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序章二節 - 月日の庭

 月日(つきひ)家の庭には梅、椿、牡丹(ぼたん)、桜、柳、つつじ、紅葉(もみじ)銀杏(いちょう)――挙げてもきりがないほど多様な植物が植えられている。その全てが手入れされ、小道も人工の川や池も美しく整えられていた。

 もう終わりが近い梅だが、未だにかぐわしい香りがほのかに漂ってくる。

 赤や白、またはそれらの混ざった椿や山茶花(さざんか)はまだまだ花盛りだ。

 重そうに枝垂(しだ)れた南天(なんてん)の赤や黄緑も、その存在を強く訴えていた。


 ここに来るたびに思うが、月日家は城主一族よりも財力があるのではないだろうか。土地の広さも、使用人の数もこちらの方が圧倒的に勝っている。


 城主は質素、古狐は風流、月日は厳格、漏日は誠実、紫陽は剛健、橙条は優雅。代々の家柄の違いか。


 直線的な道を行くと、さらにもう一重塀がめぐらされていた。先ほどくぐってきたものに比べると小さいものの、存在感と威厳は変わらない。

 ここから先は開放時期でも一般人は入れない月日の屋敷がある敷地だ。常に屈強な男が二人、固く閉ざされた門前に控えている。


「おお、これは中州の姫君」


 そのうちの一人が気さくに彼女に声をかけた。見た目はいかついが、態度は穏やかで気安い。


「ご苦労様です」


 少女が頭を下げる。

 その間に、もう一人の門番が門を開けてくれていた。彼女の場合は、用件を告げなくても門を通してもらえる。


 わざと焼きを入れた褐色の扉の向こうに、白い砂と冬でも葉を落とさない松の庭園が見えた。

 白い砂につけられた模様は、日食を抽象化したと言われる月日家の家紋と流れる雲だ。一般公開している庭と比べると質素だが、簡素な趣が中州有数の文官家としての威厳を示しているようだった。


「どうぞ、姫」


 両開きの扉を左右で押さえた男たちが、恭しく頭を下げる。大柄な体型からは想像できないほど、洗練されたなめらかな仕草だ。

 自分のがさつな護衛に見習わせてやりたい。

 そんなことを思いながら、彼女は躊躇(ためら)いもなくその門をくぐった。

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