拾参章─三本目の電話─
調「まるで死人ですね。」
優「まあそう言うなって。死んじゃいないんだから。」
翼「でも食事は喉を通っていないんだろう?このままじゃ数日後には、本物の死人になるよ。」
聡「貴様、桜さんを死人だとォ!?」
菫「そうです、死人です。折角私が認めてあげたのに、あの様では船に乗せた意味がないではありませんか。」
聡「貴様まで…」
光「落ち着きなさい。まだ死んだわけではないでしょう?説得して、宥めて、励ましてあげれば─」
迷「158回。何の数字でしょう?」
光「何よいきなり。」
迷「明さんや篝さんが、桜さんを励ます試みを行った回数です。もうすぐ159回目。無理でしょうね、このままじゃ。」
菫「全く脆いものです。人をちょっと傷つけたぐらいで何ですか。お陰で健様は救われたというのに。」
翼「属性が反発してるんだよ。ただでさえあの娘はああいう性格だから、武器は握れない。それにブルースタインの王族は、非戦闘的な属性を持ち合わせているじゃないか。」
優「しかもあの不良、滝田の奴が雇った乗組員だったそうじゃないか。それをどっかの馬鹿が知らせたお陰で─」
ちらりと聡を見る。
優「本当は健を沈めるつもりなど無かったと思い、余計落ち込んじまったしな。」
聡「ぼ、僕はよかれと思って─」
優「分かってる。お前は馬鹿だから、『所詮滝田が雇った奴だから安心しろ』ってつもりだったに違いはねぇ。」
香「けど、こうなっちまったのは仕方がないからね。」
病室から明達が出てきた。
明「だ~めだ。ぜんっぜん、聞く耳を持ちやしねぇ。」
篝「やっぱり眠り姫を起こせるのは、王子様だけ、ってことね。」
菫「─駄目です。」
優「はあ?何言ってんだ、もうこうなっちゃあいつしか─」
菫「健様に、これ以上心配をかけてはなりません。私達だけで何とかせねば。」
明「でもよぉ。」
菫「皆さんは、何故、あの方にそんなに頼るのですか?健様は何も悪くはありません。少しぐらい休ませても、いいのではありませんか!?」
─と言い残し、菫はその場を去っていった。
篝「おい、ちょっと!」
篝も後を追った。
調「ちょうどいい機会ですから、お話ししておきましょう。
乗組員達から聞いたことですが、一つ気になる点が。その日滝田先生にかかってきた電話は、三本だったそうです。しかも全て、仕事用の携帯に。」
翼「どうしてそれが、仕事用のだと?」
調「携帯のデザインを聞いたからです。こういうリサーチは得意ですし、滝田先生の携帯はよく見るので。」
流「今校長に訊いてきました。昨日は祝日だったため、学校からの電話は一本もなかったそうです。」
調「一本は不良の容態について、一本は戦島についてだとして、もう一本は一体…」
滝田「それを嗅ぎ付けるとは、いやはや、君等にはつくづく驚かされるよ。君等の先輩方も、そこまで調べられないよ。」
調「た、滝田先生!?どうしてここに─」
滝田「そりゃもちろん、教え子がこうなっては、担任としては来るしかなくね?」
優「そう言われれば、そうかもな。」
滝田「それに、君等に一つ、面白いことを教えようと思って。」
優「ほ、本当ですか?」
滝田「嘘は言わない。」
調「平気で言いそうですけど。」
滝田「それは言わない約束。」
優「それで、今どこに?」
滝田「分からん。もしかしたらもう死んでるかもしれない。」
宰「でもまさか、そんなのがいたとは。御父様に報告しないと。」
滝田「そりゃお喜びになるだろうな。謎が更に深まって。」
優「いや、逆にヒントになるかも。何しろ、もしかしたらそれについて何か知ってるかもしれないし。」
調「知らない保証はない、という程度ですが。」
翼「でも面白いねぇ。あれがそこまで奥深くなるとは。全く想定外だよ。」
香「そんなことにいちいち興味を持つのは、変態だけですよ。」
滝田「でも一刻も早く見つけ出したいよ。もしかしたら神襲来を終わらせる鍵になるかもしれないしね。」
宰「そうですか?たかがその程度のことが分かったところで、戦力に影響なんて─」
滝田「ただの勘だよ。でも、彼の故郷のことを考えると、あながち、間違っていないかもしれないよ。」




