終章二節 - 渡された書類
「雷乱を呼んで、部屋まで運ばせるか」
「わざわざ雷乱に来てもらうのは悪いので、いざとなったら僕が運びますよ」
ため息交じりの絡柳の言葉に、辰海が素早く反論する。
絡柳がもう一回深くため息をついた。
「素直に『雷乱にやらせたくないので』とか何とか言えばいいだろう?」
ごくごく小さな声でそう漏らす。
辰海は聞こえているのかいないのか、無表情に書類を墨が乾いたものから集めていく。油の節約のため、片づけをはじめてすぐに数を減らした灯りが辰海の顔に陰影をつけた。
釣り目のせいで少しきつい印象を与えるものの、ほりの深い整った顔が一層際立ち、まじめで賢そうな雰囲気を醸している。
「どいつもこいつも――」
絡柳はさらにため息をついた。
しばらくの間、紙を移動させる音と外の木々がさざめく音だけが聞こえた。無言で書類を種類ごと、日付ごとなどにまとめてゆく。一番上に書類の概要を書いた紙を載せ、紐で束ねておいた。
書物も元あった書庫に戻すために、保管場所が近いものをまとめて重ねる。
「もう結構片付いてるね」
その時、場違いなほど明るい声が響いた。
「まだ大丈夫かな? 城主代理さま」
「ん……、乱兄ぃ……?」
与羽が眠たげに目をこすりながら、体を起こす。人が一人、ギリギリ通れるくらい細く開けた戸から、乱舞が覗いていた。まだ外出着のままの所を見ると、帰ってすぐここに来たらしい。
「この書類、提出したいんだけど」
乱舞はにこにこしながら、一枚の紙をひらひらと振って見せる。それだけで、三人とも乱舞の持つ書類の内容が察せた。
しかし、辰海は嬉しげにほほえんだが、絡柳は一瞬乱舞に目を向けただけで書類の整理に戻り、与羽も無表情なままだ。
ちらりと与羽が辰海に目くばせすると、その意図を正確に察した辰海が、乱舞から紙を受け取って与羽に差し出した。
絡柳も無関心を装いつつ、そのやり取りを横目で追う。
辰海から紙を受け取った与羽は、内容を見た瞬間満面の笑みを浮かべた。それで絡柳と辰海も想像が間違っていないと確信した。
しかし、与羽の笑みは一瞬だけ。すぐにさきほどと同じ眠たげな仏頂面に戻った。
そばに座っていた辰海の肩を支えに立ちあがり、わずかによろけつつも乱舞に歩み寄る。
「与羽……?」
乱舞が幸せいっぱいといった笑みを少しだけ引っ込め、与羽を心配げに見降ろした。
与羽も、仏頂面のまま乱舞を見上げる。さっき辰海づてに受け取った紙を乱舞に突き返して――。
「申し訳ありませんが、この書類は受け取れません」
「えっ?」
乱舞が一気に不幸のどん底に落ちたような顔になる。
「与羽!?」
辰海も慌てたように与羽に声をかけたが、絡柳だけは呆れたようにため息をついた。




