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龍神の詩4 - 龍姫の恋愛成就大作戦  作者: 白楠 月玻
一章 龍姫、策を練る
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一章四節 - 門前の護衛官

 

  * * *



 与羽(よう)絡柳(らくりゅう)が月日の屋敷を出た時には、空の大部分が濃紺に染まり、星が淡く(またた)いていた。まだ西の空には(あかね)が残っていたが、それもほどなく消えて完全に夜の世界へと移っていくのだろう。


「どうせ城まで予算案を持っていかないといけないから送るぞ」


 絡柳が分厚い紙の束を軽く振りながら言った。


「ありがとうございます。でも――」


 月日家の外門の内側まで来て、与羽は開けてもらった門の外をうかがった。


「やっぱり――」


 つぶやいた彼女の視線の先には大きな人影。磨かれた門の柱に腕を組んで寄りかかっている。

 その横には、使用人の少年が困ったように立っていた。そうでなくても成長期前の少年は背が低いのに、そばにいるのが中州でも有数の大男のためにとても小さく見える。


雷乱(らいらん)


 与羽は大男の名前を呼んだ。


「遅ぇ」


 与羽の呼びかけで気だるげに彼女を見た雷乱の声は、低くどすがきいている。その表情も、眉間に深くしわを寄せ、いらだちをあらわにしていた。


「絡柳先輩に言って」


 しかし、与羽は彼の不機嫌など気にしていないようで、丸太のように太い腕をねぎらうように叩いた。


「帰りが暗くなりそうだったから、迎えに来てくれたんでしょ?」


 そう言って浮かべたほほえみには、いつもの邪気がない。純粋に喜び、自分の護衛官を誇りに思っている。


「お、おう」


 そんな与羽に雷乱は思わずたじろいだ。

 夕焼けの残滓(ざんし)で深藍に光る髪に縁取られた与羽の顔は、いつもの明るさを見せつつも、どこか大人びてはかなげだ。彼女は中州の姫君なのだということを改めて思い知らされた。


 しかしそれもほんの数瞬。


「じゃぁ、帰ろう。――行きましょう、絡柳先輩」


 与羽が機敏な動きで絡柳を振り返る。


「……そうだな」


 含み笑いを浮かべて、絡柳が与羽と並んだ。


 そのかげで、使用人の少年はほっと胸をなでおろしている。与羽が出てくるまで雷乱の相手を務めるのは、苦痛だっただろう。

 大柄で大抵眉間にしわを寄せている雷乱は、慣れない者には外見だけで恐怖を与えるのだ。


「色々ありがと。レイによろしく」


 レイとは月日家の跡取り息子。与羽とともに学問所で学んだ同期だ。


「はい、お伝えしますっ! お気をつけてお帰りください」


 使用人の少年は、びくりと身を震わせて釣るされたように直立した後、深々と頭を下げた。決まり文句だが、心のこもった良いあいさつだ。必要以上にかしこまっているのも、初々しく好ましい。

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