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四章九節 - 龍王の告白

「でも、中州を想う気持ちはだれにも負けてないんでしょう?」


 それでも、沙羅(サラ)はやさしくほほえんだまま乱舞(らんぶ)に寄り添い続けている。


「……与羽(よう)には、負けるかも……」


「バカね。嘘でも『そうだ』って肯定しなさいよ」


 身を震わせて、鈴が転がるような高く澄んだ声で笑う沙羅。


「与羽ちゃんが大事にしているのは、中州の民と国土よ。でも、国は民と土地だけじゃないでしょう? あなたは情けなくていいの。中州を守りたいっていう強い気持ちさえあれば。足りないところは私たちが補うし、そうやって人々を集められる能力って誰もが持ってるわけじゃないわ。――そうでしょう? 乱舞」


「うん。……ありがとう」


 乱舞は小さな声で言って、まっすぐ中州を見降ろした。


「守るよ、中州を。守ってみせる。皆と一緒に中州を守ってみせる。苦しくて厳しい道でも自らすすんで行こう。

 でもそうすると、僕と一緒にいてくれる人も巻き込んじゃうかもしれん。けどさ、僕はその道を行きたいんだ。たとえ一人になっても。

 でも、皆が付いてきてくれたら僕は嬉しい。……沙羅が、僕のそばにいてずっと支えていてくれたらとっても嬉しい」


九鬼(くき)武官と水月(すいげつ)大臣はきっとついてきてくれるわ。私も、……絶対ついて行く。あなたを一人になんかさせないわ」


「ね?」と沙羅が乱舞の正面に回り込み、ゆるく首をかしげて見上げてくる。


「沙羅……」


 乱舞は沙羅の腰と背に腕をまわして、やさしく抱きよせた。


「守るよ。僕の大好きな中州と沙羅を」


「その言い方だと、『大好きな』は中州だけにかかってるのか、そうじゃないのか分からないわよ?」


 沙羅も乱舞の背に両腕をまわしながら、いたずらっぽい笑みを浮かべて乱舞を見上げてくる。

 その顔を見ていられなくて、乱舞はなめらかな髪の流れる沙羅の頭にほほをくっつけた。


 緊張を少しでもやわらげようと深く息を吸う。

 沙羅から漂ってくる花のような甘い匂いに、乱舞は少しだけ沙羅を抱きしめる手に力を込めた。


 温かな陽光が二人を包み込む。

 沙羅が自分の頭を乱舞の肩に預けた。


 乱舞は、もう一度甘い空気を吸ってやさしく囁いた。


「守るよ。僕の、大好きな……沙羅を。……いつまでも」

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