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各小説小話まとめ  作者: さや@異種カプ推進党


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29/32

美貌の令嬢は理想の巨漢に嫁ぐ

夫婦になった二人についての小話三点。

セリフのみにつき苦手な方はご注意ください。



 ◆とある日の軍内、大将軍専用執務室にて


「やぁ、将軍。また奥方のことを考えていたな。

 英雄夫妻の仲が良いのは結構だけれど、時と場所は考えたまえよ」

「シャスタ殿下。入室一番、何をおっしゃいますか」

「取り繕っても無駄だぞ?

 なぜなら、君が奥方について考えている時に限って、例の物騒な威圧感がすっかり消失してしまうのだからな」

「……は?」

「なんだ、今日まで誰にも指摘されなかったのか?

 そうでなくとも、周囲の態度で分かりそうなものだが」

「……屋敷の者がやけに夫婦二人で過ごすことを勧めるので、妙だとは思っておりましたが。

 もしや、使用人の数が目に見えて急増したのも、新たな女主人を迎えたためではなかった?

 夜会などの場で挨拶が途切れぬようになったのも?

 唐突にサウィーナの話題を挟んで来る輩が多いのも、悪意や下劣な好奇心からの発言ではなく、波動を出させないための苦肉の策だった?

 考えてみれば、泣き叫ぶ幼子や気を失う女の数がかなり減ったような」

「君たちの結婚式を利用した囮作戦が上手くいったのだって、常に隣に奥方がいて、将軍がただの強面の大男に成り下がっていたからだぞ。

 そうでなければ、とても実行可能な案だとは思わなかった」

「それは……」

「ま、サウィーナ殿が聡明な女性であったからこその成功でもあるんだが。

 将軍。君、本当に良い奥方を貰ったな」

「色々と複雑な心境ですが、骨折りいただいた殿下には感謝しております」

「うんうん。ぜひ、そのまま睦まじい夫婦であり続けてくれ。

 我が国のためにもな」





 ◆将軍屋敷内、寝室での夫婦の会話


「ボゾロ様。差し出口になりますが、明日から少々食事内容を改められませんか?」

「食事を? どう改めるんだ?」

「お野菜の割合を増やして、お酒の類は控えめに」

「野菜はともかく、酒もか?」

「いつか戦場に夫を奪われるやもしれぬと、軍人の妻として嫁いだ暁より、(わたくし)もそれなりの覚悟をしてございます……ですが、予期せぬやまいで貴方を失うのは嫌です」

「あー……とはいえ、この歳まで何も問題はなかったわけで……」

「ボゾロ様っ」

「お、おぉ」

「年齢差を考えれば、ただでさえ置いていかれる可能性が高いのですよ?

 (わたくし)っ、私、一日でも長くボゾロ様の隣で過ごしていたい、ボゾロ様と共に生きていたいの。

 お願い。お願いします。未熟な妻を、それでも愛してくださっているのなら、どうか」

「……サウィーナ」

「お酒が心の安らぎに不可欠というのであれば、私がその代わりに何でも致しますから」

「ごほッ!」

「大丈夫です。ボゾロ様のためなら、どんなことだって、私……っ」

「や、やめろ! やめなさい! 分かった、酒は控える!」

「まぁ、(まこと)ですか! 良かった」

「そもそも、なぜ今、このタイミングで切り出したんだ。

 夕食後ではいけなかったのか?」

「使用人に小娘の言いなりなどと誤解されて、主としての尊厳が損なわれては申し訳ないと」

「えっ、あー、そうか。それで二人きりになるまで待っていたわけか……全く紛らわしい」

「紛らわしい? …………っあ」

「いやっ、ち、違うぞ、サウィーナ」

「ええと、その、(わたくし)は、ボゾロ様が望まれるのでしたら、どんなことだって……」

「頬を赤らめて言い直すなっ。

 そもそも、貴女という妻がいることで、俺はこれ以上なく満たされているのだ。

 今さら他に望むものなど有るはずがないだろう」

「え?」

「どんなワガママだろうが、おねだりだろうが、対価など必要ない、いつでも口にすればいい。

 全て叶えるとは誓えんが、何を言われたところで嬉しいだけだ。遠慮はするな」

「も、もうっ。酷い人。

 そうやって、いつもいつも(わたくし)ばかり夢中にさせて。

 ……お言葉、そっくりお返し致しますわ。

 愛するボゾロ様に何を望まれても、私は嬉しいだけです。どうか、遠慮なさらないで」

「っお。はは、そう来たか。敵わんな、サウィーナには」





 ◆とある新米メイドの受難?


「ここの旦那様、確かに体もすごく大きいし悪そうな顔付きをしているけれど、散々聞いた物騒な噂ほど恐ろしい人じゃあなさそうですよねー?」

「……確かに、無体を働くような御方ではありませんが、油断は禁物です」

「へ?」

「よいですか。新人は特に配置に気を付けているけれど、万が一、一人でいる旦那様を見かけたら、声を掛けようなどとは思わず、すぐに引き返しなさい。

 もし、それが適わない状況なら、とにかく奥様の名を出して、旦那様の意識が逸れた瞬間を狙い、すぐに逃げ出すのです」

「え? えっ? え、いや、えと、冗談、ですよね?

 そんな、御国の英雄様に対して、不敬な……」

「冗談、で済めば良かったのですけれど、ね。

 私たちもなるべく目を光らせてはおきますが、努々(ゆめゆめ)気を付けなさい」

「えぇ……?」


~後日、廊下の曲がり角~


(な、何? 右の通路から、とんでもなく怖ろしい気配が、ち、近付いて……?

 この廊下を真っすぐ進みたいのに、あ、ああ、足が竦んで、動けないっ!)


「ひっ!? い、嫌っ、来るッ!?」

「……ノ……ス卿は軍を何だと……ん? 新しい使用人、か?」

「っだ! だ、だ、だん、旦那さっ!?」


(あ、あ、し、しぬっ、ころ、ころされるっ!

 なに、なになにこれこわいこわいこわいこわい!

 あああ、あぁああぁあ、こんなっ、こんなのっ、ば、ばけもの!

 いやっ! たすけておかあさんッ!)


「……あぁ、しまった。屋敷の中で少々気を抜いていたか。

 聞こえているか分からんが、何も危害を加えるつもりはない。

 俺はこのまますぐに立ち去るから、落ち着くまでそこでジッとしていなさい」


(ひぃ! な、なにかいってる、こわい、わからない、ど、どうしたらっ!

 ……っあ、あ、そうだ、せんぱい、たしかせんぱいが!)


「ッさうぃーなおくさまぁ!」

「む? サウィーナ? どこだ?」


(こわいのなくなった!? ッ今だ!)


「ひゃーーーあああああああぁぁぁぁぁ…………ッ!」

「…………お、おお、逃げた。

 案外、土壇場で度胸の出るタイプだったか。

 貴重な人材だな、懲りずに勤め続けてくれれば良いが」

「あらあらまぁ、ボゾロ様ったら。

 またメイドを泣かせておりましたの?」

「ぬっ!? サウィーナ、なんだ本当に近くにいたのか。

 いや待て、人聞きの悪い言われ方は止めてくれ」

「うふふ。これは当て擦りですのよ、ボゾロ様。

 伯爵家の敷地内では、極力お仕事のことは忘れて、(わたくし)のことだけ考えてくださる約束だったのに、簡単に破っておしまいになるものですから」

「あ、うむ、そうだったな、うむ……悪かった」

「許しません。もっともっと(わたくし)に夢中になってくださいませ」

「む、参ったな。これ以上となると、軍務に支障を(きた)しかねんのだが……。

 というか、今でさえ少々怪しい」

「ま、まぁっ。それならば仕方がありませんね、許してさしあげます」

「……そうか。慈悲深き妻に感謝を」

「今は言葉より態度で示していただきたいわ」

「ああ、もちろんだとも。愛しいサウィーナ」

「ボゾロ様……」


~夫婦のイチャイチャ三分前、サウィーナの私室~


「お、奥様っ」

「あら、メイド長。そんなに慌てて、どうしたのかしら」

「旦那様がお一人で屋敷を徘徊されて……間もなく新人の配置区画に……ッ」

「そう。皆まで言わなくて結構よ。すぐに参ります」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「気にしないで。これも愛する旦那様のためですもの……ね?」




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― 新着の感想 ―
[一言]  家の主人なのに徘徊って言われてる(((*≧艸≦)ププッ
[良い点] サゥイーナ様が猛獣遣いのようで素敵。 いや、本当の猛獣遣いか・・・ [一言] メッセージでのお知らせありがとうございます。 可愛い。ひたすら可愛いお話ですね。 そして私は新キャラの新人…
[一言] 私も。メッセージ有り難く、早速ニマニマしながら読ませて頂きました!奥様に振り回される将軍様、最高でした! 世界平和の為、サフィーナ様にはいつまでも将軍を尻の下に置いておいてほしいですね。食生…
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