泣き虫オッサン恋物語
◇使用人A視点
それは、いつものようにオッサ……こほん、旦那様が家出をされたある日の夕方の事でした。
ご自分が家出をした事実もすっかり忘れて意気揚々とご帰宅された旦那様は、レイ様とおっしゃる若く美しい女性を連れていました。
全く、妙齢の美女を屋敷に連れ込むなんてこの変た……ごっほ、ごほん。
失礼、本音が。
旦那様が人間を拾って来るのは実は初めてではございません。
各言う私も、ゴミ同然に生きていた幼少期に心無い大人に暴力を振るわれ死にそうになっていたところ、たまたま通りかかった旦那様に拾われた口にございます。
しかし、此度の場合はどうやらいつもと少々事情が違っているようでした。
旦那様はご自覚あそばされないようでしたが、私ども使用人一同はすぐに気が付きました。
レイ様を見る旦那様の目が、いつになく熱を帯びている事を。
そう、我らが旦那様は30も年下の女性に懸想するようなロリコンの変態野郎だったのでございます。
あな、恐ろしや。
最初こそ旦那様の強引なやり口に抵抗していたレイ様でしたが、母性本能がうっかり誤発動でもしたのか、あのウザいオッサ……鬱陶しい旦那様に段々と頭の可哀相な子供を見守る大人のような慈愛に満ちた眼差しを向けるようになりました。
半年が過ぎた頃、ご自身の恋心を自覚した旦那様はレイ様につれない態度を取り始めました。
何でも気持ちがバレるのが怖くて、目も合わせられないそうです。
さすがは旦那様。私たちに直視できないキモさを平気で発揮します。
そして、何がどうなったのか。ある日を境にお二人は正式に付き合いを始めました。
誰がどう見ても犯罪級の異色カップルにございます。使用人一同、それはもう恐れ慄きました。
それから「3ヶ月で別れる」に5口賭けていた私の予想を裏切って、お二人は正式に結婚いたしました。
勤続45年の老執事の1人勝ちでした。
式場にてレイ様の隣りで浮かれまくっている旦那様を前に、賭けに負けた我々が少しばかり冷たい言葉を浴びせてしまったのも仕方のない事だったと思われます。
数年後にお生まれになったご子息がレイ様似であった事は何とも僥倖でございました。
使用人一同、ホッと胸を撫で下ろしたのを覚えております。
その後も、旦那様がお亡くなりになる最期の時までお二人は仲睦まじくお過ごしになり、それはそれは幸せなご家庭を築いていらっしゃいました。
こうして、旦那様と若奥様の世にも奇妙な恋物語が幕を閉じたのでございます。
めでたしめでたし…でしょうかね?
◇心の友より愛を込めて
学生時代からの親友であるオッサンドル・マニスターから数年ぶりに手紙が届いた。
なんと長年独り身だったあの男、50を目前にしてようやく結婚するらしい。
相手は…………30歳年下でしかも美人ん!?
明らかに騙されてるじゃないか!
何が羨ましいじゃろだよ、この馬鹿!
サンドルは仕事は出来るくせに、ことプライベートになるととことん無知純粋でお人好しだ。
何よりアイツはいい年して夢見がちで甘えたがりですぐ泣いて鬱陶しいし、おまけにチビでデブでハゲで……って、だんだん悪口みたいになってきたな。
でも、事実だから仕方が無い。
そんなアイツに好きで嫁ごうなんて若い女がいるものか。
金目当ての悪女に誑かされているに違いない。
あの家の使用人たちも普段はアイツを弄って遊んでいるが、それは慕っているがゆえの行動だし、立場から言って本気の命令には逆らえるものじゃない。
ここは対等にものが言える俺が何とかしてやらないと……。
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なんて思っていた時期が俺にもありました。
レイという女性。
サンドルと方向性は違うが負けず劣らず純粋でお人好しだし、確かに目が醒めるような美人だった。
特に彼女の戦う姿は流麗かつ艶やかで、この俺がらしくなく見惚れてしまった程だ。
それがどうしてサンドルのような冴えないオッサンなんかと結婚しようと思ったのか……残念すぎる。
うちの息子の方が性格も顔も良いし年齢だって近いのに、紹介しようとしたらスッパリ断られてしまった。
くそぉ、あの野郎……上手い事やりやがって。
深海に沈んでしまえ。
かくなる上は、旧サンドル弄り倒し隊メンバーを集めて、それはもうサプライズな結婚祝いのパーティーを開いてやる……っ。
せいぜい覚悟しておくんだな!
こうして、サンドル邸から自宅に戻った俺は、早速悪友達に連絡を取りまくるのだった。
のちに実行されたサプライズパーティーの結果については言うまでも無い。