四章二節 - 龍王の焦燥
「じゃけど、他の友達と遊ぶ約束とか――」
「与羽か誰かがお前が休みってことを伝えてるよ。与羽と絡柳ならそれくらいの手回しはしてる」
「けど――」
「そうやってるお前を見てると、古狐を相手にしてるみたいだ」
大斗が不快そうに顔をしかめる。そういう表情を見せてくれるということは、乱舞に心を許している証拠だが、機嫌の悪い顔は見たくない。彼の不快を示す顔は、鳥肌がたつほど冷たいのだ。乱舞は無意識に着物の上から腕をさすった。
「優柔不断で自信不足。そうやってるうちにほかの奴にとられても知らないよ?」
「え、そ、それは――」
「嫌ならとっとと行きな。紫陽家に行く口実が欲しいんなら、これを持っていけばいい」
大斗はすばやく陳列棚から芋と大根、いくらかの葉物を取って乱舞に押し付けた。
「これを紫陽家に届けな。代金はお前につけとくから」
「何で僕に――!?」
「それで紫陽家に行く口実ができれば安いもんだろう?」
確信的な口調だ。
「でも――」
「うるさいよ。仕事の邪魔。とっとと消えな」
だんだん大斗の声が尖ってくる。これ以上ここにいたら、殴るなり蹴るなりして、無理やり追い払われかねない。
「わ、分かった。ありがとう」
一応小さな声で礼を言って、乱舞はしぶしぶその場を離れた。
これで紫陽家に行く口実はできたが、大斗の使い走りよろしく野菜を両腕に抱えた姿の何と情けないことか。しかし、無理やり押し付けられたのだとしても、頼まれたことはちゃんとやらなくてはならない。
野菜を抱えた情けない城主をできるだけ城下の民に見られないように裏路地を抜けた乱舞は、固く閉ざされた紫陽家の門を膝で叩いた。両手が野菜でふさがっていたからだ。
紫陽家は南通りに面し、すでに通行人が乱舞を胡散臭そうな目で見ている。できるだけ早く門の内側に入ってしまいたい。
そう思った乱舞は門が内側に細く空いた瞬間、その隙間に滑り込もうとした。
しかし、門を開けた方は訪問者が誰か確認する前から人を入れるわけがない。ちょうどこのあたりは中州城下町の中でも治安が悪い場所なのだ。
案の定、門を開けた主が反射的に戸を閉めようとしたために乱舞は硬い門扉に顔面を叩かれる羽目になった。
両手が野菜でふさがり、焦ったため前傾姿勢になっていたのがまずかった。
「あ、だっ!」
意味を為さない声をあげて、尻もちをつく乱舞。
「あ!!」
おそらく、門扉に人がぶつかったことではなく、その声に反応して門が再び細く開く。
「城主……?」
その隙間から覗いたのは、若い女性だ。くせのない髪がなめらかに背の中ほどまでを覆い、清楚な印象を与える淡い色の小袖を纏っている。
「沙羅……」
気の毒そうな顔で見おろされ、乱舞は顔を真っ赤にしながらつぶやいた。尻もちをついたままの状態で、しかもその周りには大斗から託された野菜が散乱している。非常に恥ずかしいところを見られてしまった。




