――」


 ――がっしと背後から肩をつかまれた。


 接触エフェクトがバショーンと飛び散る。

 誰かと問うのは愚問だろう。振り返ると予想通りの顔がそこにはあった。


「来ちゃった」


 にんまりと笑う長身美女がそこに立っていた。

 年齢は僕と同じくらいだろうか。目はぱっちりと大きく、猫科を思わせる。すっきりとした顔立ちは、可愛いというより、美しいの部類に入るだろう。

 輪郭を縁取るピンク色の髪は、ロングのストレート。黒のレザーを思わせる素材の、身体にピッタリとしたバトルスーツを着用している。

 そして百八十センチを超える長身。すらりと健康的に伸びた肢体は、まるアスリートのようにひきしまっている。その上で、胸はやや小ぶりだが女性的なラインは失っていないのだから反則ものだ。


 並ぶと身長差が強調されるのでちょっと嫌なんだけどな。

 そういえば、それを面白がってギルド長はよく僕とシャルケを無理矢理組ませてたっけ。おかげでシャルケとのコンビネーションばかりが伸びて、他の人より効率はあがったけど複雑な気分になった思い出が。


 感慨にふけっていると、びっとシャルケが手を挙げて挨拶する。


「ユニくん。やっほ」

「やっほ、じゃないよ。シャルケもこのゲームやってたんだ」

「うん。やることないからねえ。きっとユニくんも暇人だからこのゲームにくると思ってたよ」

「言ってくれるね……」


 僕は微妙な顔をした。読みどおりなのだからなんとも言えない。

 ポーンと軽い音を立ててフレンドリストが開いた。シャルケのフレンド申請だ。このあたりのシステムも変わっていなくて助かる。当然か。

 フレンドリストに登録すると相手のログイン状況がわかったり、離れていてもパーティ申請ができたり便利なのだ。さっそくシャルケのフレンド申請を許可しておく。

 ついでにパーティ申請も送って組んでおく。視界の端にシャルケのHPバーが表示された。


「ぎひひひ。これでいつでも……」


 シャルケが何かつぶやいている気がするが、気にしないことにしておこう。予想通りの答えが返ってきたら怖い。


「……ん?」

「どうしたの、ユニくん?」

「いや、どうしてシャルケは僕のログインがわかったの?」

「ああ、そのこと? 何でもないよ。ログイン中は十分に一回個人通信(ウィスパー)を飛ばしてただけだよ! 一日一時間はスタートポイントの塔を見張っていたしねえ」


 そっかー。それなら僕がログインをしたらわかるね。うん。


「衛兵! 衛兵えええええええい!!」

「あはははははは! 衛兵じゃなくてこっちじゃロイヤルガードだよ」

「うるさい黙れ!」


 僕は盛大に頭を抱えた。

 そうなのだ。技術(プレイヤースキル)も一流の長身美人。それなのにいまいちなのは、とりもなおさず『変人』だからだ。その行動はいつも読めない。『迷惑女王(トリックスター)』シャルケ。それがこの人だった。


「さ、ユニくん。さっそく実践あるのみだよ!」

「ちょ、ちょっと待って!」


 シャルケはがっしりと僕の手を掴むと、ずんずん街の外へと歩いていくのだった。

 


 はじまりの街、外縁部。はじまりの草原。


 僕は小高い丘に立つと深呼吸した。

 街は近未来的なデザインになっているが、外のデザインはティターニアオンラインと変わらないなあ。

 草原の草が風に揺れ、空を鳥が飛ぶ。遠くには森が見える。意外と自然が多い。


 なんだっけ。たしか未開惑星に二つの勢力の宇宙船、だっけ?


 バレットパンツァーオンライン。略してBPO。

 宇宙を旅する大移民時代。この自然豊かな惑星を取り合って、二つの勢力がその勢力圏を争っている、という設定だったはずだ。僕らプレイヤーは宇宙傭兵となり、銃やブラスター銃などを使って相手勢力や原住モンスターを打倒するのが目的だ。

 プレイヤーは二つの勢力のどちらかを選ぶことができて、ちょっとだけイベントやクエストが変わるとか。

 勢力が違っても必ずやりあわないといけないわけではない。通常のイベントやクエストでも競争はあれど対戦はないように調整されている。相手勢力が放った機械兵器やNPC敵キャラクターと戦うようになっているのだ。

 未来的なデバイスを使いながら、レベルを上げ、ステータスを上げ、スキルを取得しながら強くなり、ゲームを楽しむのだ。


「外に出るときは装備をするんだよ! ぶきやぼうぐは そうびしないと いみがないよ!」


 どこのRPGだよ。

 シャルケが言いながら装備ウィンドウを出す。鼻歌を歌いながら操作する。光の粒子を弾けさせて、シャルケの服の上からブレストプレートと手元にショットガンが顕在化(アクチュアライズ)する。

 ステータスは相変わらずの(タンク)型なのだろうか。ティターニアオンラインの時は高防御力と高攻撃力のステータス振りで、スタイルは違えど僕と最前線で戦っていたものだ。


「どこのRPGなのさ」


 言いながら僕は装備ウィンドウを開いた。確かにインベントリには装備が入っている。簡素な胸当て。すぐに装備欄に叩き込んで顕在化(アクチュアライズ)


 武器は……。


「ハンドガン? ……と、これなんだ熱線銃(ブラスター)?」

「そうだよ?」

「剣は?」

「ないよ? ナイフくらいならあったかな?」


 たしかにインベントリの近接武器欄にナイフが入っていた。顕在化(アクチュアライズ)するとナイフの鞘とベルトが胸元に装着される。

 僕は慣れた手つきでナイフを抜く。


 ……短い。銃器が中心のこのオンラインゲームにおいて、補助的な意味しかないからだろう。


 俺はがっくりと肩を落とした。まあ、わかっていたけどね。

 ティターニアオンラインの時には、両手に剣を装備する二刀流スタイルで戦っていたものだ。手数が多く、動きも遅くならず、武器防御もできる。なにより剣はカッコイイ。


 顕在化(アクチュアライズ)をするとホルスターに収まったハンドガンが出現する。こういった銃器に詳しいわけではないので型番などはわからないが、男の子としてはちょっと心躍るな。

 僕はホルスターから銃を抜き放つと、思わず色んな方向に向かって構えたりしてみる。シャルケのにやにやした視線にぶつかって、恥ずかしくなってやめた。


「この辺は初心者用の敵が出るからね」

「おお……あれかな?」


 風船に機械が申し訳程度にくっついているモンスターがふよふよと漂ってきた。モンスターの頭の上には、<バルーン>と名前が浮いている。

 バルーンはこちらを認識すると、ゆっくりとした移動速度で接近しようとする。

 俺は両手でハンドガンを保持すると、かっこうだけはそれなりの射撃を行う。

 ガゥンと重い発射サウンドが流れ、バルーンに命中する。HPゲージがないため、どれくらいで倒せるのかよくわからない。何発か撃ち込んでいるとようやくバルーンがポリゴンになって爆散した。


「へえ、これが戦闘かあ」

「どう? 楽しめそう?」

「いや、まだわからないよ」


 シャルケがぎひひひと笑いながら問いかけてくるのに僕は答える。


「でも、もうちょっとやってみるさ」


 シャルケが何故か黙りこんで、僕の顔を見つめる。何かついているんだろうか。なんとなく真剣な顔つきだ。


「ユニくん、またいっしょに冒険できて、私は嬉しいよ?」

「そうだね。知ってる人がいて、僕もちょっと安心だよ。これから、よろしく」

「うん。よろしく」


 僕とシャルケは、がっちりと握手をした。なんだか可笑しく思えて、顔を見合わせたまま二人とも噴き出したのだった。

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