拾参章─菫の心配─
篝「やっと見つけた。」
菫「ここは私が張っておりますので、健様は起こさせませんよ。」
篝「まあまあ、そう構えずに。」
菫「私、正直言って、桜さんが邪魔です。健様の側はいつも、桜さん。なのに彼をいつも心配させるのも、また桜さんなのです。彼には、心の休まる日がございません。桜さんが健様に近づくことは、私にとって非常に邪魔なのです。」
篝「緒河さんは、どうして津田君が好きなの?」
菫「………そ、そ、それはですね…って、何であなたにそんなこと!!!」
篝「じゃあ私も正直に言うわ。悪いけど、あなたに勝ち目は無いと思う。入学式の日からよ、彼等がいい感じなのは。」
菫「知ってます。それを知りつつ彼女から健様を奪い取ろうとしているのですから、勝ち目が薄いのは覚悟の上なのです。それでも、好きという気持ちに変わりはありません。ですから、今もこうして、健様を奪い取ろうと奮闘しているのであって─」
篝「凄いよね、緒河さん。」
菫「いえ、全く。凄くなんかありませんわ。凄かったら、健様はとっくに、私の物ですわ。」
篝「それは違うのよ。何と言うか、津田には、女の子に関してそういう意識が無いのよ。」
菫「分かっていますわ。だから私が、健様の初恋の人に─」
篝「果たしてそうかしら?」
菫「─と言いますと?」
篝「果たして津田は、死にかけの友達を置いて自分の見舞いに来る人を、好きになるのかと言ってるのよ。友達想いの津田に限って、それはないんじゃないかしら。友達想いだからこそ、怪我を押して戦島の戦いに戻ったわけだし。」
菫の心に、何かが突き刺さる。
篝「それに、津田は、桜さんの心配を、そこまで迷惑に思ってないんじゃない?あなたはどうして津田を守ろうとするの?津田は、あなたなんかで守れるのかしら?友達を見捨ててまで、津田を『心配』なんていう小さな心理状態から守ろうとするの?津田がやられるような状況で、あなたがどうにかできる?」
菫の心に、その何かがもっと深く突き刺さる。
篝「あなたの個性にどうこう言うつもりはないけど、津田に振り向いて欲しいなら、津田の周りを変えるんじゃなく、あなたが変わって、津田に惚れられるような素敵な女性になりなさい。あたしには、そこまでしか言えないわ。」
─ここは、何処だ?
記憶がない。プリズンを封印し、島を守ったところなら覚えている。だが、完全に寝ていたみたいだ。
緒河が病室に入ってきた。
菫「お加減はどうですか?」
健「桜は?」
菫「え?」
健「桜は何処だ?」
菫「何故そんなこと─」
篝「すぐ側の階段を上がって、右に行ったところよ!」
健「サンキュ。」
篝「あ、それと─」
ゴニョゴニョゴニョ。
状況説明完了!
健「そうか。わかった。」
健はそれだけ言って、飛び出していった。
菫「まだお怪我をしているというのに。」
篝「目覚めたってことは、治りかけだからね。あいつにとっちゃ、どうってことないんでしょ。」




