四章五節 - 乗馬登山
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――翌日。
乱舞と沙羅は朝から馬に相乗りして中州城下町を離れていた。文官位と武官位を持つ沙羅にとって、乗馬は得意分野だったが、どこからともなく現れた大斗にうまく言いくるめられ、気づいたら乱舞の前に沙羅が横座りに乗っていた。
今まで与羽など誰かと相乗りしたことはあるが、その時とは比べ物にならないくらい緊張しているのが分かる。手綱を握る手には汗がにじみ、体がこわばる。
それは今馬を歩ませているのが、良く踏み固められた道ではなく緩やかに登った山道であるという理由だけではないだろう。
彼らが向かっているのは、城下町の西。華金山脈だ。山脈と行っても城下に近い場所はなだらかな山が多く、城下で消費される薪などを伐採するため、木がまばらで道もある。
この時期はちょうど木々が芽を出しはじめ、あたりは透き通るような若緑で輝いていた。枯れ葉の取りはらわれた道には小さな花も見られる。
乱舞は馬をゆっくり歩ませ、沙羅がその風景をよく見ることができるようにした。
乱舞自身に風景を楽しむ余裕はない。
「春の山はいいわね」
沙羅が辺りの雰囲気を壊さないように、小さな声で話しかけてくる。
「うん」
それだけ答えると再びお互いに沈黙する。もっと何か言うべきだったと後悔しても遅い。
「どこに向かってるの?」
気を利かせて沙羅がさらに声をかけてくれた。
「ん、ちょっと山」
そんなことは今の場所を見ればわかることだろう。乱舞は慌てて言葉を足した。
「いい場所があるんだ。もう少し行ったら馬を下りて歩かないといけないけど、眺めがとってもきれいで――」
いつだったか与羽がすすめてくれた場所。乱舞も初めて与羽に連れて来られた瞬間に気に入った。
「へぇ。楽しみだわ」
乱舞の方を向いて柔らかくほほえむ沙羅。乱舞もそれにつられて笑みを返す。
「月日の丘みたいにきれいな花はないけど、とっても好きな場所だから沙羅に見せたくて」
「月日の丘みたいに整えられたのも好きだけど、あるがままの自然に近いのも好き」
「良かった」
ほっとする乱舞の肩越しに、沙羅は今まで登って来た道を見る。
「だいぶ登ったわね」
後方、まだ葉の小さくまばらな木々の隙間からは、下方に中州城下町を取り囲む川の一方――月見川が見えた。雪解け水の流れる月見川はいつにも増して流れが荒く、春先の柔らかな陽光さえも激しく跳ね返している。
あいにく、城下町は枝が邪魔をして良く見えない。
通っている道もあまり人が通らないのか、けもの道に近い。道のわきには岩が目立つようになり、斜面も急になってきた。




