一章三節 - 作戦内容
* * *
「つまり、こういうことですよ、先輩」
与羽が冷めた茶をすすりながら言う。
「政務に忙しい乱兄に休暇をあげよう、って話です」
「……なるほど」
絡柳はそれだけで与羽が何を企んでいるのか察した。
「じゃぁ、休みは卯月(うづき:四月)の二十三日がいいな」
「その通りです」
与羽は満足げにほほえんだ。珍しいことにその笑みにいつもの邪気はない。
「でも欲を言えば、その翌日も休ませてあげたいんですよね」
「確かに」
絡柳は既に姿勢をただし、仕事用の顔をしている。
「それで俺のところに来たわけだな。――卯龍さんや大斗には話したのか?」
「卯龍さんや他の年長者には直前まで内緒に。大斗先輩には、絡柳先輩の協力が得られてからだと思いました」
「協力する。当たり前じゃないか。乱舞は月に一日くらいしか休みがないからな」
「……私でも政務は勤まると思いますか?」
「辰海君と俺がいれば何とでもなる。
とりあえず、乱舞が必要な仕事を先に済ませ、その二日には城主の承認が必要でないことや、あまり重要じゃない仕事を残すよう手配する。――これでいいか?」
絡柳は既に帳面を出して予定を書きなおしはじめている。
彼は歳が近いこともあり、中州城主である乱舞の側近中の側近だ。乱舞の予定の管理も、ある程度は絡柳が指図している。
もう五、六年したら乱舞と絡柳と大斗の三人がこの小国――中州を支えていくことになるのだろう。
「ありがとうございます」
与羽は頭を下げた。
「冬に祖父孝行をした次は、兄孝行というわけだな」
帳面をめくりながら、絡柳が笑みを浮かべる。
「別にそう言うわけじゃないですけど……」
与羽はなぜか不機嫌そうだ。
「ただのいたずらですよ」
「俺はこういういたずら好きだぞ」
「こっちは結構大変です。町人にも声をかけて、でも乱兄と沙羅さんにはバレんようにせんといけんで――」
「二日でくっついてくれればいいが……」
「やってやりましょう。『中州の民の団結力、ここに極まれり! 乱兄! 沙羅さん! 両思いなんだから、早く結婚しちゃえ! 大作戦』」
与羽はやたら楽しそうだ。
そう、彼女の作戦は普段政務で忙しく、会うことすらままならない男女に思いを通わせる時間をあげようと言う、なんともほほえましい悪戯だ。
そのために絡柳を訪れ、乱舞が休んでいる間自分が城主代理として政務に就くことまで考えている。
これが不器用な彼女なりの愛情表現方法。
――だが、人の心配ばかりして、自分はどうする気だ?
絡柳は残っていたお茶を一気にあおり、やる気を新たにしている与羽に内心で問いかけた。与羽ももう今年で十八。女性ならば結婚していて普通だ。
しかし、もちろん答えは無い。
細く開いた窓から、冷たい風が吹き込んだ。