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第6話  私達の複雑な関係

 さて。

 旅の仲間であった私とラグナ・ラグリーズが、何故こんな関係に至ったのかをお話ししておこう。


 およそ二年前、私はこの異世界に召喚された。

 それから一年半近く、世界を救う為の旅に出て、半年前に後宮へと入った。


 私とラグの付き合いは、王子様とのそれよりも長い。

 その頃、宮廷魔術師として城に召されていたラグは、王の決定に従い召喚の魔術を執り行った。それによって私はこの世界へとやって来て、彼を伴って旅をすることとなった。

 

 終わりの見えない、苦しい旅だった。今思うと、それもいい思い出だけれど。

 旅の間中、ラグはずっと私を守り、励ましてくれた。いつも側にいてくれたから、それが当たり前のように感じていた。だから、自分の本当の気持ちも、彼の気持ちも、ずっとずっと見逃していたのだ。


 王子と出会ったのは、旅を終えてからの事だった。

 世界救済の成功を祝うパーティーがファルスの城で開かれ、世界を救った聖女として私はその場に出席した。誰もが私を聖女として敬い、賞賛の言葉を送った。

 あの時の私は、そんな現状にうんざりしていたのかもしれない。

 だから、私を一人の女性として愛していると言った王子様に、あんなにも惹かれたのだ。


 貴女は貴女のままでいい。無理に救世主然とすることはない。――いつかそう言ってくれた、ラグの事など気にも留めずに。


 後宮に入ることになった、とラグに伝えた時、彼は笑って祝福してくれた。

 おめでとう、幸せになりなさい、と。

 それから、冗談交じりでこうも言った。


 ――辛くなったら、いつでも逃げ出してしまいなさい。


 宮廷に仕える者の台詞ではない。だが彼らしいと、笑ってしまった。

 ラグは心を不当に縛るような人間ではない。それは一年半もの旅の間、近くで彼を見てきた私だからこそ分かることであった。

 信頼関係という点において、私達の繋がりは確固たるものだった。

 王子様でも、割り込めないほど。


 宮廷魔術師と王子様の恋人という関係ならば、普段の生活において接点はほとんど無い。

 しかし私達は、世界救済を成し遂げた当事者であったから、その後も何かと顔を合わせ事は多かった。式典への参加、闇の支配から解かれた国への視察。

 城暮らしは退屈だったから、そうやって外の世界を見て回れるのは嬉しい事であった。

 

 王子との愛を育むその裏で、後宮の部屋は着実に埋まってゆく。

 やがて女達は王子の愛を声高に主張し始め、王子の心を不審に思う自分がいた。


 一人きりの夜、もう帰れぬ元の世界を思って泣いた事もある。愚かにも、自分が選んだ道だというのに。

 旅をしていた頃、隣にはラグがいた。両親や友人を思い泣いている私の側で、ずっと見守っていてくれた。でも、後宮ではたった一人。


 そんな時に、自分がどれだけラグに救われていたのか、ようやく気付くのだった。


 後宮入りして四ヶ月も経つと、王子への愛情は綺麗さっぱりと消えていた。

 そして新たな気持ちが――ラグへの想いが、日に日に募ってゆく。

 気持ちを伝えるつもりはなかった。ただ姿を眺めて、時に笑いかけてもらう、それだけで十分だと思ったから。


 王子は私の心変わりを知らなかった。

 ある日、今まで散々放っておいた私の元へと現れて、ケロリとした顔で言ったのだ。契りを交わそう、と。

 それまで清いお付き合いをしていたとはいえ、私は王子の側室。断る事などできない。だから相当の覚悟を決めて、受け入れようと努力したものの――できなかった。

 



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