逆ハー畑でつかまえろ☆
◇「はい、あーん」をされた時の各々の反応
~ヤン~
「ヤン。はい、あーん」
「なっ!?
ばっ、バカお前! 公共の場で何やってる!
俺はしないぞ、そんなことは!」
「あーん」
「止めろ! しないと言っているだろうが!」
「もー、照れ屋なんだからぁ。
タマちゃん」
「うむ」
「うわっ、ちょ! う、動けな!?
くっそ、タマおまっ裏切っ!
イッカ、止めろっ! 止めろぉぉおぐふぉ!」
めちゃくちゃ動揺しつつ拒否するも、苺花に命令されたタマに動きを封じられ、その隙に無理やり口に入れられる。屈辱。
~ピ・グー~
「ピーちゃん。はい、あーん」
「ムン?
アー、あぁ、ソういう……」
「あーん」
「エー、あー、マぁ……ウム」
「おいしい?」
「漬け置き方ガ少々甘いナ。
ソれと、強火で焼き過ぎダ。
コの肉ならバ、モう少し弱火でジックリ焼くのガ正しイ」
「そこまでの精度は求めてなかった」
少し恥ずかしげに周囲を見渡した後、観念して食べる。嬉し恥ずかし山椒の木。
~タマ~
「タマちゃん。はい、あーん」
「うむ」
「お味はどうですか?」
「我には味の区別などつかぬ」
「そっか。まだ食べる?」
「うむ」
「はい、あーん」
「うむ」
「タマちゃん、楽しい?」
「うむ」
いつもの無表情で平然と食べる。羞恥?なにそれ美味しいの?
~ゼニス~
「ゼニー。はい、あーん」
「また、そのような……はしたないぞい、イッカ。
衆人環境では他人様を不愉快にさせぬよう、細心の注意を払うべきなんじゃよ。
そういった個人的なことは、せめて個人の空間でやるべきことであってじゃなぁ。
おっと、やっておる本人が気にしなければ良いじゃとか、そんな子供のような理屈をこねるものではないぞい。
そも、気遣いとは他人の立場に立つことから始まり……」
「あーん」
「イッカ、聞いておるのか」
「あーん」
「………………まったく、お前は。
今回だけじゃぞ」
一通り叱りつつも、最終的には食べる。何だかんだ甘やかし隊所属。
~ユーリ~
「ユーリちゃん。はい、あーん」
「えっ、ぼ、僕ですか?」
「うん。はい、あーん」
「は、はい。では……あーん?」
「美味し?」
「はいっ、とても!
あっ、イッカさんもどうぞ!
あーん」
「ありがと。うん、自分で食べるよりもずっと美味しい。
きっとユーリちゃんが愛情込めて食べさせてくれたからだね」
「やだもう、イッカさんたら……」
密かに憧れだった食べさせあいっこに喜んで飛びつく。幸せいっぱい、胸いっぱい。
◇ちょっとだけ甘味成分の濃い誰得逆ハー畑
~ヤンの場合~
「ヤン」
「おう」
「ヤン。ヤン」
「なんだ」
「ヤン。ヤン。ヤン」
「何なんだ、さっきから」
「なーんでもなーい。呼びたくなっただけー」
「はぁ?」
「んーとね。
こぉんな素敵な人が私のこと好きでいてくれてるんだなぁーって、改めて思ったらぁ。
なんだか嬉しくなって心がほっこりして、意味もなくヤンの名前を呼びたくなったの」
「……ふぅーん」
「あーっ。赤くなった、赤くなった。
わぁい、照れてる~」
「うるさい」
「照れマッチョだ!
悪人面の中年照れマッチョだー!
プー、クスクス」
「………………」
「……え、ヤン?」
「…………………………」
「……え、ちょ。あの、ごめん。
謝るから。ね、謝るから。
無言で部屋の隅っこに移動してジッと壁を見つめるの止めよう?
ね。ごめんて。ね?
ヤーンー」
~ピ・グーの場合~
「ねぇ、ピーちゃん」
「ナんダ」
「抱っこー」
「いイゾ。そラ」
「わぁい。っぎゅー。
んふふ、ピーちゃんは暖かいねー」
「単に種族差だろウ。
純粋な人族と獣人族でハ、基礎体温が異なルんダ」
「へぇー」
「シかしナんだ、何かアったカ?」
「ん?
……んーん。意味もなく人肌恋しくなっただけー。
あー。でも、ピーちゃんに抱っこされるのが1番落ち着くなぁ」
「ソうか」
「うん。えへへ、ピーちゃん大好きぃ。すりすり」
「フむ、イッカの唯一の美点はバカ正直で分かりヤすいところだナ」
「……不思議だなぁ。全然褒められてる気がしないんだけど。
私の求めていた甘い愛の囁きと全然違う気がするんだけど」
「ソもそモ、オレのようナ戦闘職の人間にソんなことヲ求める方が間違っていル」
「そういう問題なのかな……」
~タマの場合~
「ちょいと、タマちゃん」
「うむ」
「ひとつ誤解をしているかもしれないから敢えて言うけれど」
「ふむ?」
「私、タマちゃんがもし何らかの奇跡で魔法もなにも使えないただの人間になってしまったとしても、ずっとずっと好きだからね?
タマちゃんの便利な能力だけを見てる訳じゃないからね?」
「左様か」
「うん」
「……実はな、苺花。
近頃の我は、ヤンらに些か羨望を覚えておってな」
「え?」
「我は悠久を漂う精霊と呼ばれし存在。
全て世界は我と共にあり、されど、それ故に孤独も我と共にある。
こうして束の間、人間であるそなたらと同じ時を過ごすことは可能だ。
しかし、この我の力をもってしても、そならたと同じ時を生きることは永劫叶いはせぬ」
「……タマちゃん」
「この身を厭わしく思うわけでも無いのだが……ままならんものだな」
「あっ」
「ん?」
「ならさ。私が死んじゃって暇になったらさ、今度は影から子孫でも見守ってたらいいよ。
きっと変人が量産されてて飽きないと思うよ~」
「……それは各父親の嘆く姿が眼に浮かぶな」
~ゼニスの場合~
「ゼニー、お仕事お疲れ様ー。
はい、膝枕どうぞー」
「あー、はいはい……よっこいせっ、と」
「今日も1日頑張りましたー。なでなで。
あ。ねぇ、ゼニー。
今度時間が空いたらさー、奥さんの話してー」
「……私のかね」
「うん。奥さんのことを話してるゼニーの顔が好きなの。
それでね、ゼニーの思い出の中の奥さんも好き。
2人の関係ってとっても素敵だなって、聞くたびに思うの」
「イッカは不可思議なことを言うのぉ。
普通ならば、前妻に覚える感情は負に傾くものじゃろうて」
「んーー、そうね。
離婚しただけっていうなら、また違ったかもね。
どんな事情で別れたにせよ、そもそも奥さんが生きていたらゼニーが私なんか選ぶわけないし」
「何じゃ。珍しく後ろ向きな台詞じゃな」
「だって、事実でしょ」
「………………かもしれん」
「それでいいんだよ。
だって、前にも言ったけど、私は奥さんを愛したままのゼニーが好きなんだもん」
「私にはイッカがよく分からんよ」
「ん?そう?
なら、とりあえず一発ヤっとく?」
「……私にはイッカがよく分からんよ」
~ユーリの場合~
「………………」
「……?」
「………………」
「ユーリちゃん、どうかした?」
「……えっ。
わっ、ごめんなさい。
み、見惚れてました、イッカさんに」
「あら。ふふ、どうして謝るの?
他ならぬ愛しのユーリちゃんにそう言われて、嬉しくない訳ないのに。
むしろ、もっとジックリ見てくれても良いのよ?」
「ひゃあっ。
ちちち近いです近いですイッカさんーっ」
「近い方が良く見えるでしょう?」
「こんなに近いと逆にボヤけ……あっ」
「うふ、ご・ち・そ・う・さ・ま」
「……っな、こっ!
もっ、もぉーーっ、心臓に悪いから止めて下さいっていつも言ってるのにぃーっ」
「おっほっほ、ユーリちゃんが可愛いのが悪いんですー」
「っかわ……そ、そんなこと言うの、イッカさんだけですからね」
「私だけじゃ不満?」
「………………大好きです」




