変愛ダブルトリップ
本当に本気で出会った翌日に籍を入れ夫婦となった触手とアザミ。
彼らは、巨大なアリ塚のような外見の建造物を新居とし、仲睦まじく暮らしていた。
「しかし、悪いねぇ。
新婚さんのお宅に居候させてもらっちゃって」
リビングのスライム質なソファに腰掛け、眉尻を下げて肩を竦めるのは、アザミと共にトリップしてきたケモナーのイヨだ。
この世に二人ぼっちの日本人であるからして、例え、片方が新婚といえど、離ればなれに暮らす選択肢は彼女たちには取れなかった。
「え、どうしたの今さら急に。
もしかして、肩身狭い思いさせちゃってる?
でも、私、イヨを邪魔者扱いで追い出すような真似する方が、よっぽど精神にクるからね?」
【そういうことです。
妻の心の安寧のためにも、どうぞ気兼ねなくお過ごしください】
「んー、うん、まぁ。肩身はそんな狭くない、大丈夫。
たまに目のやりどころに困るシーンに遭遇するぐらいで」
「んんっふぉ、ごめんっ」
「そりゃ、新婚だし、ちょっとイチャついてるぐらいならいいんだよ、全然?
むしろ、ちゃんと相思相愛なんだなって、安心するし。
ただ、さすがに友人のそういう、本格的なのは、ご遠慮したいっていうかね」
【それは、あの、申し訳なく……以後、気を付けます】
「うっす、お願いしまっす。
私もまだ一人は心細いし、今しばらくの内は素直に甘えさせていただくつもりですので、はい」
そんな会話を終えた後、居た堪れなさから逃げるように、イヨがサッと立ち上がる。
「それじゃ、そろそろ日課のイケモフウォッチングに出かけてくるわ」
「また?」
言いつつ、玄関まで友人の見送りをしようと、椅子型に編み込まれたシダ触手から離れるアザミ。
旦那を物理的に尻に敷くなど、これが人間同士であれば、確実にSでMな特殊プレイといえる行為に当たるのだろうが、相手は日本の常識外となる魔界系生物であるので、こうしたことも普通になされる……ものではなく、やはり少々特殊な趣味に該当した。
二人並んで移動して、イヨが丸い玄関扉を押し開ける直前、アザミは声を抑えて彼女に問いかける。
「いい加減、誰かいい人いないの?」
「いないねー。
贅沢な悩みなんだけど、本当にイケモフだらけで決めきれなくて」
「ちなみに、現時点でのランキングは?」
「んー、一位は安定の白頭鷲な隊長かな。
次点が、北のレストランでウェイターしてるミンクでしょ。
それから、僅差で、大通りで木工アクセ売ってるサモエド。
あとは、守護隊事務長の長毛黒馬も捨てがたい」
「毎回、一位メェッザーさんじゃん。
もう彼にしちゃいなよ」
「いいや、まだまだ。
この世界だって広いんだから、もっといいイケモフに会えるかもしれない。
少なくとも目移り繰り返してる内は、特定の誰かと恋愛関係になるのは失礼でしょ」
「そこは分からなくもないけどさ……」
「ま、ま、ま、そゆことで行ってくるよ」
「はいはい、気を付けてね」
呆れる友の視線を背に、イヨは早足で町へ溶け込んでいく。
それから約三十分後。
飛翔可能魔物用の上階玄関から訪問してきた白頭鷲の異形を、アザミは微笑みと共に出迎えた。
「おう、邪魔するぜ」
「あら、隊長さん。いらっしゃい」
「ええと……アイツはいるか。
アンタと来た、アレ、相方の……」
「イヨですか?
彼女なら、ほんの少し前に出かけたばかりですよ。
言伝があるようなら、承りますが」
「あぁ、いや、居ねぇならいいわ。
大した用じゃあねぇんだ」
「そうですか?」
「あぁ、そんじゃどーも」
「はい、ごめんください」
イヨの不在を知って、さっさと空へ退散してしまった隊長鷲を見上げながら、アザミは小さく独り言を零す。
「……絶対、気があると思うんだけどなぁ」
そんな彼女に向かって、廊下の奥から姿を現した触手から、淡々とした念話音声が飛ばされた。
【アザミさん】
「あっ、ドゥー君!」
愛する夫の登場に、アザミは満面の笑みで背後を振り返る。
しかし、うねる触手を視認した瞬間、彼女の表情は一変、曇ってしまった。
「あれ……?
えっと、ごめんなさい。
私、何か気に障ることしちゃった?」
【っえ】
「不機嫌になっているみたいだから」
【いえ、それは……アザミさんは、なぜ私が不機嫌だと?】
「え?
だって、触手の揺らぎ方が苛々してる雰囲気だったから……違うの?」
【揺らぎ方?
たったソレだけで?
今まで、念話ですら抑揚がなく、考えが読めないと他人に気味悪がられ距離を置かれ続けた私が?
そんなにもアッサリと?】
「ええっ?
読めないって……思考までは無理でも、感情だけなら、いつもすごく分かり易いでしょう?
ちょっと見てればすぐ分かるのに、皆どれだけ怠慢なの?
そのくせ、理解の及ばない原因を一方的にドゥー君に押し付けて……?
え? コレ、ギルティ案件では?
ねぇ、愛しの旦那様。
アナタを傷付けた罪人共は今どちらに?
私、妻として、ご挨拶に伺わないと……」
闇のオーラを背負ってドス黒く微笑むアザミ。
その目は完全に据わっている。
彼女は、この世界でようやく得た夫への深すぎる愛ゆえか、かなり過激派寄りのオタクに変貌を遂げていた。
完全にモンペである。
【落ち着きなさい、それには及ばない。
私は、最愛の妻であるアザミさんが、私のことを理解してくれているという事実だけで、充分に満ち足りているのだから】
「うっ! 推しがしんどい……っ!」
しかし、見た目以外は比較的マトモな触手が、彼女の暴走を許さない。
短期間ですっかり妻のコントロール方法を覚えたドゥバグィは、胸元を押さえて床に倒れ、心のままにローリングするアザミを生温く見守った。
廊下は冷えると、触手で彼女を抱え上げリビングへと戻れば、その約五分後、萌えの落ち着いたらしい当人から改めて質問を投げられる。
「で、何で不機嫌だったの?」
【その件については、大変申し上げ辛いのですが……。
最近よく、家にメェッザー隊長が来るでしょう?】
「ですね」
【それを、貴女はいつも笑顔で出迎えていて……。
私のような冴えない男より、彼の方が良く思えてきたのではと……情けない話、不安で】
「えーっ。
そんなの、隊長さんがドゥー君の上司だからっていうのと、あと、近い将来イヨの旦那になるかもしれない人だから、愛想良くしとこうっていう、打算的なものでしかなかったんだけど」
【打算……】
「ドゥー君が不安になるなら、私……隊長さんのこと、今度から般若顔で罵詈雑言浴びせて追い返すよ?」
【止めなさい、君はいつも結論が極端すぎる】
「あっはい。
えっと、じゃあ、最愛の旦那様が不安になる隙もないぐらい、ずーっとイチャイチャしちゃう?」
【んんっ、それは……その………………ぜ、是非】
「ヒィーーーっ照れ触手! 可愛い!
私の! ダーリンが! 可愛い!
最強! 存在が無限大!
ドゥバグィ、好き、大好き、愛してる!
私、貴方と結婚できて、とっても幸せっ」
【クッ、またそんな正確にアレ用の触手を!?
どうやって見分けて……ちょっ、アザミさ……っ!
今日は遅番でこの後まだ仕事が、待ちっ……アッーーーーーー!】
仲良きことは美しきかな。
一方、外出したイヨはというと……。
「神様、ありがとうございます。
道を歩けばイケモフに当たる、素晴らしい世界にご招待いただいて、私の人生ウハウハです」
(お、いやがったな)
今日も今日とて、天高くから鷲にストーカーされていた。
一応、仕事が非番の時に限ってはいるが、若干ワーカホリック気味だった以前と異なり、かなりのペースで有休を取得するようになったせいで、隊長決裁の必要な書類が滞りがちで、事務方からは少々不満に思われていたりする。
公園のベンチで休憩がてら、イヨは通りを歩く異形たちをさり気なく流し見していた。
まさしく、イケモフウォッチングである。
「おおっ、あそこの道行く羊な配達員さん、いいモフ毛っぷりだわ」
(バカ言え、どう見ても俺の方が上等な毛並みだ)
「まぁ、個人的な好みからは外れるけど、観賞用として可愛いよなぁ。
やっぱり、顔面ガッツリ埋もれられるぐらい、たっぷりモッフリ量があって、それでいてサラフワな毛だと最上だよね」
(俺じゃねぇか)
「でも、恋人にするなら、どっちかといえば可愛い系より、キリっと格好良い系がいいんだよなぁ。
とはいえ、イケメンタイプは毛質の硬いタイプが多くて大概惜しいっていうね」
(俺はどっちも兼ね備えてるだろ)
「おっと、そろそろ手伝いの時間だわ」
(手伝い?)
「育児士さんたちも、あんな少ない人数で大変よねぇ」
(あぁ、例の孤児院か)
友人のアザミにも話してはいないが、ここ数日、イヨはとある孤児院でボランティア活動をしていた。
きっかけは、町で遭遇した迷子のイグアナ幼児を、そこへ送り届けたところからだ。
院に勤める育児士の内一人が妊娠していたのだが、予定日よりもかなり早くに赤子が産まれてしまい、運営本部から派遣されるはずの代替え職員の到着が間に合わず、ただでさえカツカツの従業員数であったため、人手の足りない状況に陥ってしまった。
一目で分かる程てんてこ舞いになっている彼らに同情したイヨは、派遣職員が来るまでという条件で、手伝いを申し出たのだ。
働きに対して報奨を支払おうとする院長に対し、彼女は、資格を持った正規の職員ではないので、無償である方が互いに責任を負わずに済むと、受け取りを固辞した。
そして、その一連のやり取り全てを空からストーカーが見ていたのである。
ケモナーのイヨではあるが、姿形によって幼子への態度を変えることはなく、誰しもを平等に慈しむ様子は、孤児院職員らに大変な感銘を与えたのだという。
例え、正規の育児士であっても、特定の種族に苦手意識を持つ者は存在する。
理由は、単に種族的な相性の問題であったり、見目が生理的に受け付けないなどの問題であったり、歴史的背景による差別思想の問題であったりと様々だが、だからこそ、彼女は稀有な戦力として、あっという間に院の大人たちから認められ、仲間として溶け込んでしまった。
隠れオタクとしての高度な擬態技能で優しいお姉さんを演じるイヨは子どもたちの人気も高く、そんな彼女を、メェッザーは微笑ましく思うと同時に、明らかに気がある風の少年に苛立つなどしつつ、飽きもせず眺め続けているのである。
その後、忙しい時間帯のみという条件での手伝いは程なく終了し、体を伸ばしながらイヨは帰路に就いた。
さすがに副隊長のドゥバグィには存在を看破されてしまうだろうということで、今日の警護もここまでかと、宙に留まったまま、彼も自慢の翼を大きく横に伸ばした。
そう、メェッザーは己のストーカー行為に対し、異界の幸姫を秘密裏に守るための正当なものだと無理やり自己弁護していたのだ。
完全にヤバイ方向に進んでしまっている、誉れ高き守護隊隊長である。
そして、のんびりと徒歩で新婚ハウスへと戻る途中、人通りの少ない小道でたまたまちょっとした事件に遭遇してしまうイヨ。
「ドロボーーーーーっ!」
彼女の目の前で、ウォンバットの老婆が引ったくりにあってしまったのだ。
ちなみに、かなり末期なケモナーのイヨであるからして、生えている毛の状態から、若人か老人か程度の区別をつけることは容易だった。
(おいおい。俺の監視下で、上等じゃねーか)
もちろん、非番とはいえ守護隊を預かる鷲の異形は、すぐさま犯人の追跡を開始する。
さすがに人外の脚力に敵うものではないので、人間のイヨは冷静な思考で、鞄を盗られて倒れ込んだままの老婆へと声をかけた。
「あの、お婆さん。大丈夫ですか?」
「っあ、えぇ。
ありがとう、お嬢さん。私は大丈夫よ。
でも、鞄……鞄が……アレは亡くなったおじいさんが買ってくれた、大事な鞄だったのに……」
「ええ!?」
「ああっ、私、なんてこと……おじいさんに申し訳が立たないわ」
そう言って、さめざめと泣き濡れるウォンバットの丸い背を、イヨが困り顔で撫でさする。
「お婆さん、えっと、私で良ければ、探しましょうか」
「え?」
「手慣れてる輩は早々に中身だけ抜いて、足のつきやすい財布やバッグはその辺に捨ててしまうことが多いんです。
だから、さっきの男の走っていった方角を重点的に探せば、お金は無理でも、その鞄だけなら見つかるかもしれないって……」
「いいえ。
いいえ、ダメよ、お嬢さん。
そんな大変なこと、貴女にさせられないわ。
鞄のことは、もういいから」
「でも……っ」
「本当にいいの。
だってね。考えてみれば、物がなくたって、おじいさんとの思い出が消えるわけじゃないもの。
ね。だから、大丈夫よ。
その気持ちだけで、私とっても嬉しかった。
ありがとうね、お嬢さん」
「……お婆さん」
自分が余計な口をきいたせいで、心優しい老婆に大切な品を早々諦めさせてしまったと、イヨは悔しさに軽く唇を噛んだ。
その時である。
「俺の目が黒い内は、領内でクソッタレ共に勝手な真似ぁさせねぇよ」
覚えのある声に彼女が脊髄反射で振り向けば、その先に、超級イケメン白頭鷲が後光を背負い立っていた。
「メェッザーさん!?」
驚くイヨをよそに、彼は羽手に掴んでいた物をウォンバットへとおもむろに突き出し、押し付ける。
「ホラよ、婆さん。これ、アンタのだろ。
安心しろ、中身も全部無事だよ」
「ああっ! そうです、この鞄!
お、おじいさん……っ」
受け取った手提げ鞄を胸に抱いて、数分前とは異なる安堵の感情に、老婆はポロポロと涙を零す。
「ありがとうございますっ。
ありがとうございます……っ!」
「気にすんな、コレも職務の内だ。
あー、ホラ、落ち着くまでアッチで座ってな」
繰り返される感謝の言葉を面映ゆそうに受け流してから、メェッザーは自然なエスコートで彼女を近くの木製ベンチへと誘導した。
小さく鎮座まします老婆を見届け、少し距離を取った鷲の異形の逞しい背へ、イヨはコソコソと近付き疑問を投げかける。
「えっと、犯人は?」
「引ったくりなんてぇチンケな輩は、本来、町の警備隊が管轄だからな。
確保した後で、ソッチ呼び出して引き渡した。
被害者側の聴取もしなきゃなんねぇし、もうすぐここにも何人か来んだろ」
直後、メェッザーの言葉通り警備隊の面々が到着し、老婆と目撃者のイヨは、ごく簡単に事情を尋ねられた。
あまり仰々しくならなかったのは、彼らの数段上位にあたる王領守護隊の隊長が居合わせ、何くれと口添えしていたからだろう。
やがて、特に警備署へ連れられることもなく、その場で解散の流れとなり、警備隊はウォンバットを、メェッザーはちゃっかりイヨを家まで送り届ける役目を負った。
横並びで触手屋敷への道を歩きながら、二人は他愛ない雑談に興じている。
「そういえば、メェッザーさんは、どうしてあそこに?
さも居合わせたみたいな雰囲気出してましたけど、そもそも引ったくり現場にいなかったですよね?」
「それが、いたんだよ。
休暇に空の散歩と洒落込んでみりゃあ、たまたま声が聞こえてきてな。
追って覗けば、犯行目撃ってワケだ」
「あ、なるほど、飛んでたのか」
たまたまも何も、彼はストーカー行為に勤しんでいたのだが……物は言い様である。
「で、見ちまった以上は放っておけねぇだろ」
「それはそれは。
お休み中のところ、大変なご迷惑をおかけしまして……」
「お前に頭下げられなきゃなんねぇ覚えはねえよ」
「いえ、でも、こうして送ってもらっちゃってるワケですし」
「んなもん、俺が言い出したこったろうが。
それでいちいち恩着せるような、了見の狭い男だとでも思ってんのか?」
「……フホっ、パねぇ。イケモフが過ぎる」
異界の鷲にはサッパリ意味不明な呟きを零しながら、彼女は溢れそうな萌えを留めるが如く、己が唇を両手のひらで強く覆った。
そんなイヨにチラリと視線を送って、メェッザーが何気ない風を装い、本日、わざわざ副隊長の家を訪れた目的を果たすべく、嘴を開く。
「あぁ、そうだ。
前に欲しがってただろ、コレ」
「え?」
「やるよ。
ちょうどさっき一本抜けたんでな」
「んっほおおおおおおッ!?
かっかかか風切り羽!?
これなるはメェッザー殿の風切り羽では御座らんか!?」
「まぁな」
しれっと言っているが、もちろん、さっき抜けたなどというのは大嘘で、実際は彼女に渡すために厳選に厳選を重ねた代物である。
鷲の異形は大層なええ格好しいだった。
「えっ、これっ、こっ、いいいいただけるので!?」
「そう言ってるだろ」
「ひゅほおーーーっありがたき幸せぇーーーー!
やった、家宝! 家宝にしゅるぅーーーーーッ!」
(何で、これだけ狂えて俺に決めねぇかね、コイツは)
息を荒げながらも、丁寧な指使いで貰った羽を撫でるイヨ。
彼女の動きに合わせて、するすると形を変える己の毛を眺めている内、メェッザーの心にドロリとした欲望が湧き上がり、やがてソレは徐々に広まって、全身に熱く渦巻いた。
感情の赴くまま、守護隊隊長はイヨの耳元に鋭い嘴を寄せる。
「なぁ、お前、さ」
「っふぁい!?」
低く囁けば、羽に夢中になっていた彼女は、大仰に肩を跳ねさせつつも、応えを口から吐き出した。
イヨの顔が上がり、色の違う二人の視線が交差する。
「そんな羽一本で喜んでないで、丸ごと欲しいとは思わねぇの?」
「…………へ?」
予想外の質問に間抜け面で呆ける幸姫を、鷲の異形は強引に近くの路地裏へと引き込んだ。
更に、彼は大きな翼で、壁と自身との間に華奢な体を囲い込む。
「なぁ、イヨ。
いつまでも他の野郎にうつつ抜かしてねぇで……いい加減、俺にしとけよ」
「んがっ……おぼばっ……!?」
自分内ランキング独走トップのイケモフによる突然のモーションに、驚きと緊張とトキメキと、その他多種多様な感情の波に飲み込まれ、イヨは人の言葉を失った。
そんな、すでにギリギリの全身真っ赤なケモナーへ、白頭鷲はここぞとばかりに攻勢を仕掛けてくる。
「そしたらよ……触り放題、だぜ?」
焦がれる女の腕を取り、メェッザーは己の豊かな胸元へと導いた。
細い指先が温かな羽毛の塊へと埋もれ、瞬間、爆発するような多幸感がイヨに襲いかかる。
「ぷんッッッ!?」
「俺だけを見ろ。
常に俺だけに夢中になってろよ。
もう他の男になんか、目ぇ向けんな」
彼女に胸羽を触れさせたまま、彼は必死に愛を乞う。
向けられる真剣な眼差しに、イヨは何とか理性を総動員させて、現状を把握し会話を成すために思考を巡らせた。
「あっああ、あの、こ、これ、これは、どういう意味と……」
「好きだ」
「ひぎっ!」
「一生愛してやるから、俺の嫁になれ、イヨ」
「おほおおおおおッ!?
ほほっ、わたっ、私っ、いつの間に夢小説の主人公に転生してましてっ!?
フラグっ! フラグ立った覚えないよぉ!?」
「おい。
独りで愉快にトんでねぇで、返事が欲しいんだが?」
「あっあっ、はひっ、すっ、わ、わわっ」
「落ち着け」
「へ、へい。
その、わ、私なんぞで良ければ、ええ、喜び勇んでラブ☆モッフン……いや違うコレは年末に読んだ薄い本のタイトルでバカ自分何を急にバカお前脳みそお前バカ」
「だから、落ち着けって。
……ったく、締まんねぇなぁ。
要は、了承ってコトでいいんだろ?」
「………………はひ」
涙目で頷けば、囲いと化していた翼が縮まって、彼女の背をフワリと撫でる。
「じゃあ、もう俺のだな」
「はプ!」
直後、安堵の息と共に抱きしめられて、イヨはサラフカの羽毛にスッポリと埋まった。
心地良すぎて昇天するかと思った、とは、後の彼女の証言である。
間もなく、善意の一般人に勘違いから通報されてしまうまで、二人は無言で温かな幸福に包まれ続けていた。
「すみませんすみません合意です、すみませんんんん!」
「ホンット、締まんねぇな!?」
おわり




