拾四章─降臨─
桜「健!」
健と結婚して二年。桜は今、四年前の服装に懐かしさを覚える余裕などなかった。
健が、さっきまでの自分と同じ、地獄の中に囚われてしまった。
助けようと急いで走り出すが、最初の一歩を踏み出そうとしたその時、足が絡まって転んでしまった。
健が以前くれた、GPS付き障壁強化チップが、弾みで健の十字架の上飛とんでいってしまう。
─けどそんなこと、どうだっていい。
健を、助けなくては。
琴「∧⊥∇」
琴の詠唱により、健が唸り声をあげる。
同時、琴自身も苦しみだし、透明だった魔法陣が虹色に輝き出す。
琴「こう─なったら─兄妹であろうと─カハッ─儀式を─すいこうするまで─」
すると神殿の天井が突然光り出し、何やら威厳のある御爺さんが降りてきた。
爺「ついにこの時が来たか。」
桜「やめて!」
爺「はて。御主は、誰じゃ?」
桜「やめてください!そんなことしたら、健が─健が、消えちゃうじゃない!」
爺「それはわかっておる。じゃがの、健はもともと、神界の住人。故に、妹共々、回収に来たというだけじゃ。消えはせん。むしろ元の、あるべき姿にて神界に現れるのじゃよ。文句はあるかの?」
桜?「ありますよ。」
桜の眼は、蒼かった。
爺「『悲哀の眼』か。」
どこからともなく水が現れ、氷の矢となって爺に襲い掛かる。
爺「はて…分かっておるのかの?儂は神。御主なんぞに後れを取ることなぞせんわ!」
そう言ってその矢をそっくりそのまま桜に返す。
そして桜は、それを余裕の動きで避ける。
桜の眼は、闇に染まっていた。
神「今度は『憎悪の眼』か…」
すると神は、今度は全体攻撃に移行する。
木や鉄でできた様々な十字架が、部屋の隅々まで漏れなく全ての範囲をカバーして、落下してくる。
桜の頭上からは、木の十字架が降ってきた。
それは桜の頭の1m上で、跡形もなく灰となった。
桜の眼は、紅かった。
神「ほう、どうやら戦闘は無駄のようじゃな。よりにもよって『感情昂眼』の使い手とは、相手が悪かったわい。」
桜?「そう簡単に戦闘を回避できるとお思いで?」
神「あぁ、できるさ。
─儂が降りてきたということは、あとはこの二人を、連れて帰るだけじゃからの。」




