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各小説小話まとめ  作者: さや@異種カプ推進党


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20/32

声しかしらない



「えー、こちらが婚約者の……」

「アルレイシアと申します」


 根気強く父親を説得し、無事に朧夜の君との婚約を果たしたアルレイシアが、彼の弟妹を前に楚々とした笑みを浮かべた。

 ジュリオの父母はともかく、位が下の彼らに(こうべ)を垂れることは許されないので、彼女はその表情に精一杯の親しみを含ませる。


「お噂はかねがね……私は次男のドメニコと申します」

「三男、ウルバーノです」


 対して、細身の次男が感情を読ませない微笑みを返しつつ丁寧に腰を折れば、続いて、骨太な三男が緊張した面持ちで小さく頭を下げた。

 ドメニコはともかく、ウルバーノの行為は目上に対し不遜と受け取られて仕方のない簡素なものである。

 が、ジュリオより教育不足による非礼がほぼ必ずあるだろうと先んじて詫びを入れられていたため、アルレイシアは嫌われているのではないか等と萎縮することなく、彼の態度を受け流した。

 名乗りが終わり、弟二人は、背後の姉妹たちに場所を譲るように身体を傾ける。

 が、すぐに動き出すものと思った女性陣は、彼らの動きに気付くことなく、互いに顔を寄せ合い何やら小声で囁いている。


(すごい……成金オッドじいさんの後妻のタリバ夫人なんかと全然違うわ。

 お召し物は華美すぎず上品に整えられており、軽やかな素振りに合わせて漂う芳しくも麗しい香りはされど慎ましやか、その仕草のひとつひとつに優雅かつ洗練された気品溢れ、湛える微笑みも淑やかでありながら聖母のごとき慈悲深ささえ感じさせ……これが王都の、真に上流階級のご令嬢というものなのね……)

(由緒正しい伯爵家の御血筋とは聞いていたけれど、まさか、こんなにもハッキリと身の丈に合わない相手を連れてくるだなんて、いったい誰が思うのよ。

 ほ、本当にジュリオ兄さんなんかで大丈夫なのコレ? すぐ離縁されちゃわない?)

(リオ兄さんよりもさきに、まずイナカのセイカツにたえられなくなりそうっ)

(うわ、有り得るわソレ)

(どうするの。あんな上等のお相手と離縁だなんてなったら、きっと後の社交界で総スカンよ。

 今からでも隣国に嫁いだエンマ姉さんのツテを頼って次の候補を探してもらった方が良いかしら)

(でも、もし、ほかの女の人をさがしてるなんてバレたら、それこそリエンの元になるかもしれないわ)


 ちなみに、室内が静かであることもあり、彼女らの会話は当のアルレイシアにはもちろん、その隣に立つ長男ジュリオにも丸聞こえであった。


「その……不肖の妹が大変申し訳なく……」

「まぁ、とんでもないことですわ。

 どうか妹様方をお責めにならないで、きっとご長男のジュリオ様を心配なさってのことでしょう。

 (わたくし)は、むしろ好ましくさえ思います」


 悲壮な表情で額に手をあてるジュリオへ、安心させるように言葉をかけるアルレイシア。

 そんな二人の様子を見て、弟たちが慌てて姉妹に注意を呼びかける。


(おい、お前らっ。余計な話は後にしろって)

(この愚妹共っ。

 くれぐれも失礼のないようにと、父さんからも事前に忠告されていただろうっ)

(えっ?)

(……ッあ!)

(やだっ)


 彼らの諫言に、ようやく状況を理解したらしい女連中が、揃って顔色を青くさせながら頭を下げた。


「っ失礼致しました、三女のベルティーナと申します」

「よ、四女のモニカです」

「五女ラウレッタですっ」

『この度はご婚約おめでとうございますっ』


 早口にセリフを述べ、深く腰を曲げる三人の妹たち。

 アルレイシアは相変わらず柔らかみのある笑みを浮かべながら、瞳だけを静かに細めて悦びを表現した。


「お言葉、感謝致します。

 ジュリオ様の妻として、また貴方がたの義姉として、相応しくあれるよう努めて参りたいと思います。

 どうぞ、これからは家族として仲良くしていただけると嬉しいわ」


 最後に敢えて少し言葉遣いを崩すことで、彼女が本心から彼らと親しくなろうとしていることを伝えようとする。

 そんなアルレイシアの真摯な心が響いたものか、弟妹たちはホッと胸を撫で下ろし、特に妹三人はいたく感激したようで、頬を紅潮させつつ熱い息を吐いていた。


「あ……アルレイシアお姉様……」

「なんて素敵な御方なの……これぞ理想の淑女の姿だわ……」

「リオ兄さんはいらないから、お姉さまにはずっと家にいてほしいっ」


 夢見る乙女のように目を輝かせる女性陣。

 彼女たちから漏れた呟きに、兄弟三人がそれぞれ呆れぎみに肩を落とした。


「……お前ら、たいがい現金すぎるだろ」

「はぁ、今後が思いやられる……」

「アルレイシア様……あの、大変、苦労をかけることとは思いますが、どうか見限らず、その、寛大なお心で末永くお付き合いいただければ幸いと……」

「えぇ、もちろん。

 ですから、ジュリオ様。そのような暗いお顔などなさらないで」




~~~~~~~~~~




 翌日。

 屋敷内廊下にて。


「あっ、あの、アルレイシアお姉様。

 わた……わたくし、王都で流行の刺繍柄を教えていただきたくて」

「私、その、お姉様のように美しい所作を、ぜひとも身に付けたいと思っておりまして……もし、よろしければ、おし、教えていただけないかと……」

「わ、わたしっ、お姉さまとお茶したいですっ」


 偶然に通りがかったアルレイシアを囲んで、目尻を朱に染めながらマゴマゴと慣れぬ言葉を投げかける姉妹たち。

 彼女らの様子から、愛するジュリオの家族に無事に受け入れられたのだろうと、アルレイシアは歓喜を胸に静かに笑んで、小さな頷きと共に応えを返した。


「ええ。(わたくし)でお役に立てることがあれば、喜んで」

「きゃあっ」

「ッやった……じゃないっ! ありがとうございます、アルレイシアお姉様っ!」

「じゃあ、じゃあ、えっと、じゅんばん、じゅんばんをですねっ」


 寛大な義姉からの了承を得て、女三人は分かりやすく湧き立った。

 と、そこへ、隣接された階段下から現れた三男が、彼女らの様子を見るなり顔を顰めて、荒々しい野次を飛ばす。


「おいおい、お前ら。何してんだ、んなとこでギャーギャー騒ぎやがって。

 まさか、まぁたろくでもないこと言い出して義姉上を困らせてるってんじゃあねーだろうなっ」


 瞬間、鋭くギラついた瞳で揃って背後を振り返る姉妹たち。


「まぁ、ウルバーノ様。ごきげんよう」

「えっ、お……あー、ご、ごきげんよー?」


 そんな彼女らの表情が見えていなかったのか、アルレイシアは大股で歩み寄ってくる彼へ、のほほんと挨拶など交わしている。

 そのまま、実の姉妹の元まであと二歩ほどの位置で立ち止まった三男ウルバーノは、次いで、口を開こうとして、彼女たちに先を制され押し黙った。


「アンタちょっと黙りなさっ……いえ、お、お黙りになってくださらない、ウルバーノ?」

「ウル兄さん。またとはなん……っなのでございますか?

 言いがかりは、やめっ……てっ……くださいませっ」

「まったく、お姉様の前でそのようなバ……野蛮な物言い。

 わたっ……くし、姉として心から恥ずかし……っうございますわ」


 粗野な三男へ常のごとく言い募ろうとして、その途中で理想の令嬢アルレイシアの前であることに気付き、姉妹たちは半ば強引に慣れない猫を被り直していく。

 普段であるならば、弟の胸倉を掴むぐらいは平気でやってのける乱暴な彼女たちであるからして、ウルバーノは慄きに全身鳥肌を立てつつ、その場を一歩後ずさる。


「はぁ? な、なんだよ、変なシナ作りやがって……っ。

 あのなぁ、お前ら山猿共が今更そんな普通の女みたいな真似したって、気色悪ぃだけだってぇんだよっ!」

『ウルバぁーノぉッ!!!』

「ヒェェっ」


 彼のデリカシーのデの字もない発言に、今度こそ怒髪天を衝いた姉妹たちは、目に炎を宿らせながら駆け出した。

 対して、己が身の危険を察知したウルバーノも、怒れる鬼たちに捕まるまいと脱兎のごとく走り去っていく。







「……………………えぇ?」


 すでに遥か遠く響く彼らの声を視線で追いながら、ポツンと一人取り残されたアルレイシアは、ただただ困惑に立ち尽くすことしか出来なかった。


 間もなく姿を現したジュリオが、呆然とする婚約者から事の顛末を聞かされた際、大きく頭を抱えるハメになったのは言うまでもない。




ポータザム家 兄弟一覧(ジュリオ除く)


長女エンマ(22)未登場

自領からほど近い隣国の男爵家に嫁いだ。しっかり者の姉気質で、若き男爵をよく支えている。見合い結婚だが、相性が良かったようで夫婦仲は良好。


次女クラリッサ(21)未登場

隣領の子爵家の幼馴染の元に嫁いだ。典型的なケンカップルで、離縁には到らないまでも実家に戻ること多数。必ず一月以内に夫が迎えに来て、あっけなく仲直りして帰っていく。はた迷惑な夫婦。


次男ドメニコ(17)

以前より懇意にしていた男爵家に婿入りした。明るく商魂逞しい妻にゾッコンで、彼女の意向に沿う形で表向きのみ当主として立つ予定。婚約の件を聞き、あわよくば伯爵家と繋ぎをつけられないかと戻ってきていた。


三女ベルティーナ(16)

そこそこ大きな商家の跡取りである平民男性と婚約中。事業拡大を目標とするも、野心というほどのギラついた感情のない、穏やかで誠実な性格の彼にベルティーナの方から惚れて、必死に口説き落とした。現在は相思相愛。


三男ウルバーノ(15)

剣馬鹿。騎士になるのが夢だが頭脳労働が苦手なので、もし十八までに叶わなかったら、実家頼みで常駐兵として雇ってもらおうと思っている。特に想う相手はいない。


四女モニカ(13)

夢見がちな少女。次年参加予定のデビュタントの場で高貴なイケメンに見初められて玉の輿に乗れないものかと想像するのが日課。そのための自分磨きに余念がない。


五女ラウレッタ(10)

親兄姉一同から甘やかされて育った無邪気な少女。その割に現実主義で、他意なくシビアな発言をして兄姉を慄かせることも。

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