三章三節 - 女官の勇躍
* * *
――翌日。与羽は日の出前から竜月に起こされた。
ぼんやりとしている間に顔を洗われ、夜着に分厚い上着をはおらされた状態のまま、雷乱とすでにきっちり身だしなみを整えている辰海とともに朝食をとる。
食事中、辰海が今日の予定について詳らかに告げるのを、何とか頭を起こして覚えた。
その間に竜月が与羽の長い髪をきれいに梳く。
食事が終わると竜月は男二人を部屋から追い出した。
「さぁ、ご主人さま。着替えましょうね」
竜月は与羽を起こした時から元気だったが、今はさらに生き生きしている。
どこから持ってきたのか、鮮やかな布が部屋の隅に畳んで置いてあった。そのすべてが着物なのだろう。
「まさか竜月ちゃん。あれ――?」
「そうですよ。全部今日ご主人さまがお召しになるお着物です。当たり前じゃないですか。大丈夫です! どんな殿方でも見惚れるような、美しい打ちかけ姿にして差し上げますっ!」
やたらはりきる竜月に与羽はほほをひきつらせた。
その間にも竜月は与羽の着ていたものを脱がせはじめている。
「あ、いや、竜月ちゃんそれくらいなら自分でできるから」
竜月の温かな手が肩にふれて、与羽ははっとした。
「そうですかぁ?」
「って言うか、途中までは自分でやった方が早い」
「じゃあ、まずはこの白無垢ですよ」
与羽は渡される着物をしぶしぶながら着ていった。着物の裾を合わせる時などは竜月に手伝ってもらいつつ、重ね着させられていく。
華奈のような振り袖姿なら良かったのだが、与羽が着せられるのは打ち掛け。
しかも、竜月はその内側に重ね着した小袖で、美しい色の変化を作る。今回は、桜色から濃い紫へと変化するようにさせたいらしい。
だんだんと体が重くなってゆく。
剣術で鍛えているので、筋力にはそれなりに自信があるが、それでも全身に重りを付けられたように感じる。
帯を強く締められて大きくよろけた。
「大丈夫ですかぁ?」
そう声をかけつつも、竜月は次の着物を拾い上げている。
「次はこれです~。これでおしまいですよ~、残念ながら」
何が残念なのか分からない。
与羽は、床を這うぐらい丈の長い濃い紫の上着を羽織って、やっと一息ついた。
この後まだ化粧をしたり、髪を結ったりと色々残っているが、着替えほど体力を使わないだろう。
与羽はそう信じ込むことにした。




