インスタント・メシア奮闘記
◇チャパム後日談
「……あれ、魔獣王退治の英雄様じゃあないですか。
どうしたってんです、こんな所に」
「…………」
「もう奥さん子どもさんの仇は取ったんでしょう?
魔獣だって減ってきているんだし、始末屋なんてヤクザな商売からはスッパリ足を洗った方が……」
「情報が欲しい。金ならいくらでも払う」
「…………まぁ、貰うもん貰やぁ仕事はしますけどねぇ」
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「は? 今、何て?」
「だから、料理人だ。料理人。
未知の食材を使った料理の味を適当な代用品で再現できるような、腕利きで特殊な料理人を探している」
「……長いこと情報屋やってますけど、そんなワケの分からない注文を受けたのはコレが初めてですよ」
「別に知らんならいい。他を探すまでだ」
「っと、待った! 待ったぁ!
知らないとは言ってねぇでしょうが!」
「だったら、早くしてくれ。
俺ももういい加減、我慢の限界なんだ」
「……ガマン?
いや、まぁ、旦那の条件にピタリ当てはまるかどうかは分かりませんがね。
とりあえず、料理人と言われりゃあコイツがピカイチだ」
「うん?」
~数日後~
「元より無理は承知の上だ。完璧までは求めていない。
味だ。味さえ近いものが出来れば、それでいい」
「で、あんちゃん。コイツぁ何だ?」
「異界より召喚されし者のもたらした奇跡。
その名も、インスタント麺」
「いん……す……?」
「金ならいくらでも払う。材料が足りないのなら、こちらで用意する。
だから、頼むッ。
どうか、これを俺の生涯最後の味噌バターコーンラーメンにしないでくれ!」
「…………とにかく、もうちょい詳しく聞かせろや。
受ける受けないは、それからだ」
「あ、あぁ」
~かくしかタイム~
「なるほど、そういう事情かい。
確かにコイツの味を再現するのは骨が折れそうだ。
……だが、面白ぇ。俺の料理人魂がウズウズしやがるぜ。
やってやろうじゃねぇか、奇跡の再現ってヤツをなぁ」
「本当か!?」
「あぁ、安心しな。
俺は一度この口に入れた料理の味は二度とは忘れねぇ。
いずれ必ずこの異界の奇跡、お前の目の前に蘇らせてやるぜ」
「おぉぉ! ありがたい! 恩に着る!!」
「なぁに。こんな燃える依頼は久々だ。
逆にこっちが感謝したいくらいだぜぇ。くっくっく」
~五年後~
「おやっさん、もう出来てるって! 充分美味いって!
俺もう満足だから! もう依頼はいいから!!」
「いいや、まだだ! まだ足りねぇ!!
こんなもんじゃあ、あのインスタント麺の足元にも及ばねぇ!!
分かったら、さっさと次の材料集めて来いやぁッ!
最北大陸のコッツォと熱砂島のレンデだけは絶対に忘れんじゃねぇぞコラァ!」
「い、嫌だぁ! あんなトコ行きたくねぇ!
行きたくねぇよぉおおお!」
「つべこべ言うなぃ!
スープのダシにすっぞオラァー!!」
「ひぃーーーーーーッ!
お、おやっさんにっ、おやっさんに依頼なんかしたばっかりにぃぃ!」
◇メシア召喚裏話~地球とラァムの裏取引~
地:うめぇー、このカップ麺マジうめぇー。
ったまんねぇー。
ラ:わっ、美味しそうだなぁー。
ねぇ、ちょっとだけでいいから分けてよ。
地:やーだよーだ。
欲しかったら自分の世界をさっさと発展させればぁー?
ラ:何だよケチぃ。
こっちの世界は魔法があるし、急いで発展させたからってインスタント麺自体、出来るかどうかなんて分からないじゃんかー。
地:そんなの知りませーん。
あー、カップ麺うめぇなー。汁までうめぇなー。
ラ:うぅぅっ。イジワル、イジワル!
だったらこうしてやるーッ!
地:あっ、お前なにやってんだ!
こっちの人間勝手に連れてくなんて、おしおきされても知らないぞ!
ラ:そっちが悪いんだい!
食べたいって言ってるのに分けてくれないからっ!
地:だからって、やっていい事と悪い事があるだろー!
ラ:うるさいうるさい!
僕だってカップ麺たべたいんだもんーっ!
ばかー!
うぇえーん! えーん!
地:なっ、泣くなよぉー。
もー、分かったって。
ちょっとだけソイツ貸してやるよ。
ラ:ほっ、ほんっとっ?
かっ、カップ麺っ、食べっ……られる?
ぐすっ。
地:ああ。
でさ、せめて麺出す前に死なないように、俺からこの人間に幸運の補正つけとくからさ。
ラ:ひっく……う、うん。
早く、食べっ、食べたい。ひっく。
地:そうだな。
こいつが色んな種類のインスタント麺を出して、そっちでも色々食べられるようになるといいな。
ラ:ん……。あ、ありがとぉー。えへへ。