一歩手前の衣類婚姻反
二人が正式に付き合い始めてから数ヶ月後ぐらいの話。
睦美が仲の良い友人と遊ぶために待ち合わせた場所へ到着する場面から始まります。
※この話はセリフのみで構成されているため、苦手な方はご注意ください。
■某駅前、噴水広場にて
「ごめーん、待たせた?」
「おー、睦美ー……って、アンタちょっと!
彼氏が衣形だからって、着てきてバレないとでも思ってんの!?
マジ信じらんない! 何考えてんのよ!」
「ほ、ほらぁ、ムッちゃん。だから言ったのに……」
「うーん、サァ子なら絶対バレないと思ったんだけどなぁ」
「ぶっちゃけて失礼だよね!
っていうか、友達と遊ぶのに彼氏連れてくるとかってデリカシーなくない!?
そういうのは自分たちのデートでだけしてろよ!」
「はっはっは、正論極まりないね」
「ああーっ、耳に痛いっ。ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「いいですよ、彼氏さんは別に……。
どうせ睦美が無理やり連れて来たんでしょ」
「日用品の買い出しに行こうとしていたところを拉致りました」
「可哀相でしょ、行かせてやりなよ!?」
「いえ、その……使っている分の予備を今の内に買っておこうと思っただけで、そんなに急ぎじゃあなかったので」
「優良主夫か! 睦美、アンタ女子力で完っ全に負けてんじゃん!」
「うぐっ、そ、それは言ってはいけないっ」
「あの、いいんです。
ムッちゃんには柔道を頑張って欲しいし、家のことは僕がやろうって決めてるんです」
「良夫賢父かよ! ええい、このヒモ女! 爆発しろ!」
「痛っ! ヒガミかっこわるい! ヒガミかっこわるい!」
「わぁぁ、落ち着いて二人ともぉーっ!?」
「つーか、急に柔道部戻ってきたと思ったら彼氏の影響だったわけ?」
「うん。ロブが続けて欲しいって言うから」
「おえーっ、ウザイ。
アンタ彼氏に言われたからってホイホイその通りにするような、そんな女だったっけ?」
「別にぃ。
他に得意なこととか好きなことがあるわけじゃないしぃ、楽しくないわけでもないしぃ。
何より柔道ガンバってる私を応援してくれているロブがキラキラしてて可愛いのでね、ふっ」
「ドヤ顔でノロケ止めろ」
「や、やめてよ、ムッちゃん。恥ずかしいよっ」
「乙女かっ。あ、いや、すみません」
「いえ、こちらこそ……」
「で、そもそもアンタ、何で一回柔道部辞めたのよ」
「えー。だって、元々ロブを守ろうと思って始めたワケでぇ、日本から出ないなら強さ的に二段で充分じゃねってなったの」
「えっ。ムッちゃんソレ初耳なんだけど」
「守るためって言うなら柔道より空手とかプロレスとかKEYSIとか、もっと実践的な格闘技にすれば良かったのに」
「まぁまぁ。そこは、まだ幼女だったのでね。
当時テレビでやってた柔道アニメで、小さいキャラが大きな敵を投げ飛ばしてるの見て、これなら子どもの私でも大人に勝てるって思っちゃって」
「あー、はいはいはい」
「アレのあとから日常的に放り投げられるようになって、そんなにアニメが気に入ったのかと思っていたけれど、違ったんだね……」
「それに、ホラ。毎日遅くまで部活やってたら、ロブを落とすどころじゃないじゃんって気付いたっていうか、あと、もしカレカノになった時にデート無理って思ったから」
「僕ソレも初耳なんだけど、ムッちゃん」
「分かった、もういい。
全部ノロケに繋がるエピソードなんぞ、ワシャもう聞きとうない」
「わははは。やーい、ボッチ民」
「お? お? 命知らずか貴様? 月夜ばかりと思うなよ?」
「ムッちゃん! お友達に何言ってるの!」
「えー」
「あーあー、いいんスよ、彼氏さん。自分ら基本的にこういう感じなんで」
「そうだよ、ロブ。別にケンカしてるワケじゃないから」
「そ、そうなの? ま、まぁ、うん。お互いがソレでいいなら、いいんだけど……」
「そんで、結局、彼氏さんは一緒に来るんですか、来ないんですか」
「いや、ここまで来ておいてアレだけど、さすがに二人の邪魔できないし……僕はもう帰ろうかなと」
「ええええ、いいじゃん! 一緒に遊ぼうよぉ!」
「もう、ムッちゃん。ダメだよ、お友達はちゃんと大切にしないと」
「うわ、すげぇマトモな彼氏じゃん。睦美爆発しろ」
「むうう」
「それに、僕たち家でいつでも会えるでしょう?
帰ったら、夜はムッちゃんの好きなメニュー作って待ってるから、ね?」
「ここで両親公認幼馴染カップル特有型ノロケが出ました、やっぱり二人とも爆発しろ」
「うーー、分かった。
じゃあ、ゴロゴロお野菜のポトフ食べたい。
ウインナーはシャオエッフェンにしてね。パリってしたいから」
「おめぇにパリッとさせるウインナーは無ぇ!」
「はいはい、ムツミ姫の御心のままに」
「へへ、楽しみ」
「うーん。殴りたい、この笑顔」
「もー! いちいち野次入れるのやめてよサァ子!」
「うるへーっ!
目の前で友人カップルのイチャイチャを見せ付けられるボッチの気持ちになってみろぉ!」
「あ、あの、何か、本当にすみません」
「じゃあ、僕もう行くけど、その前にコレ」
「えっ、何? コート?」
「え、今どっから出た? 手品?」
「ムッちゃん、僕を着てきたせいで結構薄着でしょ。
風邪でも引かせちゃいけないと思って、さっきトイレに行ったついでにお店で買っておいたんだ」
「えー、あんまりロブ以外の上着とか羽織りたくないんだけどなぁー」
「いやむしろ人前で彼氏を着ることを恥じろよ!」
「そりゃあ、まぁ。僕だって、僕以外の上着がムッちゃんの防寒に役立ってると思うと、全然嫉妬しないってワケじゃないけど」
「彼氏さんもどういう方向の独占欲なのソレ!? 相手無機物ですよ!?」
「でも、ムッちゃんの健康の方が何倍も大事だから……ね?」
「う、うん。分かった」
「なんかよく分からんけど甘ぁーーーーい!
ちっくしょおー! 末永く爆発しろぉーーーぃ!」
「えと、本当に度々すみません……」
「謝る必要ないってば、ロブ」
「あの、本当せわしない子ですけど、よかったらどうぞ、これからも睦美と仲良くしてやってください」
「えっえっ、ちょっ、やめてよロブ!」
「あー……はい、そこはまぁ。大丈夫です」
「ありがとう。どうか睦美をお願いします」
「だから、やめてってば! 子どもじゃないんだから、もーーーっ!」
「それじゃ、今度こそじゃあね、ムッちゃん。
気を付けて楽しんでおいで」
「うん、分かっ……ふぁっ!?」
「おぉう、衣形の霊体初めて見た」
「な……ッ、ろっ、まっ……へあぁ?」
「……そして、頬にキス程度で女の顔になる友人も初めて見た。見たくなかった」
……。
………………。
………………………………。
「くそっ。爆発しろ、リア充」
「………………もうしてるわ、バカ」
おわり。