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Pragmatize Is A Allevization  作者: 空丘套
Christmas2012 project ~延滞作業~ 〝科学兵(spec)〟 √衙乂行夜
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√衙乂行夜(げげこうや) #02 overture

 夜も更けた町並みには現在も疎らに人が歩いている。

 帰宅中の者や深夜業務の者、もしくは夜遊びをしている若人か。はっきり言ってそんなことは如何であろうとも一向に構いやしないが、前者ならまだ良いのだが後者は戴けない。それは何故か、現在の日本人は危機管理能力が乏しい存在だからである。

 非日常というものはいつも隣り合わせに存在し、繋がっているものだ。

 現に咎人の男、須谷(すたに)矗昶(のぶてる)も夜道を歩いている。片耳へ無線イヤフォンを付け、携帯端末のウィンドウ画面を眺めながら動画サイトの動画を閲覧しているようだ。確かこれは最近急上昇してきた歌手のPVだっただろうか、あまり詳しくないので矗昶には判断しかねるが、映っている歌手はロック調の装いをしていて少しだけミスマッチ感の漂うところも好印象だろう。

 動画再生が終了したところへ丁度、通話着信がきた。

『——……作戦は僥倖に進んでおります、予定通り遂行できそうです』

「ならサイバー班は十分に確保できたのか。——実動部隊の方はどうなっている」

『ええ、人員だけなら……機器の調整にまだ時間が掛かりそうですが。実動部隊の主力である彼らも問題はありません、それに猛兵(もさ)との精鋭組を現在練っているところです』

「了解した、その精鋭組とやらが決まったらデータを送ってくれ」

『——諒解(get at)っ』

 その返答を聞いて矗昶は通話を切り、携帯端末をポケットへしまうと目的地へ向かった。

 

 *

 

 翌朝、まず彼は普段と変り映えしない黒色系の衣服へ着替え、外套を羽織る。

 そして少し歩いていると、彼より年上の少年に声を掛けられた。

「あ、おはよう。今日はお手柔らかに頼むよ、ギリーシェ」

「——ああ……それより、何でその呼称を知って——って、あの人しかいないか」

 その挨拶に対して彼は少年から少し距離を置いた眼前で立ち止まり、怪訝な声音で応えた。

 この少年は特装課レイヴン所属の九重(ここのえ)式絢(しき)、十一歳で彼に次いで若い人材である。能力は邁逕と同じく稀有な脆弱綻知、それに加えて変幻自在の模倣戦術を兼ね備えているのだ。まだ現在は不完全であるが、純粋にこの将来(さき)が楽しみであり、逆にそれが恐ろしくもあるだろう。

「あー、ま、うん、そうだね。昨夜、三枝さんに聞いたんだ」

「……全くあの人は余計なことを言う」

「ははっでも良いじゃないか、名前が出来たんだからさ。それに英語の〝ghillie(ギリー)〟を捩るなんて、向こうの人が名付けたにしては、まあ的を射てるしね」

 少しの間を空けてまあ、と前置きすると式絢が自嘲的な笑みを浮かべる。

「取り敢えず、僕は今回のシュヴァリエで三枝さんと当たれば、それで良いかな」

「へぇ、それは模倣戦術で何処まで通用するのか楽しみだ。でもフレイリゼーションだと勝ち進むのも難しいんじゃないか? ラプラスとは相性が悪いんだし」

「それは承知の上だって、ラプラスの能力はビジュアリゼーションなんかより、性質(たち)の悪い方なのは解りきってるからね」

「なら試合相手で式絢と当たらないことを願うさ、式絢との試合は面倒だ」

 苦笑しながら彼との試合を想像してそれは同感だな、と式絢は正直に思う。

 そうこう閑談していると耄碌寸前の老爺が近寄ってくる。式絢の前で立ち止まると視線を彼の方へ移し、彼へ軽く会釈して視線を式絢に戻す。この男性、越坂部(おさかべ)俊策(としかず)は政治家で現内閣の大臣、この聖夜絢爛祭の来賓だ。

「よう九重の坊主、元気にしとったか。して、隣の見かけない君は誰かな」

「ご覧になられている通りですよ、越坂部さん。それから、この隣にいる彼は……」

 姿勢を正して挨拶を済ませた式絢は言葉を区切り、隣にいる件の彼へ視線を傾けた。

 それを興味なさげに流していた彼も、式絢が挨拶を済ませた直後に心中で溜息を吐き、仕方なくといった素振りを億尾にも見せない態度で越坂部へと立居姿を正す。俯き閉じていた彼の視線も越坂部へ向ける。

 齢八十二歳の越坂部は中肉中背で小賢しく、どこか憎めない顔つきだ。その表面(おもてづら)には僅かばかりの控え目な驚きも見受けられない、少なくとも表面上だけならば。だが、彼の眼にはそうした不明瞭な点も適当に明瞭、明察に()えている。——いや、正確に言うのなら矚えてしまっている、といった方が適切なのかも知れない。

 不躾や無愛想であろうと、無礼に当たらない擦々(すれすれ)の態度で彼は()う。

「——初めまして、越坂部俊策防衛大臣。私は彼等(レイヴン)と協力関係にある、朧霞(おぼろがすみ)套狐(とうこ)です」

 そう女性であるかのように慇懃無礼に振る舞い()(へつら)った彼、朧霞套狐(如何にも偽名臭い姓名)は嫌に少女らしく、可愛らしさを追求したような会釈(こわね)で越坂部へ微笑んだ。

「……ほう。君が、かね。若いと言うより幼いのに……凄い。見たところ年の頃は五、六歳といったところかな? 近頃の若人には驚かされることばかりで困惑するな、全く。無論、それは善悪両面のどちらに対してもだが」

「彼に関する情報は秘匿性の高い事項なので一切の情報を規制されており、内外への漏洩は出来かねます。譬えそれが親しい間柄である越坂部(あなた)であっても、規則なので仕方がありません」

「——喰えぬな。だが、多少なりとも喰えぬ方が今後の余興として愉しめるというものか」

 老いた顔に笑みを浮かべた後、越坂部は彼の頭と式絢の肩を軽く叩く。

「レイヴンか、憶えておくことにしよう。その名の通り不吉を運ぶ渡り烏にならぬよう、精進せいよ、小僧諸君。何にせよ、これからの世は存外愉しめそうで何よりだ」

「誠に恐れながら吾々、特装課レイヴンは不吉を不吉で対抗する組織であり、貪欲に重罪人を追い狩る者です。あまり問題を起こさないで下さいよ、身内贔屓は出来かねますので」

 わかっとるよ——九重君、と彼等に背を向けて腕を振り上げながら笑顔で口にし、そのまま掌を軽く左右へ振って越坂部は立ち去って行った。

 

 *

 

 問題が起きたのは聖夜絢爛祭が始まる二十分ほど前のことだ。

 来海(きまち)潮郁(しほか)。彼女は諸事の際に招待を受ける程には有名人であり、このクリスマス直前の日もパーティーに招待されていた。

 彼女の仕事は社長である父の隣で、愛想の笑顔を浮かべているだけの単純作業、であるのと同時に潮郁には裏社会の仕事も請け負っている。それは何故か、表立って明かしていないことであり、それが少し前から徐々に話題に上り始めてきた乖離的(正確性、正答性に帰するならば乖理(かいり)的とすべきだろう)存在〝異邦人〟であるということに基因したことなのだ。

 もっと言えば、彼女は異邦人という排他的な——稀有な存在の中で〝姫〟と呼ばれ、忌避され重宝されている。なので適材適所、と言えば聞こえはいいかも知れないのだが、それは言ってしまえば良いように扱き使われているだけとも()れるものだ。

「現在の姫の所在はどこだ」

『姫の所在は想定通り、会場の控室のようです』

「会場の警備はどうなっている?」

『どうやらセキュリティだけは最新のものを取り揃えているようですが……まあ、そんな最新鋭の設備だろうと扱う側に関しては愚図の素人ばかり、障害物として考慮するのは些か疑問の余地がありますかね、僕としては』

「それは些か自信過剰、の域に達してないか。いくらお前の言うように、相手が愚図の素人だったとしてもセキュリティは最新鋭なんだろう? 過信してかかると痛い目を見るのは俺達なんだがな、精々精進して遂行してくれよ。そっちが失敗したつけを実動部隊の俺達に押し付けられるのは正直、御免被るからな」

 呆れと苛立ち半分交じりで通話相手へ告げ、片耳から外して黒い有線をだらしなく垂らしたイヤフォンにニット帽の青年、那知(なち)遼揮(はるき)は少し視線を落とすと双眸を閉じて溜息を吐く。

 その遼揮の態度に通話相手である稲迫(いなさこ)黄箔(こはく)は、戯けた口振りで講釈を誑す。

「それはま、いいさ。時機がくれば何とやら、だろうし。そんなことよりも隊長の、須谷矗昶さんってのは如何したんだ、まだここに来てから一度も顔を拝んでないんだが」

『須谷さんですね。えっとそれなら先程到着を確認してますよ。現在はここの手前から二番目の横路を右折、そこから一番手前の横路を左折した場所にいるようですね、って体よくナビ代わりに使わないでくださいよ』

「面白くもないノリツッコミお疲れさん。ま、今度から気を付けるさ、じゃ通話切るな」

 問答無用で遼揮は通話を断ち切り、外していたイヤフォンを付けながら正面を向き、先程のナビゲーション通りに道を歩み辿ってゆく。


 *


 積山(つみやま)景護(けいこ)は式絢と同じ年頃の少女。

 正しく彼女も特装課レイヴンの一員であり、聖夜絢爛祭の出席者だ。

 その隣には少し目上の同胞がだらしなく寝転がっている。どうやら漫画雑誌を読み耽っているようだ。クリスマス前なので今年刊行される中で最後の号なのだろうか、景護にはそれを独自で判断する術を持ち合わせてないので判別することは出来ない。ただ背表紙には二〇一八年五・六号と表記され、刊行されているだけに過ぎないのである。

「ちょっとかげもりー、外行くんならついでに飲食物と漫画雑誌のダウトラストってのの二月号買ってきてー」

「ちょ、その呼び方やめてよ、男の人みたいだから。——て、私これ前に言ったよね⁈ あとそれからさ、残念だけどこの建物の外へは出ないからその漫画雑誌たぶんないと思う」

「えぇー、でもこの〝viewfend〟ってアカウント名のやつ、かげもりのIDっしょ?」

 そう言いながら寝転んでいる眼前の彼女、櫃田(ひつだ)木綿曲(ゆうみ)は携帯端末を掴み取り、景護へ某SMSサイトのウィンドウ画面を向け、先刻のそのアカウントを漫画雑誌に眼を通しながら片手間に見せてきていた。

 片手間に示した木綿曲の指摘通り、紛れもなく露われもなく、それは積山景護の某SMSサイトに於けるアカウントそのものなのだ。そのサムネイルには猫が山のように群れ成し重なっている画像が表示され、その背景には窓硝子からの陽射しが心地良さそうな、猫が遠慮も惜しげもなく好んで微睡むだろう一室の画像が映っていた。

「だって〝view〟てのは風景とかって意味だし、この〝fend〟にしたって防ぐとか守るって意味なんだしねー。……あ、それともケイゴとかキョウゴって呼んで欲しいとか? もー、かげもりの〝tndr(ツンデレ)〟さんめっ(きゅぴりゅ〜ん)うぇぇ、きも過ぎて吐き気してきたわ、ごめ」

「……も、いいよ。——かげもりで」

「じゃ、かげもりー。飲食物はやくねー」

 さっさと景護へ告げ、木綿曲は漫画雑誌を閉じ、お次は漫画の単行本を手に読み始めた。

 出入口の扉に掛けていた手をそっと動かし、景護は相部屋から退室した。


 まず景護が呼び出され向かった先は、中でも少しばかり間取りは寛緩(かんかん)とした一室。

 その場には既に幾人もの人が集まっていた。一見は無作為に配置されたように思える配列を成した机と椅子へ一様に座っている。それに倣い、景護も空席へ腰掛け、薄く一息吐いた。

 近傍には暫定的な姓名で朧霞套狐、九重式絢、遡神黎明の姿も見受けられる。皆の視線には三枝禪祇を含む数名のお偉方が席に座し、入り確認を目配りしているようだ。招集をかけた人員が八、九割ほど揃ったところで特装課レイヴン取締、六笠(むかさ)日向志(ひさし)が重々しく口火を切る。

「まだ全員揃ったわけではありませんが、始めさせて頂きたく思います」

 隣席へ視線を向けて確認を取り、日向志は続けて言葉を告ぐ。

「先程、十九歳の御令嬢、来海潮郁が何者かに攫われた、との報せが入った————」

 その日向志が告げた一言で周囲の執り成す雰囲気が一変した。


 *


 そんな折、一人の女は斜に笑っていた。

 こうも思い通りにことが進むものか、と高ら嗤いを上げる。

 彼女はこの上なく上機嫌だった、履いているハイヒールのヒールへ罅割れ、亀裂が瓦解したほど高潮していた。

 でも、だけど、と彼女は指を噛みながら思い止まる。これはまだ計画のオードブル程度に過ぎないものであり、メインディッシュには程遠いものだ。何のために危険を冒してまで犯罪者を手駒にしたというのか、何のための姫なのか。それより何よりもそこまで危険を払い冒す必要が果たしてあるか、その応えはイエス、それだけの価値があの姫にはある。それは誰もが疑いようもなく姫なのだ、属性が因果律が存在定義そのものが余すことなく姫なのだ。

 たとえ、はりぼての姫であろうとも構いはしないが、それは確実なる姫なのだからはりぼてではないだろう。

「はりぼてだろうが、何だろうが、姫の素質が十二分に備わっているなら別段、構いやしないし、気にする必要(べく)もない。私としては、ね」

 そう小言を呟いてから彼女、彙条(あつすじ)千暈(ちかさ)は高層ビルディングの屋上から真下へ向かって跳躍して屋上を後にし、急降下してゆく。

「斯くして神話は新たな担い手の下、間も無く始まりを迎えることだろう。その歯車は既に廻り廻っている、その神話への案内役は不肖ながら私、彙条千暈が務めさせて頂くことと致しましょう。どうぞゆったりとお寛ぎ頂きながらお付き合い下さいませ」

 ニヒルな笑みで千暈は上空を見据え、仰ぎ見る虚空へ穿つように掌を翳し上げ、掴み取るように握り拳を作ると急降下していた身体は、毅然とテナント募集の貼紙が躍るビルの裏路地を踏んでいる。

 これは千暈の持つ能力〝ホロウ・ダイヴ〟が基因しており、彼女自身を指すのならば、差し詰め〝不誠実(ホロウ・)探求者(ダイヴァー)〟といったところだろうか。ただ懸念すべき点は、一言でダイヴとは言っても〝探求〟ではなく〝急に姿を消す〟という意味合いが濃い可能性がある点だ。——然らば彼女は〝空腹の急に姿を消す者〟となってしまうかも知れない。

 と、冗談はさて措き、千暈は雑居ビルの靴屋で靴を適当に品定めし、物色していた。

 購入した袋の中からデフォルメされている3Dアニマルの狐が装飾されたレッグウォーマーを両脚に通し、壊れた——いや、正確には壊したハイヒールの代わりに購入したフェイクファーの付いたブーツを履き、その建物を後にする。


『お姫様の捕獲は成功した、これからそっちへ向かう』

「——諒解。ただ気を付けろ、察の連中が何やら動き出したみたいだ」

『それは本当か? ……わかった。せいぜい疑われないよう観光客を装うことに徹するさ』

「なら結構。多少なりとも目覚めが悪くなるかも知れないから、捕まったりはするなよ」

『それはもう解っているさ、ホロウ・ダイヴァー』

「————ああ、その様だ……〝危険(レッド・)道化師(クラウニル)〟————」

 そうお道化て見せて通信を切り、千暈は眼前にあるラーメン屋の暖簾を跨ぎ潜った。

 どうもー、空丘ですん。

 まだ風邪から完全恢復には至ってないです。咳がどうしても治りません、げふんげふん。ほんとどうにかしてほしい今日この頃。今年も来月辺りからくるんでしょうしねー、天敵の恩賞(花粉)ちゃんが……。

 cv:大谷育●さんのピカチ●ウの電撃で原子破壊をしてほしいです。

 そんなこんなで皆さん心身ともに気を付けてぐだざい、げふんげふげふん。

 それではまた、近いうちにまた更新できると思いたいので……ほんと近いうちにまたお会いしましょう。


追記;2014/07/03(Thu)

誤字・脱字・ルビ追加・各修正を施工。

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