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召喚→田舎娘


◇魔王と宰相の会話集


「陛下。

 王妃様が侍女服を着ていらっしゃったのですがお心当たりは……」

「あぁ、言い忘れてたね。

 彼女ドレスは嫌なんだって。

 だから今、着てくれそうな服を何着か仕立ててもらっているところ。

 それが出来るまではあの格好でいるらしいよ」

「……」



「陛下。

 王妃様ですが、初歩的な礼儀作法すら理解していないのは立場的にいかがなものかと……」

「一応、食事作法だけは覚えるように言っておいたよ。

 人前に出すつもりはないし、礼儀とかそういうのは知らなくても大丈夫でしょう」

「……」



「陛下。

 王妃様が城内の清掃をしていらっしゃったのですが……」

「うん、働きたいって言うから僕が許可を出しておいた」

「……」


「陛下。

 中庭のバラ園が一夜にして畑に変わっていたのですが……」

「シーが野菜を育てたいって言ってたんだ。

 内緒で作ってみたんだけど、彼女喜んでくれるかな?」

「……」



「陛下。

 毒味もなしに何を食べていらっしゃるのです」

「シーの手料理。

 材料だって彼女が丹精込めて作った野菜を使ってるんだから、毒味なんて無粋なこと必要ないでしょう」

「……」


「陛下。

 王妃様に甘いのもいい加減にして下さい」

「うん、無理だね」

「……」


 宰相の苦悩は今日も続く。




◇初めての里帰り


 懐かしの元我が家の扉を勢い良く開いて、チェルシーはそれはそれは大きな声を出した。


「じっちゃ、ただいまぁー!

 でら久しぶりっちゃけんど、元気だったなやー?」

「ちっ、ちっ、チェルシー!?

 おめ、生ぎとったんだべか!?」

「んだよー。

 はぁ、じっちゃ変わりねぇなぁ。安心すたぁ」

「あんし……っ。

 おめが消えだ後、神隠しじゃ言うて村中大騒ぎんなったがよ!

 無事なら、どげんして連絡さぁよごさながったぁ?

 えりゃあ心配すたっぺよぉ」

「ごめんしてけれ、じっちゃ。

 んだども、連絡でぎる環境じゃねがったのすけ。

 あぁ、そだ。じっちゃ、わだし結婚すだんだよぉ」

「けっ、結婚!?

 なしてそっただ事になっちゅうが!?

 相手はどごの誰じゃあ!?」

「んっふふ。正体を知っだらじっちゃ腰抜かすべぇ、内緒くさ。

 んでも、今日はそん相手さ挨拶しでぇっち言われで連れて来とんちゃ。

 ちょっくら呼んで来まい」


 そう言うと、チェルシーは満面の笑顔で家の外まで駆けて行った。


「……はぁ、こっちの気も知らんと幸せそうな顔しちょってからに。

 じゃっどん、無事で良がったなよ。

 出稼ぎに行っとん息子夫婦にも知らせんいかんばいね」


 この後、正体を知るまでも無く、魔王陛下の度を超えた美貌を目の当たりにして腰を抜かしてしまったチェルシーの祖父だった。




◇第一子は発病中


「くっ、はははは! 弱い! 弱すぎる!

 人間とは何と脆弱な生き物なのだ!!」


 地に伏した屈強な戦士たちを前に、長い銀髪を揺らしながら魔族の少年は嘲笑う。


「……ぐっ。まだ、終わっちゃいねぇ。俺はまだ戦える!」

「クソ魔族が……人間なめんじゃねぇぞ、コラァ!」

「貴様のような輩に……我らが故郷で好き勝手させてなるものか!」


 よろけながらも自らを叱咤し立ち上がる戦士たち。

 その姿に、少年は楽しそうな顔を見せる。


「ふっ、はーっはっは! いいぞ、人間ども!

 そうでなければ、わざわざこんな大陸まで来た意味が無い!

 さぁ、第二ラウンドを始めようではな痛ってぇぇぇ!」

「へ?」

「あ?」

「え?」


 突然、背後から現れた何者かによって拳骨を喰らい、少年は頭を押さえてしゃがみ込んだ。

 そこにいたのは、良く言えば素朴、悪く言えば田舎臭い、少々ぽっちゃりめの十代と思わしきどこからどう見ても人間の平凡な娘。

 ポカンとした顔で固まる戦士たちだったが、その内の一人がハッと我に返り叫んだ。


「おっ、おい! そいつは危け……っ」

「こん、だらず息子!

 家さ居ねぐなっだど思っだら、こっただ場所で人様に迷惑かけで!

 勝手に大陸さ移動すんのは禁止じゃち決まっちょったじゃろうもん!!」

「げぇーっ! 母ちゃん!!」

「なんが、『げぇ』かいね!

 いいけん、さっさこん人たちん謝りんしゃい!」

「うわっ、ちょっ! 母ちゃん、やめろよぉー!」


 先ほどとは全くの別人のようになってしまった少年の頭を無理やり下げさせている娘は、無論チェルシーである。

 反抗期に入った息子がちょっとした諍いから家出してしまったので、魔王に頼んで居場所を特定してもらい、ここまで迎えに来たのだ。


「もう本当、申し訳もねぇです。

 わだしん教育が至らんばっかりに……ホレ、あんだも謝らんかね!」

「うぅ、ごめんなさいぃーっ!」

「全ぐ……。オル様、こん人達ん傷ば魔法で治しだりはでぎっかい?」

「勿論」

「うえぇ! 父様もいんのかよ!」

「当たり前。シーは人間なんだよ。

 一人でここまで来られるわけないでしょう。

 勝手に出て行って彼女を心配させた罪はたっぷり償ってもらうからね。

 あぁ、規律を破った罰もきちんと受けるように」

「嫌だぁーーー! 父様の鬼! 悪魔!」

「何とでも。今回はしっかり反省するまで許さないよ。

 あ、人間の皆さん。この度は不肖の息子がご迷惑おかけしました」


 言いつつ手をかざすと、満身創痍だった戦士たちの身体の傷が一瞬にして癒える。


「さ、帰ろうか」

「んだなぁ」

「実の息子に拘束魔法とか使うかよー! くそ、解けやしねぇ!

 嫌だ、地下牢は嫌だー! 父様の鬼畜! 魔王ぉー!」

「そのまんまじゃないか」


 それから、魔王一家は騒がしくも消え去り、後には呆然と佇む戦士たちが残されたのだった。


「何だったんだ……」

「さぁ」




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