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「Let’s PLAY」

作者: 倉橋里実

筆者の経験を元に、実際に舞台裏で起こった悲喜こもごもを詰め込んだ

「舞台戯曲(台本)」

となってます。(実際に公演をおこないました)


上演時間、約1時間。


舞台を全く知らない人にも、

「舞台台本」から、

舞台の面白さを少しでも感じて貰えれば幸いです。


『Let‘s PLAY』



                          作・演出  倉橋里実




登場人物



進藤 守      市民ホール 舞台管理チーフ


花本 和美       〃   舞台管理スタッフ


ジーザス森田      〃   音響スタッフ


進藤 京子       〃   照明チーフ  進藤の妻


田中 美香       〃   照明サブ


上野山 浩二    アルバイト




中井 渡      中井の父




鳩山 啓介     黒崎高校演劇部 顧問


白鳥沢 玲子      〃     部長  3年生 


雁屋 鴫子       〃     部員  3年生


鶴田 真由子      〃     部員  3年生


荒川 鈴女       〃     部員  2年生 大道具


平田 鴨芽       〃     部員  2年生 照明・衣装


石橋 燕        〃     部員  2年生 音響・小道具


雁屋 トキ子    鴫子の母 PTA会長




小杖 凛      黒崎高校放送部 部員


伊藤 蘭        〃


------------------------------------------------------------


     キンソンMAXからFO・・・

     M、FOしかけたと思ったら、いきなりLvが上がったり下がったり・・・


     溶明


舞台はとある市民ホールの下手袖。

操作卓には舞台管理・進藤が資料を手に座っている。

袖幕近くには、照明フロア担当の美香が、SSの微調整などを行っている。


不規則なMのレベルはサウンドチェックだったようだ。

次に別の曲やSEなどがランダムに出る。

続いて、マイクテストの声が響く。

「チェック・・・ワン・ツー・・・ハ、ハ、ハ、ハ・・・」などと。


そこにやってくる花本。


花本   「進さん、袖周りのチェック完了っす! あと音響さんもチェックOKですって」

進藤   「おう」

花本   「しかし・・・久しぶりっすね」

進藤   「何が」

花本   「このホールで芝居なんて」

進藤   「そっか?」

花本   「またまた! 嬉しいくせに!」

美香   「あ、それ聞きました。 昨日進さん、京子さんに内緒で要望以上の照明吊り込んだって」

進藤   「ハナ!」

花本   「・・・あ、すんません」

美香   「それより、京子さん遅いですねぇ」

花本   「あ、ですね」

進藤   「あいつは・・・さっき起きた」

美・花  「・・・・・ええ~~~!!!」

進藤   「今、連絡あってな・・・本番ギリだ」

花本   「マズイっすよ~!」

美香   「進さん、起こしてあげればいいのに・・・奥さんなんですから」

進藤   「(睨む)」

花本   「(美香に小声で)今、別居中なの!」

美香   「!! あ、えと・・・」

進藤   「まあ、じたばたしてもしょうがない。 最悪、美香ちゃん調光頼むわ」

美香   「? ・・・ええ~~?!! むむ無理ですよ~! 私ひとりで調光なんて!!」

進藤   「どってことない内容だ。 地明かりと暗転ができれば充分だ。 お前も照明の端くれだろう」

花本   「いや、でも・・・」

進藤   「お前もそろそろ一人前の仕事をやってみたらどうだ?」

美香   「・・・わかりました、やってみます!! ・・・あ、調光室でキッカケのチェックしときます!」


     美香、去る。


花本   「巧いね、進さん」

進藤   「なにが」

花本   「いやいや~」

進藤   「所詮は高校演劇だ。 なんてことはねぇだろ」

花本   「またまた~」


     と、喪服姿の初老の人物が、不審げにこちらをのぞいている。


進藤   「どうされました?」

花本   「関係者の方ですか?」


     慌てて去る喪服の男。


花本   「あ、ちょっと! ・・・なんだ? 怪しいっすね」

進藤   「まあ、保護者かなんかだろうが、気をつけとけ」

花本   「らじゃっす」

進藤   「そういや、今日、バイトひとり発注してたよな?」

花本   「ええ。 そういや遅いっすね」

進藤   「ち、やっぱ最近の若いやつは」

花本   「ああ!! そういや、中井さん!」

進藤   「はぁ?」

花本   「この時間で来てないってことは、絶対!いじけてブッチですよ!! 進さん、昨日苛めすぎ!」

進藤   「馬鹿野郎。 使えねぇヤツは使えねぇんだよ。 あのど素人が」

花本   「またまたそんな言い方。 どうします、転換とか」

進藤   「馬鹿ひとりいなくてもどうってことない。 バイトの方がまだマシだ」

花本   「またまた~」


     と、黒いTシャツに黒パンツ姿の若い男・バイトの上野山が走り込んでくる。


上野山  「お、遅くなりました~!! おはようございます!!」

花本   「あ、バイトくん?」

上野山  「はい!」

花本   「待ってたよ、よろしくね。 私、花本。 こっち(進藤)がこのホールを仕切ってる

進藤さ・・・」

進藤   「名前は?」

上野山  「あ、はい! 上野山です!」

進藤   「は?」

上野山  「???」

進藤   「ややこしい」

上野山  「は?」

進藤   「『上野』か『野山』かはっきりしろ。 てめえ、なめてんのか?」

花本   「進さん、そんな理不尽な」

進藤   「てめえ、この仕事初めてか?」

上野山  「え? あ、はぁ」

花本   「進さん! ・・・(上野山に)ごめんね、変に値踏みするの、あの人の悪い癖だから」

上野山  「はぁ・・・」

花本   「(進藤に)ほら、彼! 初めてにしてはちゃんと黒の服、着てきてるし」

進藤   「・・・靴は?」

花・上  「え・・・・・」


     よく見ると、上野山の靴は真っ白だった。


上野山  「え? あ・・・靴も??!!」

進藤   「ハナ」

花本   「はい」

進藤   「黒ガム」

花本   「・・・はい」


     花本、黒のガムテープを上野山の靴にべたべた貼り付けだす。


上野山  「うわぁ~~!! 舞台スタッフってそれほどまでに!!」


     そこに、スーツ姿の男が所在なさげにやってくる。


男    「・・・あのぉ」

花本   「あれ? 演劇部の子? あ、もう衣装着てんだ~。 でもまだ開演まで時間あるからね」

進藤   「ボク、楽屋で待機しててもらえるか」

男    「いや、あの~~」

進藤   「本番前にウロウロされちゃ邪魔なんだよ」

男    「あ、えと・・・お世話になります、演劇部顧問の鳩山です(名刺を切る)」

進・花  「!!! これはこれは! どもども・・・」


     大仰に頭を下げる進藤と花本。


鳩山   「いえいえ、いいんです。 僕、どこにいってもこんなですから。 よく未成年に間違え

られるので、年齢が分かるよういつも保険証も持ち歩いてます(保険証を取り出す)」

進・花  「いやぁ、はっはっは」

鳩山   「えと・・・うちの生徒たちはまだですかねぇ」

花本   「え? 予定では先生のマイクロバスに道具積んで、一緒に来るんじゃ?」

鳩山   「ええ・・・それが、昨日の晩、部長から『バスで一緒にいくなんてありえませんわ。

      折角ですが、こちらはおのおの現地集合で行かせてもらいます』・・・と、はは」

進・花・上「・・・・・」

鳩山   「折角、レンタカー借りたのに・・・はは、ひとりでマイクロバス運転なんて、なかなか

      経験できないですよね。 はは、存外、楽しいですよね・・・ははははは・・・もう

死んじゃおうかな・・・」

花本   「先生!! とりあえず楽屋で一息つかれては?!」


(声)  「あ~~! いたぁ~~!!!」


     演劇部の鈴女・鴨芽・燕が、それぞれ荷物を抱えてやってくる。


燕    「鈴女ちゃん、鴨芽ちゃん! 先生いたいた!」

鴨芽   「先生! もう! なんで先に行っちゃうんですか?!」

燕    「そうですよ! ずっと校門の前で待ってたのに!」

鈴女   「(美術セットを引きずりながら)重っ! めっさ重っ!! ありえない!!

死んだらいいのに!!」

鳩山   「やっぱ、そっかぁ」

花本   「先生!! ・・・君ら! 先生のバス断ったの君らでしょ?!」

燕    「え? そんなこと言ってませんよ」

鴨芽   「先生、誰がそんなこと言ったんですか?」

鳩山   「え、あ、いや・・・部長の白鳥沢さんから電話があって」

鈴女   「やっぱ、あいつかぁ~~~死んだらいいのに」

鳩山   「そっかぁ・・・」

花・上  「いやいやいやいや!!」

燕    「仕方ないので、うちのお父さんに車出してもらったんですよ」

鈴女   「ありがとね、燕ちゃん」

鳩山   「それは・・・僕の命で精算できるかなぁ」

進藤   「ともかく!! 揃ったんなら、必要なものはここに置いて楽屋に待機! よろしく」

花本   「で、お願いします」

演劇部  「はぁい」


先生・演劇部の3人、去る

     入れ替わりに、先ほどの喪服の男がまたやてくる。挙動不振である。


進藤   「ちょっと!」

花本   「バイトくん! 捕まえて!!」

上野山  「! はい!!」


     あっさり捕まる男。


花本   「あんた、誰? 怪しいなぁ」

進藤   「名前は?」

男    「あ、えーと・・・中井と申します。 息子がいつもお世話になっております」

進・花  「・・・・・・・・・ええ~~~??!!!」

花本   「あ、あのえ~っと・・・あの、もしかして中井さんのお父さまで?」

中井   「左様で」

花本   「進さん!」

進藤   「しかしまた、お父さんが今日はここになんのご用で?」

中井   「いやね、今朝息子が時間になっても出てこなくて・・・聞いてみたら『仕事に行きたくない』

      と。 いや、なにがあったか知りませんが『行きたくない』とは言語道断。 しかし息子も

      がんとして引き篭もっている・・・これでは仕事場の皆さまにご迷惑がかかると思い、

      僭越ながら不肖、私が代わりに駆けつけた次第でして」

花本   「・・・はぁ。 お気持ちはありがたいんですが」

進藤   「(喪服を指して)その格好は」

中井   「あ! これは息子から『舞台スタッフの衣装は黒が基本』と聞きまして。 とはいうものの

      私、黒い服といえばこれしか持っておりませんで・・・ダメでしたか?」

上野山  「あ、シャツが白いです。 それはダメです。 ほらこの黒ガムで(進藤に殴られる)」

花本   「(小声で)どうします?」

進藤   「適当に掃除でもさせてお茶を濁せ。 こっちはバツが悪い」

花本   「もう進さんのせいで」

進藤   「(時計を見て)しばらく離れても大丈夫そうだな。 お父さん、すみませんが舞台周りの

掃除をお願いできますか」

中井   「了解であります!」

花本   「掃除道具、上手にありますんで」

中井   「わかりました」


     中井、上手側に去る


進藤   「んじゃ、俺らは一服するか。 (インカムを取って)美香ちゃん、ちょっとプクイチ

      いってくらぁ」

美香   「(インカムからの声)は、はい! あ、あの、えーっと・・・なにこれ?!

      ああ、パッチが! パッチがぁぁあ~!!!」

花本   「いっぱいいっぱいみたいっすね」


     進藤・花本、去ろうとする。

     上野山もついてこようとすると、進藤に鬼のような目で睨まれる。


上野山  「え?」

花本   「袖、無人はまずいから、ちょっと見てて。 ゴメンね。 あ、その辺勝手に触らない

ように。 じゃよろしく、上野くん」

上野山  「上野山です」


     2人、去る。

     所在なさげに周りをうろうろする上野山。

     機械に触ろうとするが、やめておく。

     操作卓に座り、インカムのヘッドフォンをつけて遊びだす。


上野山  「ぶい~~ん、ぎゃぎょ~~ん!! くそう! ニュートロン・ジャマーか?!

      ぴっぴきぴっきぴ! 左舷、熱源! なにぃ? ・・・ザフトの新型か??」


     そこにテンション高く駆け込んでくる女生徒2人。

     放送部の凛と蘭である。


蘭    「うわあ! これが舞台! 舞台ですよ~!」

凛    「正確には舞台袖、ですよ~!」

蘭    「でかいね~! リンリン!」

凛    「すごいね~! ランラン!」

蘭    「いよいよ我が放送部の晴れ舞台でありますよ!」

凛    「我々のメジャーデビューの第一歩でありますよ!」

蘭    「(上野山を見つけて)は! リンリン隊員! スタッフさん発見!」

凛    「なんと! ランラン隊員! 早速、攻撃開始であります!」


     2人、上野山を挟むように密着し


凛・蘭  「はじめまして、おはようございます!! 私たち、本日影アナとMCとナレーションを担当

      致します放送部の」

凛    「凛でぇす!」

蘭    「蘭でぇす!」

凛・蘭  「2人併せて、『**#$$$@%&&*』(註・2人同時に別々のコンビ名を言う)でぇす!!」

蘭    「ちょっと、打ち合わせと違うじゃないの!」

凛    「だから私は『*****』の方がいいって言ったじゃない!」

蘭    「そんなのダサいわよ。 『######』の方が絶対クールだって!」

凛    「じゃあ、スタッフさんにご意見を伺いましょう!」

蘭    「激しく同意だわ!」

凛・蘭  「(上野山に)どっちがいいですか、スタッフさん?!」

上野山  「・・・あのぉ、僕、ただのバイトでして」


     間


凛・蘭  「ちっ、なぁ~んだ」

凛    「無駄にテンション上げて損しちゃったね」

蘭    「すこぶる同意だわ」

上野山  「なんかすいません」

凛    「演劇部のみんなはもう来てる?」

上野山  「え? タメ口?」

蘭    「(置いてある道具などを見つけて)あ、もう来てるっぽいよリンリン」

上野山  「なんか楽屋の方に行ったみたいです」

凛・蘭  「サンキュー・ブラザー!」


     凛・蘭、行こうとすると、演劇部部長・白鳥沢が部員の雁屋・鶴田と共に

     やってくる。


白鳥沢  「おはようございます~! ・・・(道具を見つけて)あら?」

凛・蘭  「おはようございます!」

白鳥沢  「(上野山に)この度はお世話になります。 演劇部部長の白鳥沢玲子と申します」

雁屋   「雁屋鴫子です」

鶴田   「鶴田真由子です。 よろしくお願いします」

上野山  「あ、ども」

凛    「あ、その人ただのバイトくんですよ。 フリーター」

蘭    「そしてニート」

鶴田   「まあ、かわいそうに」

上野山  「違います」

白鳥沢  「うちの2年の子たち、もう入ってまして?」

上野山  「ええ、先生と一緒に楽屋の方に」

雁屋   「道具や衣装をほっぽらかして・・・なにやってんだか」

鶴田   「まあまあ、私たちより先に劇場入りしてるんだから偉いじゃない」

雁屋   「そんなの当たり前」

鶴田   「でも・・・」

白鳥沢  「バイトさん、他のスタッフさん方はどちらに?」

上野山  「多分、喫煙所かと」

白鳥沢  「では先にスタッフの皆さんにご挨拶致しましょう。 これは大事なことですよ、

雁屋さん、鶴田さん」

雁屋   「そうですね。 さすが部長」

鶴田   「でも、これで部員全員集まったんだったら、まずみんなで顔合わせを」

白鳥沢  「鶴田さん。 外部の劇場ではまずスタッフさんへのご挨拶が基本。 今後も舞台に立つ

      人間としてやっていくなら、そこはキチンと覚えておいてくださいましね」

鶴田   「・・・はい」

上野山  「あ、部長さん、顧問の先生泣いてたよ~。 イジワルしちゃダメじゃない」

白鳥沢  「・・・ふふふふふ(思い出し笑い)」

上野山  「???」

白鳥沢  「では皆さん、参りましょうか」

凛・蘭  「あの!!」

白鳥沢  「なにかしら?」

凛    「この度は、我が放送部に大役をお任せいただきありがとうございます!」

蘭    「影アナ・MC・ナレーションと、立派に努めさせていただく所存であります!」

雁屋   「まあ、元気なのはいいけど」

凛・蘭  「え?」

白鳥沢  「ごめんなさいね。 たまたま今回うちの2年で流暢な喋りをできる人材が

      いなかったものですから、仕方なく」

凛・蘭  「仕方なく?」

雁屋   「出演する私たちや、ましてや主役の部長に影アナなんてできるわけないでしょ?

我が部としても不本意なの。 察しなさいよ」

鶴田   「ちょっと、なにもそんな言い方」

白鳥沢  「そんな訳で、ご無理申しますがよろしくお願いしますわね」

雁屋   「せいぜい噛まないように、よろしく」


     白鳥沢・雁屋、去る


鶴田   「ごめんなさいね! ホント、悪気はないと思うの。 本当に・・・今日はわざわざ

      ありがとう。 よろしくお願いね」


     鶴田、去る


上野山  「あの鶴田って子はいい子だねぇ」

蘭    「・・・むっかぁー」

凛    「・・・かっちーん」

蘭    「この怒りをどこにぶつければいいのだリンリン」

凛    「私の心はメルトダウンだわランラン」

蘭    「(影アナマイクに目をつけ)は! あのマイクは?!!」

凛    「放送部的には、マイクにシャウトしてぶつけるしかないと思うわ!」

蘭    「くまなく同意だわ!」


     凛・蘭、影マイクを握りしめ


凛・蘭  「白鳥沢に雁屋! ファック・ユー!!!!!

      ・・・はぁ、すっきりした」

上野山  「ちょっと! マイクでそんなこと叫んだら!」

凛    「大丈夫よ、カフ上げてないんだから」

蘭    「私たちこれでもプロを目指す身。 その辺は心得てるわ」

上野山  「カフって?」

凛    「ほら、このマイクをオンするスイッチ」

上野山  「ああ、この一番上まで上がってるやつね」

蘭    「そうそう上まで・・・」

凛    「上まで?」


     しばし間


凛・蘭  「なんですとぉ???!!!」


     駆け込んでくる進藤・花本


進藤   「誰だ! 勝手にマイクで叫んだやつは?!!」

花本   「しかもファッ・・・て」

進藤   「こら野山!! てめえなにしてた?!」

上野山  「いや、これはその・・・」

凛    「すすすすみません! あの私たち・・・」

蘭    「その、ちょっと手違いというか」

進藤   「なにが手違いだ、馬鹿! で、なんだてめえら」

上野山  「放送部の子らで、今日ナレーションとかするそうで・・・その、彼女らにも同情すべき

      点もありまして」

進藤   「うるせぇ!!」

凛・蘭  「すみませぇん・・・」

花本   「あぁあ、ジーザスさん、怒るよぉ」


     と、いつの間にか一同の背後にいるジーザス。

     モヒカン・メッシュのタンクトップ・皮パンツに安全靴

メイクにタトゥーにピアス・・・

バリバリにパンキッシュな出で立ちである


ジーザス 「・・・うう」

一同   「わぁ~~!!!!!」

進藤   「ジーザス! すまない! 俺の管理ミスだ。 二度とさせない!」

花本   「ジーザスさん、高校生がやったことですし、ここは穏便に、ね?!」


     びびりまくる凛・蘭・上野山。

     ジーザス、じと~~っと周囲を見渡し、凛が握っていたマイクに目がとまると、

     おもむろに凛に近づく。


凛・蘭  「ひいぃい~~~」


     ジーザス、マイクを受け取ると、異常がないかチェックし、カフを上げて


ジーザス 「(マイクを通して凛・蘭に)・・・気をつけて、ね」


     カフを下げ、マイクを卓上スタンドに直すと、おずおずと去ってゆく。

一同、ため息。


花本   「よかったですね、今日は機嫌が良くて」

進藤   「客入れ前だし、マイクに異常もなかったからだろう。 命拾いしたな、てめえら」

上野山  「・・・あの人、音響さんですか?」

進藤   「腕は確かだし根はいいやつなんだが、人見知りが激しくってな」

花本   「マイク通してしかまともに喋れないの」

上・凛・蘭「はぁ・・・・・」


     そこに凄い形相で駆け込んでくる雁屋トキ子


トキ子  「ちょっとなんですの? 今の放送! ロビーまでまる聞こえでしたじゃ

      ありませんこと?!」


     別方向からも、鳩山・白鳥沢・雁屋・鶴田、

     それに鈴女・鴨芽・燕たちも駆け込んでくる。


鈴女   「どうしたんですか、今の?!」

白鳥沢  「なにかトラブルでも?」

トキ子  「(雁屋鴫子を見付け)あ、あなた!!」


     慌てて身を隠す雁屋。


進藤   「皆さん! お騒がせして申し訳ない。 ちょっと音響のトラブルでして」

一同   「え?」

進藤   「こちらのミスで、芝居で使う効果音が間違って出てしまいました。 本当に申し訳ない」

花本   「進さん?」

凛・蘭  「いやあの・・・」

進藤   「以後気をつけます。 いかんせん、舞台は生ものなもので・・・お察しください」

鳩山   「じゃ、しょうがないですね、ははは・・・」

トキ子  「し、しかしですよ! よりによって私の名前が・・・「雁屋」という名前が叫ばれて

      おりましたわよ! そう! 白鳥沢さんのお名前も! しかもファ・・・いやその、

とてもお下劣な言葉と共に」

進藤   「たまたまでしょう。 よくある名前ですし」

上野山  「あるかなぁ(花本に殴られる)」

進藤   「よくある・・・高貴なお方のお名前だと思われますが」

トキ子  「は? いや、まあ・・・」

進藤   「ところで失礼ですが、保護者の方で?」

トキ子  「一応、PTAの会長を務めさせ頂いております。 今日は来賓として・・・」

進藤   「どうりで! 気品に溢れていらっしゃる。」

トキ子  「まあ、その・・・」

進藤   「プロである我々の、いつにない緊張も会長のせいでしたか。 いや、どうりで。

しかしご安心ください。 本番はこのようなミスがなきよう、完璧に努めます。 生徒たち

のため・・・そしてあなたのために」

トキ子  「まあ、プロの方がそこまでおっしゃるのでしたら・・・『弘法も筆の誤り』と申しますし・・・」

進藤   「ああ! その言葉を探していたんです!! さすが会長!!」

トキ子  「では、重々お気をつけになって・・・よろしくお願いしますわね」


     トキ子、思いだしたように鴫子を一瞬睨みつけ・・・去る。


凛    「あの、その・・・なんていうか」

蘭    「助けてもらって・・・」

進藤   「ふん、助けたわけじゃねえ。 ややこしいのはゴメンだから適当に巻いてやっただけだ」

花本   「またまた~」

進藤   「うるせぇ」

白鳥沢  「雁屋さん、お母様にご挨拶しなくてよろしかったの?」

鈴・鴨・燕「え?!!」

燕    「今の、雁屋先輩のお母さんだったんですか?」

鴨芽   「PTA会長だったんだ」

鈴女   「どうりで・・・似てますね」

燕    「鈴女ちゃん!」

鶴田   「部長。 雁屋さんは、その、お母様とは・・・」

雁屋   「鶴田さん、余計なことは言わないで」

鶴田   「あ・・・はい」

雁屋   「(2年生たちに)ほら、あなたたち! ボーっとしてないで早く準備したら?!

      衣装・小道具は楽屋! セットはここでスタッフさんにチェックしてもらって!」

鳩山   「まあまあ雁屋さん、まだ時間はあるんだし、そんなに・・・」

雁屋   「先生は黙ってて」

鳩山   「! ・・・そうですね、僕、役立たずですしね・・・もう死・・・」

雁屋   「死ぬとかすぐ言わない!」

鳩山   「・・・」

雁屋   「ほらあなたたち、返事は?!!」

鈴・鴨・燕「はいっ!!」


     雁屋、不機嫌に去る。

     衣装を持った鴨芽・小道具を持った燕も後を追いかける。

     2人、去り際に進藤に


鴨芽   「あの! 後で音響と照明の打ち合わせもさせて頂きたいんですが」

燕    「あ、そうそう! お願いします!」

進藤   「分かったから早くいけ! またどやされんぞ!」


     鴨芽・燕、頭を下げて去る。

     鈴女は道具のチェックをし始める。


白鳥沢  「すぐカリカリするのは雁屋さんの悪い癖ですね」

鶴田   「あの部長・・・雁屋さんは」

白鳥沢  「知ってますよ。 素直じゃないんだから」

鶴田   「え?」

白鳥沢  「(改めて進藤たちを見て)あら、私としたことが! スタッフの皆さん、ご挨拶が

遅れました。 部長の白鳥沢と申します。 本日はお世話に・・・」

進藤   「は?」

白鳥沢  「何か?」

進藤   「ややこしい」

白鳥沢  「はい?」

進藤   「白鳥か鳥・・・」

花本   「(遮って)この人、チーフの進藤! 進さんね! 私、花本! こっちはバイトの

上野くん!!」

上野山  「上野山で・・・」

花本   「よろしく!!」

白鳥沢  「ご丁寧にどうも。 では鶴田さん、私たちも準備に入りましょうか」

鶴田   「はい。 ・・・じゃ、鈴女ちゃん、ひとりで大変だろうけどよろしくね。 手が空いたら

手伝いにくるから」

鈴女   「はい。 ありがとうございます」

白鳥沢  「あ、放送部のお二方」

凛    「やばっ!」

蘭    「忘れてた!!」

白鳥沢  「どうかされまして?」

凛    「なんていうか、その・・・」

蘭    「さっきのアレはその・・・」

白鳥沢  「?? ああ、あの放送ね。 間違いは誰にでもあるものですわ。 お気になさらず」

凛・蘭  「はぁ・・・」

白鳥沢  「しかし、最後の方の言葉は初めて聞く言葉でしたが・・・ ラテン語でしょうか?

 私、不勉強で」

花・上  「いやいやいやいや」

鶴田   「部長、変更の件では?」

白鳥沢  「そうでした。 恐縮ですが、実はナレーションに若干変更がありまして・・・

ご一緒に楽屋までお願いできます?」

凛・蘭  「はぁ」

鳩山   「あのう、僕は・・・」

白鳥沢  「あら先生、いらっしゃってたんですか?」

鳩山   「ははは・・・」

白鳥沢  「そうそう、部のホームページの更新が滞っておりましたわ。 お手すきでしたら

更新しておいて下さいましな」

鳩山   「はぁい。 よかった、ノートパソコン持ってきておいて」

花本   「どっちが教師なんだか」

白鳥沢  「では参りましょうか。 鈴女さん、すみませんがお願いね」

鈴女   「・・・はい」


     白鳥沢・鳩山、去る。

     鶴田、去り際に凛・蘭に


鶴田   「2人とも、もしかしたら勘違いしてるかもしれないから言うんだけど」

凛・蘭  「???」

鶴田   「部長のアレ、天然だからね。 本人は全っっっく悪気はないから。 『素』なの、アレ」

凛    「ええ? そうなんですか?!」

蘭    「嫌味全開だと思ってた」

凛    「まあ、あれを悪気があってやってたらブチ切れてるけどね」

蘭    「もれなく同意だわ」

上野山  「切れたじゃん」

鶴田   「私も慣れるまで大変だったんだから。 でも、あれが演技となると化けるのよねぇ」

一同   「へえ~~~」

鶴田   「まあ、ちょっと変わった人だけど悪い人じゃないから。 そういう人だと思って

接してあげて」

凛・蘭  「了解!」

鶴田   「鈴女ちゃんも、ね」

鈴女   「! え、あ、はい」


     鶴田・凛・蘭、去る。


上野山  「まあ、役者って変人が多いって言いますからねぇ」

花本   「鈴女ちゃん・・・だっけ? セットってどんなの? 見せてよ」

上野山  「あ、見たい見たい」

鈴女   「あ、はい・・・ これとこれなんですけど」


     鈴女が出してきたのは、ぺらぺらのダンボール製のものであった。

     背景画は模造紙に描かれているというお粗末なもの。


進藤   「(ため息)」

花本   「えっと、これ・・・を、どうするのかなぁ~?」

鈴女   「これとこれは舞台のセンターと、上手の方に立てたいんですけど。 あと背景は

一番後ろに」

花本   「どうやって?」

鈴女   「え?」

花本   「いやだから、このまんまじゃ立たないから。 人形つけるにしてもぺらぺらだし、

      せめてベニヤかコンパネに張ってくるとかさ」

鈴女   「あ、あの」

花本   「(独り言)平台にタッカーで打つかぁ。 いやでもなぁ・・・ もうちょっと考えて

作って欲しかったなぁ」

上野山  「ハナさん、ちょっと」


     鈴女、涙ぐんでいる。


花本   「え! あ、ごめんね! そんなつもりで言ったんじゃないんだけど・・・あ、まあ、

役者もやりながらだから大変だったんだよねぇ、ゴメンゴメン」


     鈴女、声を上げて泣き出す。


花本   「いや、だからその・・・」

上野山  「あぁあ。 ♪泣ぁかした~ 泣ぁかした(花本に殴られる)」

進藤   「(バンっ!と机を叩いて立ち上がって)背景はドロップ仕立てで9バトンに吊れ」

花本   「ええ~! しかし!」

進藤   「ダンボールの方は、3×6(サブロク)のコンパネに人形を付けたのを3つほど

 作っといた。 そいつを使え」

花本   「進さん、そんなのいつの間に?」

進藤   「これくらいは想定範囲内だ。 文句言ってる間にやれ、馬鹿。 プロだろう」

花本   「はい・・・すいませんでした。 (鈴女)ホントにゴメンね。 早速、やっちゃおうか」

鈴女   「はい・・・ありがとうございます」


     そこに、美香が憔悴しきった表情で帰ってくる。


美香   「進さん・・・一応、確認終わりましたぁ」

進藤   「おう、お疲れ。 いま丁度セットがきたから明かりの狙い取ってくれ」

美香   「え?」

進藤   「それと、悪い・・・9バトンに吊るもの増えたから、また明かり変わるわ」

美香   「・・・・・」

進藤   「後で学生の照明のコも打ち合わせに来るだろうから、よろしく」

美香   「あ・・・あはははは・・・」


     呆然自失で去る美香。

     しばらくすると去った先から美香の金きり声やなにか物が割れたりする音が

     聞こえてくる。


美香(声)「もういや~~!! きゃぁ~~!!!! (がしゃ~ん ぱり~ん)」


鈴女   「だ、大丈夫なんでしょうか?」

進藤   「いつものことだ」

上野山  「余計に怖いです」

鈴女   「すみません、私のせいで・・・」

花本   「気にしないで、すぐ納まるから・・・んじゃ行こっか」


     花本・鈴女、セットを持って舞台の方へ行こうとする。

     と、花本、舞台上を見て驚く。


花本   「ああ~!!」

進藤   「どうした?!」

花本   「舞台上が・・・埃だらけ」

進藤   「なにぃ??! (確認して)うわっ、なんじゃこりゃ?!」


     と、中井、服の埃を払いながら戻ってくる。


中井   「いやぁ、劇場というものは意外に汚れているものですなぁ」

進藤   「ちょっとお父さん、どこ掃除してたの?!」

中井   「え、どこと申しましても・・・お掃除を承りましたものですから、漏れなきよう

      隅々まで」

花本   「隅々って・・・ お父さん、まさか」

進藤   「あんた、スノコまで上ったのか?!!」

上野山  「スノコ?」

鈴女   「劇場の天井のことです」

上野山  「へぇ。 ・・・ええ?!!」

中井   「ええ。 一番汚れてましたよ、その、スノコ?ですか。 苦労しました。 わははは」

進藤   「(舞台の方に連れていき)ちょっとあんた、これ見てみろ!!」

中井   「なんと!! だれがこんなことを?!!」

進・花・上「あんただろ!!」

中井   「なんですと?!!!」

進藤   「ハナ、モップで走れ!! 早く!!」

花本   「はい!!」

鈴女   「あ、あたしも!」


     花本・鈴女、舞台裏に去る。


上野山  「お父さん、ダメですねぇ・・・もう黒ガムの刑です」

進藤   「てめぇもとっとといけ!!(蹴る)」


     上野山、蹴られた勢いで舞台へ去る。


中井   「(鈴女の制服を見て)はて、あの制服は・・・」

進藤   「お父さん!」

中井   「あ、失礼しました。 いやはや、なんとお詫びしていいものやら」

進藤   「・・・(怒りを抑えて)お父さん、お気持ちは嬉しいんですが、常識で考えたら

      分かるでしょう?」

中井   「いやしかし、私A型なもので、やるとなったら徹底的に・・・」

進藤   「ともかく! こちらの指示以外のことはなさらないで下さい。 何かあったら呼びます

      から、スタッフ控え室で休んでて下さい」

中井   「はい・・・申し訳ありませんでした。 (去ろうとするが)あの、控え室というのは

どちらに?」

進藤   「(ため息)一緒に行きましょう」


     進藤、中井を連れて去る。

     しばらくすると、衣装を身に着けた雁屋が物思いに耽った様子でやってくる。

     舞台の方を見やりため息をつく。

     そこにトキ子がやってくる。


雁屋   「!!(逃げようとする)」

トキ子  「待ちなさい、鴫子さん!」


     立ち止まる雁屋。


トキ子  「あなた、ここで何やってるの?」

雁屋   「・・・・・」

トキ子  「何やってるのって聞いてるの!」

雁屋   「・・・見て分かるでしょ。 舞台に出るのよ」

トキ子  「あなた気でも狂ったの? てっきり予備校の合宿に行っているものだと」

雁屋   「行くと言った憶えはないわ」

トキ子  「どうしてそう聞き分けがないの。 あなたはこんなところにいるべき人間では

ないでしょう。 こんな演劇なんて何の役にも立たないものにうつつを抜かす

なんて」

雁屋   「!!! PTA会長の言葉とは思えないわね」

トキ子  「クラブ活動ならいいわよ。 子供のお遊びならね。 もう充分楽しんだでしょう?

いい加減受験に身を入れないと」

雁屋   「いい加減にして! 私、大学は行かないから!」

トキ子  「・・・え? 今なんて」

雁屋   「卒業したら劇団に入るの。 もうオーディションにも受かってるんだから」

トキ子  「私に内緒でいつの間にそんな・・・」

雁屋   「プロの役者になりたいの! 芝居ずっと続けたいの! 私の人生なんだから好きに

      させてよ!」

トキ子  「・・・分かりました、鴫子さん。 そんなに好きなら演劇は続けて結構。 でも大学

だけは行きなさい。 大学にだって演劇部くらいあるでしょう? ほら、あの白鳥沢

さんだって大学で演劇を続けられるのでしょう? だったらご一緒に」

雁屋   「部長が行くのは、プロを何人も出してる有名な劇団のある大学なの! 部長は特別

      なの! 何にも知らないくせに・・・ 私は・・・私は・・・」


     雁屋、走り去る。


トキ子  「ちょっと待ちなさい! 鴫子さん!!」


     トキ子も追いかけて去る。

     と、凛と蘭が出てくる。


凛    「・・・聞いちゃった」

蘭    「聞いちゃいましたね」

凛    「は~~、あのツンツン女もそれなりに悩んでるんだねぇ」

蘭    「まぁ、あんな母親だとイライラ・ツンツン・・・したくもなりますなぁ」

白鳥沢  「そう、人にはそれぞれ他人にはわからない悩みがあるものなのですよ」

凛・蘭  「うわぁ!!」


     いつの間にか白鳥沢もいた。

     衣装を着けた姿である。


白鳥沢  「ダメですわよお2人とも、立ち聞きなんて」

凛    「そういう部長は?」

白鳥沢  「それはともかく」

蘭    「あ、流した」

白鳥沢  「(置き去りにされたセットを見て)セットの飾り具合を見たかったのだけれど

・・・まだなのかしら」


     そこに、モップやほうきを持った花本・上野山・鈴女が

ぜいぜい息を切らせながら戻ってくる。


上野山  「はぁああ・・・もう1年分掃除した気分です~」

花本   「私もよ。 鈴女ちゃんもお疲れさま、ありがとね」

鈴女   「いえ・・・ あ、部長! す!すみません! 今すぐに・・・」

白鳥沢  「大丈夫ですよ、何かトラブル・・・だったのでしょう?」

花本   「すいません」


     進藤、戻ってくる。


進藤   「おう、お疲れ」

花本   「進さん、どこ行ってたんですか?」

進藤   「中井の親父を『溜まり』(控え室)に押し込んできた。 しかしあの親父、生徒の制服を

      ジロジロ見やがって・・・ロリコンだな、ありゃ」

白鳥沢  「チーフさま、何かトラブルがあったようですが・・・もう大丈夫なんですよね?」

進藤   「おう、すまねぇな。 (舞台を確認して)大丈夫だ」

白鳥沢  「では、ちゃっちゃとやってしまいましょうか(セットを持って行こうとする)」

鈴女   「部長! 私がやりますから!」

白鳥沢  「時間がありません。 手の空いてる者がやるべきでしょう?」

鈴女   「・・・ありがとうございます(別のセットを手に取る)」

白鳥沢  「(凛・蘭に視線を向け)手の空いてる者がやるべきでしょう」

凛・蘭  「え?」

白鳥沢  「手の空いてる・・・」

凛    「分かりました!」

蘭    「手伝えばいいんでしょう!」

花本   「あ、コンパネとか取ってくるから! 居床決めといてね!」


     白鳥沢・鈴女・凛・蘭・花本・上野山、おのおのセットや

仕込み道具などを持って舞台へ去る。


進藤   「(操作盤について舞台の方に)9バトン、ダウンするぞ! おい! バミリも

取っとけよ!!」


     そこに鴨芽と燕がやってくる。


鴨芽   「あの、そろそろ照明と音響の打ち合わせをしたいのですが」

進藤   「ああ、そうだったな。 待ってろ、そのうち音照も来るから」

花本(声)「バトン、アップどうぞ!!」

進藤   「あいよ! タッパで声くれ!(操作する)」


と、美香の首根っこをつまんだジーザスがやってくる。


美香   「すみません、ジーザスさん・・・もう大丈夫です。 落ち着きましたから」

進藤   「おう、ちょうど良かった。 このコらが音・明かりの担当だそうだ。 打ち合わせ

      といてくれ」


     あきらかに異質な姿のジーザスに臆する鴨芽。

     しかし燕は逆に目を輝かせている。


鴨芽   「あ、あの・・・照明担当の方は・・・」

美香   「あ、一応、私・・・みたい。 よろしく」

鴨芽   「(ホッとして)はい! ではキッカケから確認したいのですけれど」


     美香・鴨芽、お互いに台本を取り出し打ち合わせを始める。

     まじまじとジーザスを見る燕。

     白鳥沢・鈴女・凛・蘭・花本・上野山、戻ってくる


花本   「頭飾り、オッケーです」

進藤   「おう」

凛・蘭  「疲れたぁ~」

白鳥沢  「皆さま、ありがとうございました」

上野山  「(燕とジーザスとの異様な空気に)・・・どうしたんですか、あれ?」

一同   「・・・・・」

燕    「もしかして・・・音響さんですか?」

ジーザス 「う・・・」


     息を呑む一同。


燕    「・・・・・素敵」

一同   「え?!!」

燕    「もしかしてパンクバンドとかやってらっしゃるんですかぁ?!! うわぁ~!!

      超!かっこいい~!! 私、有頂天とウィラードからハマッたんですけど、

お兄さん・・・あ、えと、お名前お聞きしていいですか?」

ジーザス 「うあ・・・(進藤に目を向ける)」

進藤   「ジーザスだ」

燕    「うわぁ!! きたぁ! ジーザス~~!!! 最高ぉ~~!!!!!」


     ジーザスに抱きつく燕。


ジーザス 「!!!!!」

進藤   「おい、ジーザス、何赤くなってんだ」

花本   「うわぁ、ジーザスさんもちゃんと男だったんだねぇ」

上野山  「・・・美女と野獣?」


     ひとしきり盛り上がる一同。

     と、いつの間にか一同の背後に、ぜいぜい息を切らし、

怒りモードMAXの女が、鬼のような形相で立っている。

照明・進藤京子である。

ツカツカと進藤に近づき、持っていたカバンで進藤の頭を

思いっきりぶん殴る。


進藤   「いってぇ!! なにすんだ?!!」

京子   「ちょっとアンタ! なんで起こしてくれなかったのよ?!!」

進藤   「別居中だろうがよ!!」

京子   「何よ?! 言い訳??!!!(殴る)」

進藤   「いってぇ!! あのなぁ!!」

上野山  「誰ですか、あの怖いオバサン」

京子   「誰がオバサンよ!!!(上野山を殴る)」

花本   「京子さん! 落ち着いて!」

美香   「とりあえず良かったじゃないですか、本番までに間に合って!」

進藤   「(なんとか立ち直って)とにかく、間に合ったはいいものの時間がねぇんだ。

      今、ちょうど打ち合わせてたところだから、お前も加われ」

美香   「京子さん、この子が担当だそうです。 (鴨芽に小声で)大丈夫、取って食われりゃ

しないから。 (京子に)あ、これ仕込み図です。 変更ありましたので」

京子   「そう、よろしく。 ・・・(仕込み図を見て)ちょっと! めちゃくちゃ変わってる

じゃない?!」

進藤   「ガタガタ言うな。 お前ならそれくらい大した問題じゃねぇだろ」

京子   「ふん・・・ (美香と鴨芽に)じゃあ、調光室に上がってるから、台本持っていらっしゃい。

(去り際に)取って食いはしないから」


     京子、去る。

しばし凍る一同。


上野山  「・・・すさまじい人ですね」

花本   「ある意味、このホールで最強の人よ」

鴨芽   「私、大丈夫でしょうか?」

美香   「大丈夫よ・・・多分」

進藤   「ほらお前ら! 客入れ30分前だ。 各自チェック、よろしく!」

一同   「はい!」


     M

照明変化

     音楽の流れる中、時間経過のオフ芝居。

     本番準備に各々取り掛かっている様子。


・美香・鴨芽、去る。

・操作卓に集まり打ち合わせをする進藤・花本・上野山・鈴女。

・影マイクの前でナレーションの練習をする凛・蘭。それを見守る白鳥沢。

・しばらくして衣装を着けた鶴田もやってくる。

・ジーザスと燕は音響卓の前で楽しく打ち合わせ。

・中井、こっそり覗きにくるがすぐに追いやられる。

・鳩山、ノートパソコンを持ってやってくるが、誰にも相手にされずヘコんで去る。

・白鳥沢・鶴田、楽屋に去る。凛・蘭も去る。

・京子にやいやい言われつつ、美香と鴨芽が行ったりきたり。

      などと。

      (細かい動きは、立ち稽古で作ります)


     そして舞台上には、

進藤・花本・京子・ジーザス

     鈴女・鴨芽・燕がいる状態で、音楽F.O.

     明かり、元に戻る。

     ジーザスと鴨芽は、音響卓でヘッドフォンを付けて、音楽のチェックなどを

     している。


燕    「ああ~~!!!」

ジーザス 「???」

進藤   「どうした?」

燕    「MDが・・・真っ白」

進藤   「なにぃ?!」

花本   「音、全然入ってないの?」

進藤   「ジーザス!」


     ジーザス、お手上げの手振り。


進藤   「全くアウトか?」

燕    「SEの方は大丈夫なんですが・・・ BGMが全然・・・ なんで? ちゃんと確認

      したはずなのにぃ・・・(涙ぐむ)」

鈴女   「燕ちゃん・・・」

鴨芽   「大丈夫よ! スタッフさんがなんとかしてくれるって!」

京子   「ちょっとあんた、なんとかしてやりなさいよ」

進藤   「おいおい、俺にも限界があるぞ」

京子   「『修羅場の進さん』の名が泣くわよ」

花本   「そんなあだ名があったんだ」

進藤   「なんとかしてやりたいのは山々だが・・・音となるとなぁ。 音材がなけりゃ、

      流石のジーザスでもなぁ」


ジーザス、申し訳なさそうな表情で燕にあやまる仕草。


燕    「いいの! ジーザスのせいじゃないから! 私が悪いんだから!」

ジーザス 「ううう・・・」

花本   「もう恋人気分?」


     そこに手に缶ジュースなどを持って上野山が帰ってくる。

     パシリにいかされてたようだ。


上野山  「買ってきました~。 (重い空気に)あれ? どうしました?」


     と、上野山の携帯の着信音が鳴る。


進藤   「こら、てめぇ! 切っとけっつったろ!!」

上野山  「(慌てて切って)すす、すみませんでした!」

鈴女   「そうだ・・・携帯」

一同   「え??」

鈴女   「燕ちゃん、今回の選曲気に入ったからって、使う曲全部、携帯にダウンロード

      してなかったっけ?」

鴨芽   「そういえば! 着メロにもしてたじゃない!」

燕    「あ、うん! でも・・・」

進藤   「携帯をマイクに近づけて流すか・・・それも厳しいなぁ。 どうだ、ジーザス?」


ジーザス、あまりお勧めできない、という仕草。


進藤   「レベルも低いし雑音がひど過ぎる、か。 確かにな」

上野山  「なんでそこまで分かるんだろう」

鴨芽   「あ、でも、燕ちゃんの携帯、メモリースティック付いてなかった?」

進藤   「! 本当か?!」

燕    「あ、はい!」

花本   「進さん、あとは読み取れるパソコンがあれば!」

進藤   「パソコンかぁ・・・」


     しばし考え込む一同。

     が、ハッ!っとして、


一同   「先生!!!」

進藤   「(上野山に)おい、あのボクちゃん先生呼んで来い!」

上野山  「はい!(走って去る)」

花本   「(上野山の背中に)ノーパソも一緒にね!」

進藤   「(燕に)焼けるCD―Rはあるか?」

燕    「はい! ちゃんと音楽用のが!」

進藤   「よし。 ジーザス、いけるな?」


     ジーザス、OK!の仕草。


進藤   「お嬢ちゃん、命拾いしたな」

鈴女   「よかったね、燕ちゃん」

燕    「うん。 2人が携帯のこと思い出してくれたから・・・ありがと」


     と、鳩山、上野山に引っ張られてやってくる。

     手にはノートパソコン。


鳩山   「ちょっとちょっとなんですか・・・ 折角ひとりでネットの世界に逃避してたのに」

進藤   「先生、そいつ(ノーパソ)でメモリースティックは読み込めるな?」

鳩山   「え? まあ、できますが」

燕    「音楽データをCDに焼くことは?!」

鳩山   「もちろんできますよ。 このコはペンティアム4内蔵の最新・・・」

京子   「ゴタクはいいからさっさとやる!」

鳩山   「なんですか、あなたは?」

京子   「照明のチーフよ、文句ある?」

鴨芽   「この人怒らせると怖いですよ」

鳩山   「ああ・・・初対面の人にまでこんな言われ様・・・ やっぱり僕には生きる価値なんて」

燕    「先生!! ようやく先生も役に立つ時がきたんですよ!」

鴨芽   「そうですよ! このまま昼行灯で終わっていいんですか?!」

鈴女   「それこそ死んだ方がマシですよ!!」

花本   「・・・みんなヒドすぎ」

鳩山   「そっかぁ・・・この世に生を受けて32年・・・ようやく人のお役に立てる時が」

上野山  「どういう人生だったんだろう」

鳩山   「わかりました!! さあ、僕に任せなさい!! CDでもホットケーキでもガンガン

      焼いて差し上げます!!」


     ひとが変わったように目を輝かせ、パソコンを操作しだす鳩山。


進藤   「よし、音は解決したな。 時間だ、客入れするぞ。 ジーザス、Mよろしく」


     ジーザス、OKサインをだして曲を流す。


進藤   「(インカムで)受付さんへ。 お待たせしました、開場どうぞ。 (皆に)よし、

では開演5分前まで各自待機。 ハナ、プクイチだ」

花本   「らじゃっす!」

上野山  「あ、えっと僕は・・・」

進藤   「・・・飲みモン持って来い(去る)」

上野山  「? えっと」

花本   「いいってさ、休憩。 いくよ」


     花本、上野山を連れて去る。


京子   「ふん。 相変わらず無愛想なんだから」


     京子も去る。


ジーザス 「あうう・・・」

燕    「え? タバコ? 了解。でもあんまり吸いすぎちゃダメよ。 ・・・私はもう少し

      チェックしてるから。 いってらっしゃい」


     ジーザス、去る。


鴨芽   「凄い、もう通じ合えてる」

燕    「愛の力よ」

鴨芽   「しかし、バタバタしたけどいよいよね」

燕    「うん、頑張らないと。 ・・・・・鈴女ちゃん?」


     ひとり落ち込んでいる様子の鈴女。


鴨芽   「どうしたの? 緊張?」

燕    「大丈夫よ~。 スタッフさんたち、ちょっと変わってるけど頼りになるじゃない」

鈴女   「そうじゃないんだけど・・・・・はぁ、私、なにやってるんだろ」

燕    「え?」

鈴女   「みんな、イヤじゃないの? 折角演劇部に入ったのに、まだ一回も役がもらえなくて

・・・やることといったら裏方ばっかり。 鴨芽ちゃんも燕ちゃんも、それ以外にも

衣装や小道具もやってるんでしょ?」

鴨芽   「まあ、ねぇ・・・」

燕    「うん・・・」

鈴女   「毎日遅くまで残って準備して、それでも追いつかないから家に帰ってもまだやって・・・

      そりゃ、先輩たちに比べたら演技もまだまだだけど、私たちも一生懸命練習してる

じゃない! チョイ役でもくれたって・・・」

鴨芽   「うん、まあ、確かにね。 でも演技で先輩たちにかなわないのは事実だし・・・雁屋

先輩だってあんな人だけど、やっぱ巧いもんね。 まあ、裏方をやるのは仕方ないと

思うよ、後輩としては」

鈴女   「そうだけど・・・」

燕    「私は結構、裏方も好きになってきたかな」

鈴女   「・・・え?」

燕    「私元々、お芝居は観るのが好きな方だったから。 演技とか全然やったことなかったし。

演劇部に入って、音響任されるようになって・・・あ、私も舞台作りに役に立ってるん

だって思うようになってさ。 それはそれで嬉しくなった。 効果音がうまく決まった

ときなんか『やった!』って思うもん」

鴨芽   「あ、わかるわかる。 私も観に来てくれたクラスのコに『衣装、かっこよかったね』って

      言われて、凄く嬉しかったもん」

鈴女   「そっかぁ・・・」

鴨芽   「どうせ来年、先輩が卒業したら私たちが舞台に立つんだし、ね」

燕    「そうそう。 今はお互い、裏方頑張らないと!」

鴨芽   「燕ちゃんはいいよね~~ 素敵なダーリンができたからウハウハだもんねぇ~」

燕    「もう! やめてよ~!!」


     きゃっきゃとはしゃぐ鴨芽と燕。

     少し笑みは戻ったものの、まだ気分が乗り切れない鈴女。

     そこに進藤が戻ってくる。


進藤   「ふん、いい気なもんだな」

鴨芽   「あ」

燕    「すみませ~ん」

進藤   「(鈴女に)おめぇ、ずっと大道具やってんのか?」

鈴女   「・・・え?」

進藤   「で、今回も役も貰えなかった、と」

鈴女   「・・・(おずおずと頷く)」

鴨芽   「あのぉ・・・」

進藤   「悪いが聞こえちまった。 ・・・まあ、気持ちはわからんでもない。 舞台に立ちたい

から演劇部に入ったんだろう。 だがな、舞台ってモンは役者だけで成り立つもん

じゃねぇ。 音響がいて、照明がいて、大道具・小道具がいて・・・脚本家、演出家、

制作、受付、MC・・・いろんな人間の手で成り立ってんだ。 役者だけじゃ何にも

できねぇモンなんだよ」

鈴女   「・・・・・」

進藤   「てめぇ、舞台は嫌いか? 今回のこの芝居はつまらない芝居なのか?」

鈴女   「(首を振る)」

進藤   「だったら、好きな舞台に・・・好きな作品に携わってるという誇りを持て。 お前や

      この2人がいるから、あのヘンな部長やツンツン女が舞台に立てるんだ。

      役がなくて悔しいのなら、次の舞台でがむしゃらに役を取りにいけ。 わかったか」

鈴女   「・・・・・」

進藤   「すぐに納得できなくていい。 だが今はやるべきことをやれ。 いいな」

鈴女   「・・・はい、ありがとうございます」


     いつの間にか戻ってきている、花本と上野山。


花本   「進さん、かっこいいっすね」

上野山  「ひゅーひゅー! 進さん素敵~~!!」

進藤   「(上野山を殴る)うるせぇ!」


     進藤、バツがわるくなって去る。


花本   「(生徒たちに)進さんね、元役者なんだよ。 いろいろあって今は裏方だけど」

鴨芽   「へぇ・・・ あ、それでさっきPTA会長の時!」

燕    「妙に芝居がかってると思った」

花本   「役者は辞めちゃったけど、やっぱ今でも舞台を愛してるんだよ、あの人。 だから裏方

      に回った今でも、最高の舞台にするために全力を尽くす。 そういう人なの、あの人」

一同   「へぇ・・・」

花本   「ぶっきらぼうなのが玉に瑕、だけどね」

白鳥沢  「さすがでございますわね、チーフさまは」


     いつの間にか白鳥沢がいた。

     横には鶴田もいる。


鴨芽   「部長!!」

燕    「いつの間に?!」

鶴田   「もう、部長、立ち聞きは悪い癖ですよ」

白鳥沢  「それはともかく」

上野山  「あ、流した」

白鳥沢  「チーフさまは私の言いたい事を全部おっしゃってくださいましたわ」

一同   「・・・え?」

白鳥沢  「(2年たちに)皆さん、なかなか役をあげられなくてごめんなさいね。 でもそれは、

      まずは裏方さんを経験して頂いて、『舞台は役者だけでできるものではない』という

      事を分かって欲しかったのです。 そして、役を頂くということはどれほど大変なのか

      ということも」

鈴女   「部長・・・」

白鳥沢  「当然、今の私たちも皆さんのお力があって舞台に立てる、と重々感謝しておりますのよ。

      そうは見えなかったかもしれませんが」

花本   「あ、自覚はあったんだ」

鶴田   「そうよみんな。 役者はどれだけのものを背負って舞台に立たないといけないか・・・

      早くみんなにも分かって欲しいって、いつも部長は言ってたんだから」

白鳥沢  「マイクロバスをお断りしましたのも、皆さんの手で汗を流して搬入するところから

舞台作りが始まるということを知って欲しかったからなのです。 言葉足らずで

すみませんでしたわね、先生」

鳩山   「・・・そうでしたか」

一同   「え??!!!」

燕    「そういえば先生いたんだ」

白鳥沢  「お気持ちは嬉しかったのですが、まだまだ甘やかしてはいけませんわよ」

鳩山   「はい・・・」

鶴田   「私も部長も一年の時はジャージ姿でぜいぜい汗かいてやってたんだから」

鈴女   「部長が?」

鴨芽   「想像できないね」

白鳥沢  「あなたたちも来年には舞台に立つ身。 今の事をしっかり踏まえて、素晴らしい舞台を

      作ってくださいましね」

鈴・鴨・燕「はい!!」

鳩山   「いやぁ、青春だなぁ」

花本   「そういえば先生、CDできました?」

鳩山   「・・・ああ!!」

燕    「え、まさか!!」

鳩山   「とっくに完了してました・・・すみません」

燕    「もう! びっくりするじゃないですか!」


     ホッとしてしばし和む一同。

     ジーザス、戻ってくる。


燕    「ジーザス! CDできたの! チェックしてみて!」


     CDを受け取り、デッキに挿入して確認するジーザス。

     満面の笑みでOKサインを出す。

     盛り上がる一同。

     そこに慌てた様子でトキ子が駆け込んでくる。


トキ子  「ああ! 皆さん! うちの・・・鴫子を見ませんでしたか?!」

鶴田   「いえ、ここにはいませんが」

白鳥沢  「そういえば楽屋にもいらっしゃいませんでしたわね。 どうなさったのかしら」

鶴田   「なにかあったんですか?」

トキ子  「それは・・・」


     やってくる凛・蘭。


鶴田   「ちょっとあなたたち、雁屋さん見なかった?」

凛    「え? 誰??」

蘭    「あのツンツン女だよ、リンリン」

凛    「ああ。 そういえばだいぶ前に裏の階段を走って上がっていったね」

蘭    「よっぽど我慢してたんだね、トイレ」

白鳥沢  「どこに行ったのかしら」

鶴田   「携帯に掛けてみます!(楽屋へ去ろうとする)」

トキ子  「ダメなんです。 先ほどから携帯電話も通じませんの」

鶴田   「そっか、楽屋に置きっぱなしか」

白鳥沢  「雁屋の小母さま、何があったのかお話しいただけませんか?」

トキ子  「いや、その・・・」

凛    「あ、さっきあのツンツン女と言い争ってたオバサンじゃない!」

蘭    「ホントだ!」

トキ子  「え?」

白鳥沢  「お話し頂けないのでしたら私から申しましょうか? 失礼ながら先ほどの

      やり取り、聞いてしまいましたの」

トキ子  「!!」

白鳥沢  「雁屋さんは本当に舞台を愛していらっしゃいます。 それを親のエゴで押し潰す

      のはどうかと」

トキ子  「それは」

白鳥沢  「雁屋さんは私と同じ大学に行きたいとおっしゃっていたのですが、残念ながら推薦で

      落ちてしまわれて」

トキ子  「え?」

白鳥沢  「私は雁屋さんに申しました。 『舞台はどこにいてもできます。あなたのお気持ち

次第ですよ』と。 そうして雁屋さんは劇団に入る道をお選びになりました。

立派なことだと思います」

トキ子  「・・・・・」

白鳥沢  「演劇はお遊びとお思いですか? ここにいるスタッフさん方や2年のコたち・・・

      私たちや雁屋さんが、ふざけてやっているように見えますか?」

トキ子  「そんなことは」

白鳥沢  「一度、私たちの舞台を・・・雁屋さんの舞台に立つ姿を観ては頂けませんか?

それからゆっくり、お2人で話し合ってくださいまし」

トキ子  「白鳥沢さんが・・・そこまでおっしゃるのなら・・・」

鴨芽   「うん、悔しいけど雁屋先輩の演技って凄いです」

燕    「鬼気迫るものがあるよね。 魅入ってしまう」

鈴女   「きっとお母さんも、凄い!って思いますよ! 私たちもしっかり頑張りますから!」

凛・蘭  「頑張りますぜ!」

鶴田   「みんな・・・」

花本   「サポートは任せてくださいよ」

上野山  「ですです」

ジーザス 「うが!!(ガッツポーズ)」

トキ子  「皆さん・・・ あの子は、幸せ者ですね。 こんな方たちに囲まれてお芝居をやって

      いたのですね。 皆さん、ありがとうございます」

花本   「お礼は拍手で返すモンですよ、『お客さん』」

トキ子  「・・・はい」

上野山  「しかし、肝心のその雁屋さんってコは・・・」

白鳥沢  「そうでした・・・ みんなで手分けして探しましょう!」

一同   「はい!」


     めいめい散ろうとするところに、進藤が舞台の方から帰ってくる。


進藤   「おいこら! また舞台に埃が落ちてんぞ! なにやってんだ!」

花本   「え・・・ ちゃんと掃除しましたよ」


     駆け込んでくる京子。


京子   「ちょっと! 誰かスノコに上ってる?!」

進藤   「はあ? んなわけ・・・」

京子   「見えたのよ! なんか派手な色が!」

進藤   「はぁ?!」

花本   「(上を見上げ)・・・・・ああ~~! あれ、あの衣装! あのコじゃない?!」

一同   「ええ~~?!!」


     一同、舞台の方に近寄り、一斉に上を見上げる。


鶴田   「ホントだ! あれ、雁屋さん!!」

進藤   「なにぃ?! あの女、なんだってスノコに上ってんだ?!!」

花本   「ちょっと! 危ないよ!! 降りてきなさ~い!!」

トキ子  「鴫子さ~~ん!! お母さんが悪かったわ! 謝るから降りてきなさぁい!!」


     めいめい、「降りろ~」「早まるな~~」などと叫ぶ。


進藤   「(周りを制して)ちょっと待て。 なんか言ってるぞ」

雁屋(声)「に、逃げたわけじゃないわよ! ちょっと見学してみたかっただけなんだからぁ!」

凛    「完全に強がりよね」

蘭    「目ざとく同意だわ」

鶴田   「まさか・・・上ったはいいけど、怖くて動けなくなったんじゃ」

雁屋(声)「上ったはいいけど、怖くて動けなくなったんじゃないからね~~!!」

白鳥沢  「どうやらそのようね」

花本   「(進藤に)どうします?」

進藤   「下手に近づくと余計に危ないな・・・ちくしょう」

上野山  「あ、あれ! なんか黒いのが近づいてます!!」

進藤   「なに?! (目を凝らして)あれは・・・オッサン!!」

花本   「ホントだ! 中井さんのお父さん!!」

進藤   「よし! そうだ、いいぞ・・・ゆっくり近づいて・・・」

花本   「あ、ちゃんと安全帯付けてる! いつの間に?!」

進藤   「(周りに)お前ら、静かにしてろ! ・・・あの女に、オッサンの存在を悟られ

ないように」


     息をのんで上を見守る一同。

     なんとか中井は雁屋を助け出した!


凛    「確保ぉ~~!!」

蘭    「やった!!」

進藤   「よし! オッサン、よくやった!」


     安堵し、盛り上がる一同。


進藤   「ったく、手間かけさせやがって」

トキ子  「よ・・・よかったぁ~~~(へたり込む)」

白鳥沢  「小母さま、よかったですわね。 危うく未来の女優をひとり失うところでしたわよ」

トキ子  「鴫子さん・・・・・よかった・・・」

進藤   「(舞台上を指差し)ハナ!」

花本   「はい! (モップを持って上野山に)いくよ!」

上野山  「はい!」


     花本・上野山、モップを持って舞台上を掃除しに去る。


進藤   「もうすぐ開演時間だ。 どうする?」

白鳥沢  「先生?」

鳩山   「皆さんは・・・いけるのですね?」


     演劇部一同、うなずく。


鳩山   「では、雁屋さんが戻り次第、開演・・・でお願いします」

進藤   「京子?」

京子   「美香に任してるわ」

進藤   「了解だ。 (凛・蘭に)ではまずMC、いけるか?」

凛・蘭  「いつでもOKっす!!」

進藤   「よし。 (インカムで)MC出すぞ。 ピン・フォロー、よろしく!」

美香(声)「了解です!」

進藤   「行って来い!」

凛・蘭  「行っきま~す!!(舞台上に出る)」


     マイクを通した凛・蘭の声が響く。


凛(声) 「皆さん、こんにちは~!」

蘭(声) 「今回、司会進行をやります・・・」

凛(声) 「凛でぇす!」

蘭(声) 「蘭でぇす!」

凛・蘭(声「2人合わせて! 『**&%#$##$』でぇす!!」

凛(声) 「今日は、我が黒崎高校演劇部の発表公演に・・・」


     ざわつく客席。 全然MCの話を聞いてない。


凛(声) 「えっと・・・静かにしてくださぁい!」

蘭(声) 「席についてくださぁい!」


     収まらないざわめき。


進藤   「ちっ、収まらねぇな」

鳩山   「ほとんどが在校生ですから・・・落ち着きがなくて」


     そこに雁屋を連れた中井が戻ってくる。


トキ子  「鴫子さん!」

雁屋   「・・・・・」

中井   「いやぁ、スノコに上がる彼女を見かけて、何をするんだろうと思って追いかけて

みましたら・・・ (鴫子に)いいんですよ、スノコはもう掃除しましたから」

花本   「違います」

進藤   「お父さん、よくやってくれました」

鳩山   「(中井の顔を見て)あれ? あなたは・・・」

白鳥沢  「雁屋さん。 間もなく本番ですよ・・・よろしくて?」

雁屋   「部長・・・私・・・」

鶴田   「さあ、いきましょう! お母さんも客席で観てくださるって!」

雁屋   「・・・え?」

トキ子  「下手な芝居だったら、即、予備校の合宿に連れて行きますからね!」

雁屋   「お母さん・・・」


     トキ子、足早に去る。

     客席は更にざわめきを増している。

     凛・蘭、ほうほうの体で帰ってくる。


凛    「ダメですぅ~~」

蘭    「全然収まりません~~」

中井   「仕方のないコたちですねぇ」


     中井、舞台へと出てゆく。


進藤   「ちょっとオッサン!」

花本   「勝手になにを!」

中井(声)「静かにしなさぁ~い!!!」


     静まりかえる客席、。


中井(声)「大声を出してすみませんでした。 今日はお休みのところお集まり頂きありがとう

ございます。 ご父兄の皆さまにも、熱く御礼申し上げます」


     なにが起こってるのかわからず、ぽかんとする一同。


中井(声)「これから、我が黒崎高校演劇部の発表公演を始めます。 この演劇部は、我が校創立以来、

     数々の演劇賞を受賞してきた、名誉ある部であります。 ・・・私はつい先ほどまで、

     この公演の準備に走り回る演劇部の子たちの姿を、このホールの袖で見せて頂きました。

     汗だくになり、ときには迷い、ぶつかりあい・・・そうしてようやく幕が上がるこの時を

     この子たちは向かえようとしております。 素晴らしい作品に違いない。 私は観る前

     からそう思ってやみません。 どうか皆さん! 最後まで楽しんでくださいませ」


     戻ってくる中井。

     皆の視線が中井に集まる。


中井   「ああ! 差し出がましいことをしてすみませんでした!」


     一同、きょとん。


鳩山   「(中井の顔をまじまじと見て)やっぱり! 教頭先生!!」

一同   「ええ~~!!!!!」

中井   「いやぁ、私としたことが・・・息子のことを心配するあまり、今日が我が校の演劇部の

      発表公演だと、うっかり失念しておりました」

鴨芽   「ホントに教頭先生?」

燕    「そういえば・・・」

鈴女   「そう・・・かも」

中井   「どうも見覚えのある制服がうろうろしてるなぁと思ったら・・・ははは、ウチの学校

      ではありませんか」

進藤   「それでジロジロと・・・」

中井   「いやぁ、校長や生活指導の先生と違って、私はなかなか前に出ませんからねぇ。

 地味なもんですよ、教頭って」

一同   「はぁ・・・」

白鳥沢  「しかし・・・さすがによくあの場を仕切ってくださいました。 ありがとうございます」


     鳩山、生徒たち、各自頭を下げる。


中井   「いやいや~~」

進藤   「そうだな。 よし、ようやく本番にいける空気だ。 (凛・蘭に)お前ら、影アナ

いけるな?」

欄    「任せてちょうだい! ね、リンリン?」

蘭    「ああ! もう、外しませんぜ! いくぜランラン!」


     勢いよく影アナ席にスタンバる2人。


進藤   「役者! 板付けよ!!」

白鳥沢  「では雁屋さん、鶴田さん・・・参りましょうか」

雁屋   「部長・・・」

白鳥沢  「もう私たちにできることは、演じることだけでしょ?」

雁屋   「・・・はい」

白鳥沢  「では皆さん、よろしくお願いします」

鶴・雁  「よろしくお願いします!!」

鈴・鴨・燕「よろしくお願いします!!」

鳩山   「みんな! 頑張ってね!!」


     白鳥沢・雁屋・鶴田、舞台上へ去る。


中井   「では私も客席でゆっくり観させてもらうとしますか」

鳩山   「教頭先生、ホント何と言っていいやら・・・」

中井   「いい生徒たちを持って幸せですな、私たちは。 (舞台を見渡し)息子はこういう

ところで働いているのですねぇ・・・ サボるなんて勿体ない。 帰ったらお説教ですよ。

ははははは」


     中井、客席へと去る。

     入れ替わりに美香が駆け込んでくる。


美香   「京子さぁん! もう本番ですよね? はやくオペ変わってください!」

京子   「なに言ってるの。 アンタがやるんでしょ?」

美香   「ええ~?!」

京子   「(進藤に)そうなんでしょ?」

進藤   「いけるんだな?」

京子   「アンタがそう思ったからやらせるんでしょ?」

進藤   「そういうことだ」

京子   「じゃ、帰りに晩飯オゴるように」

進藤   「なんでそうなるんだ!」

花本   「もう、早く仲直りすれば?」

進・京  「うるさい!!」

上野山  「いよいよ本番かぁ・・・ドキドキしますね」

花本   「転換、トチんないでよ」

鈴女   「よろしくお願いします!」

鴨芽   「(京子と美香に)よろしくお願いします!」

京子   「はいよ(SSに付く)」

美香   「よろしくね!(去る)」

燕    「ジーザス、フォローお願いね!」

ジーザス 「・・・・・らじゃ!」

一同   「!!!」

進藤   「・・・(鈴女)おい、嬢ちゃん。 これやるわ(自分のナグリを渡す)」

鈴女   「え? そんな?!」

進藤   「しっかり大道具の仕事をこなしてこい。 できるな?」

鈴女   「・・・はい!」

花本   「バックアップは任せといて!」

上野山  「そっか、このドキドキって・・・」

花本   「なに?」

上野山  「ライブだ。 ライブが始まる前のドキドキって、こんな感じですよ」

進藤   「そうだ上野山。 芝居は・・・ライブなんだよ」

上野山  「あ! ようやくちゃんと呼んでくれま・・・」

進藤   「ようし! 開演だ!! 野郎共、準備はいいか?!!」

一同   「はい!!!」

進藤   「本ベル入れるぞ・・・ 本番よろしく!!」


     暗転。

     鳴り響く本ベルのブザー。

     ブザー終わりで、凛と蘭の影アナが聞こえる。


凛(声) 「お待たせしました。 それではただ今より、黒崎高校演劇部定期公演、

      『フグの思い出』を上演致します」

蘭(声) 「リンリン違うって! これ、『イルカ』って読むんだよ!!」

凛(声) 「ええ~~!!!」


     影マイクを通してわぁわぁ騒ぐ声が響く。

     F.O.しかける声に被せて音楽が入る。


     明転。

     カーテンコールなど。






                                        了






                              (2006年11月22日 初稿)


奇特にも、演劇部や小劇場劇団さんで上演をご希望なら、ご一報下さい。

公演情報のみお知らせ頂ければ、台本使用フリーです。

(改稿の際のみご一報ください)

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