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第4話  幸福な食卓

「貴女に過剰な期待をしていたわけではないのですがね……」


 二人で使うには少し大きなサイズのテーブルに、二人分の朝食が並ぶ。

 私と向かい合うように席に着いた彼――ラグは、皿の上に乗った奇妙な物体を見つめて、これ見よがしにため息をついた。


 彼の言いたい事は十分理解できる。その奇妙な物体を作った私でさえ、目を覆いたいほどだ。

 だから……だからもう何も言わないでくれ。


「……念の為にお尋ねしますが、これは食べ物ですよね?」

「ううっ……」

「一体何を作ったつもりなのか、教えていただけますか?」

「た、卵焼き、です」


 消え入りそうな声で答えると、彼は胡乱な瞳で皿の上の物体、もとい、卵焼きを見つめた。それから徐にフォークで切り取り、そのうちの一欠片を私の口元に運ぶ。


「はい、あーん」

 

 ……馬鹿にしやがってええ!!

 見た目が何だ、食べてみればきっと美味しいはず。

 たとえ黄色い卵と消し炭の黒が妖しげなコントラストを醸し出したとしても、明らかに胡椒の分量を間違えているような臭いを漂わせようとも。


 よし、食べる!!食べるぞ!食べてやるから、な……。

 

 ……。


 …………。


 おかしい。

 口が開かない。きっとお腹がすいてないんだ。

 目の前の自称・卵焼きを華麗にスルーして、私は手元の紅茶を煽る。


「食べないんですか? せっかく愛しのフィアンセが食べさせてあげようと思っているのに」

「ぶほっ!!」


 ラグの言葉に、思わず紅茶を噴出しそうになった。

 

「あ、あのねぇ、そういう事をホイホイと口に……!!」

「はい」

「むぐっ!?」

 

 ひょい、と口の中に放り投げられる卵焼き。そのまま条件反射で租借すれば、途端に口の中に強すぎる胡椒の香りが広がり、卵の殻(いつの間に入っちゃったんだ、コイツめ。ハハハ)がボリボリと音を立てた。


 ま、不味い。思っていたよりも、相当不味い。

 吐き出すことはせずに、なんとか飲み下す。うう……お腹壊したりしないだろうか。

 ラグは、そんな私をじっと見つめていたかと思うと、満足そうに微笑んだ。そして、あろうことか、自分の皿の卵焼きに手を伸ばし、食べ始めてしまう。


「ちょっとラグ、無理して食べなくたっていいよ!? 卵焼きが無くたって、ピレッツァがあるし」


 ピレッツァとは、こちらの世界でいうパンのことだ。食パンよりも、フランスパンに酷似している。

 食卓の上には、私が作った卵焼きの他に、そのピレッツァがある。これは市場で買ったものなので、安心して(この表現は些か腑に落ちないが)食べられる。


 黙々と卵焼きもどきを食べるラグを、私は呆然と眺めた。ふと気付けば、最後の欠片を食べ終えたところで、彼は優雅に口元を拭っていた。


「貴女が折角作ってくれたものですからね」

「ラグ……」


 あ、今、物凄く胸がキュンとした……。


「それに、今から慣れておかないと。これから毎日、貴女の料理を食べる事になるのですから」

「……あ、そう」


 どうしてこう、一言多いんだろう。

 それでも、きっちり平らげられた皿を見て、悪い気はしない。何だかんだ言いながらも、彼は結局優しいのだ。



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