拾章─トンデモない課題②─
桜「まだ着かないのー?もう夕方よー。」
健「おかしい。なんで着かねぇんだ?こんだけ歩きゃもう着いてもいい頃だろうに。」
一「道合ってんのかー?」
篝「定番の台詞言ってるとこ悪いけど、砂丘に『道』なんかないわよ。」
光「幸い、まだ誰も足火傷してないけどね。」
桜「まあもうそろそろ夜になるし、涼しくなっていいんじゃないの?」
健「馬鹿か、お前。」
桜「あら、それをあなたに言われるとは思ってなかったわ。」
健「夜の砂漠にいる羽目になったら、ゲームオーバーだ。皆凍え死ぬだろうな。」
光「そうか。夜の砂漠って寒いんだっけ。」
一「ある意味制限時間だな。」
篝「こうなったら、怪我のひとつや二つ気にせず、さっきの手を使うべきでは?」
一「こうなったら、最早そうしかないかもな。」
健「それは最終手段だ。なるべく無傷で帰りたい。寒さを過ごす道具だって、鞄の中にあるしな。」
桜「そんなのあった?」
光「マッチなら持ち物に入ってたけど。それじゃそんなに長く火がもたないわ。マッチ売りの少女になっちゃうわよ。」
健「その方法は後で話す。とりあえず今は、ひたすら歩こう。」
─夜─
光「う~さぶっ!」
健「んじゃ説明すっか。」
桜「早くして~。」
健「んじゃあまず、空き缶の中にサラダ油を入れる。入れすぎないようにな。」
クラスメイト1「入れたけど。」
健「そしたらハンカチを細長く丸めて、その中に突っ込む。」
光「い、入れたわ。」
健「最後に、マッチでハンカチに火をつける。これで暖かくなるはずだ。」
桜「ホントだ~。あったか~い。」
その満面の笑みに、健の脳裏に今朝の光景が過ぎる。
今朝の桜・寝言『た・け・るゥ~♡』
なんだったんだろうか。あれは。
健自身、全く経験したことのない出来事だったが、悪いことではない気がした。
健「明日も、早起きすっかな…。」
桜「何独り言ってんの?」
健「あ、いやぁ、今朝のお前の寝言がな…」
桜「ね、寝言ぉぉぉぉ!?」
健「な、何慌ててんだよ。何か俺、マズイ事言ったか?」
桜「ま、マズイわよ!十六の女の子の寝言の内容なんて…」
健「そんなに?何て言ってたか言おうか?そんなに大したことは言ってなかったような…」
桜「あたしね、しばらくあんたといてわかったことがあるの。」
健「何だいきなり。」
桜「何だか教えてあげようか。」
健「ああ。頼む。」
桜「あんたの『大したことない』は、あてにならない。」
健「…だったら余計、教えようか。」
桜「いやいい。聞きたくない。心の中にしまっておいて。」
健「…へ?」
桜「た、大したこと、ないんでしょ?」
健「あ、あぁ。でも、あてになんねぇからなぁ…」
─次の日。
光「ねっむーい。昨日とうとう一睡もできなかったからなぁ。」
健「意外ともう近い。町並みが見えてきた。」
桜「ホントだぁ!やったあ!今日はふっかふかのベッドで寝るぞぉ!」
篝「ほ~うベッドで。で、誰と?」
桜「あ、いやあ、と、と、特に、深い意味は…」
光「ホントにぃ~?」
桜「ほ、ホントです…。」
一「着いた!」
─見ると、滝田や他のクラス達が『GOAL』と書かれた旗を振っている。
健「どうやら、ビリだったようだな。」
桜「ま、まあ、しょうがないわよ。意外と…楽し…かっ…た…」バタッ
健「桜!?」
桜「すぅー。すぅー。」
優「どうした!?」
健「寝ちまったよ。よっぽど、疲れてたらしいな。」
優「とりあえず聡に見せないように、バスまで運ぼう。あいつに見つかりゃ襲われかねない。」
健「『襲う』って、そんなバカな。あいつは桜が好きなんだぞ。」
─あ、それぐらいはわかるんですね。
しかもそれを堂々と人前で言っちゃう健。
優「な、なんか、お前の『襲う』と、俺の『襲う』とは、百八十度違うみたいだから、その話はなしにして、とりあえず運ぶぞ。」
健「お、おう。」
優「それにしてもすげーよな。どうやって乗りきったんだ、あのさっむーい夜を。」
健「そりゃまあ、御師匠様に教わったやり方で。結構常識的なサバイバル法らしいぜ。」
優「後で教えてくれよ。」
健「あぁ、構わないけど、結果は、何処が優勝なんだ?」
優「それはまだ審議中らしい。これはレースじゃないからな。」
健「なるほど、内容次第では、結果を覆せるってわけね。」
優「そゆこと。」
─こうして、サバイバルを終えた健たちは、暫しの睡眠を取るのであった。




