四章─御師匠様は色々老婆─
桜「うっわぁ~。ひっろ~い。」
─確かにそこは、『ただのワンルーム』であった。
真ん中には囲炉裏があり、まな板があり、机もあった。ただひとつ、桜の想像を越えていたもの、それは─
宰「到着致しました。」
健「おお~。昔と全く変わってね~な~。」
宰「何を仰る。あなたがここを出てから、まだ一ヶ月経ちませんよ。」
健「ん、そうだったっけ。」
桜「もう、日付の感覚ぐらい、自分で持っときなさいよ。」
健「毎日毎日、それを忘れるぐらい楽しくやってるからな。」
桜「あたしは毎日毎日、忙しくやってるけどね。誰かさんがなんにもできないから。」
謎の老婆「それはちと、儂の教え子にたいして失礼というものではないかな、お嬢ちゃん。」
健が、今までに見たこともないようなスピードで、桜と老婆の間に入る。
健「まさかとは思うが、桜に手を出そうなんて、考えてもいないですよね、御師匠様。」
老婆「ふん、お前は儂の孫同然と、宰も言っておったわい。その孫を馬鹿にされたんじゃ。祖母としては、殴らんわけにはいかんじゃろうて。」
健「違う!!!御師匠様は、ただただ『洗礼』とかいう名目で、ここに来る人全員を殴りたいだけなんだろう!?」
老婆「ふん、健よ。お前も偉うなったのう。この儂に口答えするとは、ええ度胸じゃ。よろしい。お前の嫁と、好きにするがよい。」
桜「嫁って、そ、そんな大層なもんじゃ…」
健「決め台詞か?」
桜「あっいや、つい癖で…ってんなわけないでしょ!この台詞のどこがどんな感じで決まってんのよ!?」
老婆「ははは、若いとはええのう。そうじゃ、儂の名前を教えてやろう。お前さん等、気に入った。」
健「ウソ!?俺も知らないのに!?」
老婆「馬鹿者、弟子の中で一番のいたずら者に、一種の秘密である自分の名前を教えるやつがあるか!!!」
桜「ホントにいたずら者だったんだ…」
老婆「まあいい。こんなかわええ女房を連れてきた褒美じゃ。よいか、儂の名前は…」
皆「名前は…?」
老婆「名前はのぉ…。」
皆「名前は…?」
老婆「老婆じゃ。略して老婆!!!こりゃ傑作じゃい!子供の時も、ピッチピチに若かったときも、既に『老婆』!!!昔はいじめられたりもしたが、今考えると面白い名前じゃて!」
─どうやら自虐を始めると止まらない性格のようである。
老婆「さあさ、健も御友達も嫁さんも、ここでゆっくりしていきなされ。宿をさがしておったのじゃろう?」




