弐章─志願─
─大変な朝が終わり、やっと席に座れた。
桜「ホントすっごい演技だったよ。ありがとね。」
隣の健に話しかける。
健「演技?何の事だ?」
桜「またまたぁ~とぼけちゃってぇ。今時、『恋人』なんて単語も知らない高校生がいると思うほど、あたしは馬鹿じゃないわよ。」
健「ああ、あれかぁ。初めて知ったよ。ダチと同じ意味の単語があるなんてな。」
桜「…はい?」
健「え!?違うのか!?『恋人』と『ダチ』は、両方とも『友達』っていう意味じゃないのか!?」
桜「違うに決まってんでしょうが!!!」
滝田「轟さん!静かに!」
─桜は、会話に気をとられて、授業中なのをすっかり忘れてしまっていた。
滝田「では、パワーウエポン科を志願するか否か、決めてください!」
気がつくと、桜の手元には、『パワーウエポン科志願書』と書かれた紙が、置いてあった。
隣の健はもうとっくに書き終えたらしく、「桜はナイフ後援科、受けるんだろ?」と言ってきた。
桜「う、うん…」
桜左脳の声『しまった!《うん》と言ってしまった!これでは、受けなかったとき、この先の同居生活が気まずくなってしまう!!』
桜右脳の声『いやいや、負けるな桜。別に同居は義務じゃない!気まずくなったらやめればいいんだ!』
左脳『でも…』
右脳『《でも》じゃない!お前はフツーの女子高生なんだ!それをたった一人の友達に、ぶち壊されちまうのか!?』
左脳『でも同居をやめたら、健の行くとこが…』
右脳『今は同居より、志願の問題だろ!今すぐ《NO》と書いて、提出しちまえ!!!』
左脳『でも…』
右脳『でもじゃねえ!』
左脳『でも…!』
右脳『でもじゃねえ…』
桜「でも…でも…でも…」
健「おーいどーした、目ー開けたまま寝てんじゃねーぞー!」
気がつくと、紙が消えていた。
桜「あれっ。紙は?」
健「だから言っただろ。動きたくないんなら、代わりに書いて出しといてやるぞって。」
桜「な、なんて書いたの?」
健「もちろん、『志願します』って。今さら何言ってんだ。」
右脳と左脳、最大の誤算は、この隣人の存在であった。よって右脳と左脳の悩みは、右脳の説得も、左脳の粘りも、結局無に帰したのであった。
桜「うっそー!」




