一章六節 - 一般官吏の仕事
「雷乱!」
思わず頭を下げた与羽がいらだったように雷乱の腕を抑える。
「好みなんて人それぞれだ。お前の価値観を俺に押し付けるな」
そう言った絡柳の表情は、町の人々が美青年と称する穏やかな顔とは全く違う。細めた瞳は鋭く冷たい。彼の放つ敵意が完全に雷乱の殺気を相殺してしまっている。
与羽の制止のためか、絡柳に気圧されたのか、雷乱は小さく舌打ちをして手を離した。
「オレの価値観――……」
小さく何かつぶやいたが、それを完全に聞き取ることができた者はいない。
「要は、『城主に貸本屋の件を奏上したいが、まだ難がある。そこで、例の作戦の日に私に提案して記録だけ残して他の文官たちが吟味できる環境を整えておきたい。貸本屋の目的は、さらに分け隔てなく――文官家の後ろ盾はないが能力のある人が文官になれるようにするため』ってことですか」
雷乱の腕を抑えたままの状態で、与羽は早口に確認した。
「そんな感じだな」
絡柳は満足げに口の端を釣りあげた。
それにつられるように、与羽の顔にも何か企んでいる時のいたずらっぽい笑みが浮かぶ。
「そうでなくても忙しい乱舞に、こんなほつれだらけの話を聞かせるわけにはいかないからな。乱舞の性格上、大喜びでやってくれると思うが、時期尚早。これは俺たち文官――特に有名文官家の出身でない中級、下級文官の仕事だ」
「分かりました。今のうちから準備しておきます。辰海と話を詰めろってことですよね。今この時に言うってことは」
「そうなるな。古狐の若様の能力、見てやるよ」
そう言って、絡柳は挑戦的に口の端を釣り上げた。




