47 幕間-眼差しの向こうに
???視点。
『ここ』は仄かに冷たく暖かい、『わたし』だけの世界。
わたしは気がついたらここにいて、たったひとり、蹲っていた。
わたしには名前がない。……ないというのは少し不適切だが、わたしの名前は音にならない。それはわたしが『まだいない』者だからだろうか?
わたしは一体いつからここにいて、いつまでここにいるのか?
この永遠にも思える気だるげな、微睡みの中をたゆたうような緩慢な世界でひとり、何のためにここにいるのか、何もかも分からなくて。
わたしは無知で、孤独も絶望も、何も知らないでただただ、あるがままを受け入れ、流されるがままに時を過ごしていた。
わたしは誰?
何のために生まれて、何のためにここにいるのだろう。
わたしというものが存在しはじめてどれくらいの時が経ったのだろうか。
変化は突然、何の前触れもなく、現れた。
『それ』は、わたしのぼんやりとした輪郭のない朧気な世界に射し込む美しい一筋の光。
『――――』
あの人が、微笑む。
それはわたしの灰色の世界に鮮やかな彩りをもたらす。
そしてわたしは至福という言葉を知る。人を愛おしむということを、孤独を淋しいと思うことを、わたしという存在があの人に届かない絶望を、感情を、わたしは知る。
それは苦しくて切ないものだったが、わたしはようやく『わたし』というものを理解する。
わたしは悲しみの欠片であり、幸福の結晶である。
理解した途端、様々な記憶が流れ込んでくる。それは目眩を覚えるほどに濃密な、絶望の記憶。連面と連なる、哀切の連鎖。
想う心。
すれ違う心。
祈りの全ては、愛するひとの幸せ。
誰か伝えてあげてほしい、『あのひと』に。
『――あなたの幸せが愛するひとの幸せに繋がるのです』
わたしは悲しみの欠片。そして幸せの結晶。
聞こえますか、わたしの唯一のひと。
あなたの強い眼差しの向こうに未来がある。
どうかわたしの声を届けて下さい。
どうかわたしを見つけて下さい。
どうかこの手を取って下さい。
わたしだけの姫君――――アリスティーナ……!




