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四章─健の生い立ち①─
─老婆・回想の世界。
謎の声「おんぎゃー。おんぎゃー。」
老婆「どこかで赤子の泣く声が聞こえる…。」
島民1「婆さん!刻の大木の上から、赤子の泣く声がします!」
『刻の木』とは、島一番の大木のことである。 老婆「おお、刻か!儂ももうとしかのう。聞こえはしたが、何処からか全く掴めんかったわい!」
島民1「あ、いえ、決してそんなことは…。」
老婆「いいんじゃいいんじゃ!儂にはもう孫がおる!孫からすりゃ十分『おばあちゃん』じゃよ!!!もっとも儂の場合、昔っから『老婆』じゃがの!」
老婆はそう言って、刻の木の上へと、猛スピードで上っていった。
そこには、まだ生まれたばかりのような初々しさを持つ、一人の赤ん坊がいた。
老婆「おお、この子はかわええのう。どれ、家で預かってやるとするか。一人は寂しいしの。」
老婆は嬉しかった。この子の生い立ちは解らないが、そんなことは、どうでもよかった。
─この後、恐ろしい怪物が現れるまでは。




