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白衣の元研究者は異世界でスローライフを営む 〜現代知識の技術と料理で、開拓村を楽園に〜  作者: チョコ大福


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第10話:頑固なドワーフ職人と、はじめての仕込み

登場人物

レナード:

元・農学および建築学の研究者。白衣と丸メガネがトレードマーク。農業と建築の知見、そして抜群の料理の腕で開拓村の発展をリードする。

フィオラ:

北方の大森林からやってきたエルフの少女。レナードを手伝いながら、森の植物やハーブの知識で村の暮らしを支えている。

村の老人(バルト):

開拓村の長老。レナードのもたらす驚きの技術と、毎日進化する美味しい食卓を心から楽しみにしている。

ドグラ:

腕は良いが頑固で酒癖が悪く、とある理由で開拓村に流れ着いたドワーフの熟練職人。レナードの建築・構造の知見に最初は反発するが……?

前書き

皆様こんにちは、第10話をお届けします!

石窯のピザで大いに盛り上がった開拓村に、いよいよ新たな仲間、頑固なドワーフの職人・ドグラがやってくる回です。レナードの知性とドワーフの技術がどう噛み合うのか、そして今回登場する新しいグルメ(保存食や手打ちパスタなど)もお楽しみに!それでは第10話、スタートです!

開拓村の空はどこまでも高く晴れ渡り、改良された第一農地では、コンパニオンプランツの効果で青々と育った野菜たちが爽やかな風に揺れていた。

 水路を流れる水は清らかで、新しく断熱処理やトラス構造の補強が行われた家々からは、朝の支度をする人々の穏やかな話し声が聞こえてくる。もはや、この場所がかつて「水も作物もない最果ての荒野」だった面影は微塵も残っていなかった。

「レナードさん、おはようございます! 今朝は一段と空気が美味しいですね」

 軽やかな足取りでテラスにやってきたフィオラは、両手に抱えた麻袋を下ろしながら満面の笑みを浮かべた。その中には、昨日の夕方に収穫されたばかりの新鮮な小麦の束が入っている。

 白衣の裾を翻したレナードは、丸メガネのブリッジを優しく押し上げながら、穏やかに頷いた。

「おはようございます、フィオラさん。素晴らしい収穫ですね。この小麦を丁寧に製粉して、今日は少し趣向を変えた『新しい小麦料理』に挑戦してみましょうか」

「新しい小麦料理、ですか? パンやピザの他にも、まだ何か作れるんですか?」

「ええ、もちろんですよ。生地をこねて薄く延ばし、包丁で細長く切って茹で上げるだけでも、ソースとの絡みが抜群に美味しく素晴らしい主食になりますからね」

 レナードが楽しそうに微笑みながら答えると、フィオラは緑色の目を輝かせた。彼女にとって、レナードが作り出す料理は毎日の最大の楽しみの一つとなっていたのだ。

 その時だった。

 村の入り口へと続く北側の街道の向こうから、カン、カン、カンと、やけに重く不規則な金属音が響いてきた。それまで穏やかだった村の空気に、わずかな緊張感が走る。

 長老のバルトが杖をつきながら、怪訝そうな顔つきで視線を向けた。

「おや……? あの音は、鍛冶仕事の金床を叩く音じゃないか。こんな辺境の村に、旅の職人か何か客人が来たのかい?」

「ふむ……。あちらの様子を見てみましょうか」

 レナードは白衣のポケットに手帳をしまい、落ち着いた足取りで村の入口へと歩き出した。フィオラとバルトもその後を追う。

 街道の砂埃の向こうから歩み寄ってきたのは、人間よりも背が低く、しかし驚異的に分厚い胸板と筋肉隆々の腕をした、いかにも頑丈そうな体格の男――ドワーフ族だった。

 だが、その姿はかなり煤けており、ボロボロのエプロンをまとっている。片手には使い込まれた分厚い鉄製のハンマーを引きずり、不機嫌そうにぶつぶつと文句を呟いていた。

「ちっ……! 王都の工房も、俺の革新的な構造理論を理解しやがらねぇから飛び出してやったってのに、なんだこの寂れた……いや、待て?」

 村の入口までやってきたドワーフ――ドグラは、目の前に広がる光景を見て、ガバッと足を止めた。

 彼が予想していたのは、干からびた泥と絶望に満ちて捨てられた開拓地だったはずだ。しかし目の前にあるのは、水が綺麗に整備され、幾何学的に美しい畝が並ぶ農地、そして構造力学的に美しく組み上げられた頑丈で温かそうな木造家屋の数々だった。

「なんだこれ……? この水路の勾配、無駄がねぇぞ。それにあの家々の屋根、ただの丸木並べじゃなくて、ちゃんと荷重を分散させる組み方がしてある……? 人間の作った村で、こんな精巧な構造設計ができる奴がいるのか……っ!?」

 ドグラが目を血眼にしてキョロキョロと辺りを見回していると、目の前にふわりと白いコートの裾が降り立った。

 見上げるとそこには、理知的な丸メガネをかけ、どこまでも穏やかな笑みを浮かべた青年の姿があった。

「おや、旅の職人さんですか。遠いところよくいらっしゃいました。お疲れでしょう、どうぞ村の中へ」

 レナードが丁寧な物腰でそう声をかけると、ドグラは不審者を見るような鋭い目で彼を睨みつけ、鼻を鳴らした。

「ふん……! お前がこの村の長か? 驚いたな、もっと頭の悪そうな連中が泥をすするだけの村かと思ったが、建築の仕上がりだけは妙に洗練されていやがる。おい、この水路と家を設計したのは誰だ? 俺に嘘偽りなく答えろ!」

 あまりに攻撃的で無礼な物言いだったが、レナードは少しも不快感を抱くことなく、むしろ職人特有の技術へのこだわりを面白がるように、ふっと目を細めた。

「私の名前はレナードです。この村の……まあ、設計や環境整備を担当している者ですよ。あなたのその手元のハンマーと煤けたエプロン、そして専門的な構造への着目具合――あなた、優れた石工か鍛冶職人ですね?」

「おっ……俺の腕前を一目で見抜いたか。そうだ、俺の名はドグラ。国一番の構造と金属加工の腕を持つ職人さ!」

 ドグラは鼻を高くして胸を張ったが、すぐに不機嫌そうな顔に戻って吐き捨てた。

「だがな、王都の奴らは俺の画期的な建築アイデアを『現実味がない』の一言で切り捨てやがった。だから嫌気が差して、どこか誰もいない土地で一人で工房を開いてやろうと思って歩いていたら、この村に行き当たったってわけだ。おいレナードとか言ったな、お前、この建物の設計図をどうやって描いたんだ? 誤魔化さずに説明しろよ!」

 ガサツではあるが、その根底にあるのは「技術への純粋な探求心」だと見抜いたレナードは、優しく微笑みながら頷いた。

「ええ、喜んで。構造力学の基本原理と、応力分散の計算式についてでしたら、お茶を飲みながらいくらでも語り合えますよ。――ちょうど、今からお昼の仕込みを始めるところでした。よければ、あなたも一緒にいかがですか?」

「はっ? 飯だと? 俺はそんな暇……ぐぅ……」

 ドグラの言葉を遮るように、彼の分厚い腹の底から盛大な腹の虫の音が響き渡った。数日間、まともな食事をせずに歩き続けていたため、限界だったのだ。

 ドグラは顔を真っ赤にし、バツが悪そうにそっぽを向いた。

「……ちっ、腹が減ってはいい仕事もできねぇからな。お前の作る飯がどれほどのものか、味見してやるよ!」

     *     *     *

 お昼時。

 改良された石窯の周辺や広場には、いつものように温かい幸福な香りが満ちていた。

 この日のメインは、レナードが小麦粉から手打ちで作り上げた**『自家製トマトソースのロングパスタ(モチモチ食感の手打ち麺仕立て)』、そしてフィオラが採ってきたキノコとハーブをふんだんに使った『濃厚クリーミースープ』**だった。

「お待たせしました。我が村の畑で採れた小麦を使い、手打ちでコシを出したロングパスタです。酸味の効いたトマトソースとよく絡めてどうぞ」

 レナードが綺麗に盛り付けられた皿をドグラの前に差し出す。

 ドグラは「ほう、ただの細切れのパン生地を細くしただけか?」と鼻で笑いながらも、フォーク(のような簡易カトラリー)でパスタを巻き取り、口へと放り込んだ。

 瞬間――。

「……なっ……!?」

 ドグラの屈強な巨体が、ガツンと硬直した。

 モチモチとした弾力のある麺の食感に、完熟トマトの濃厚な旨味と爽やかな酸味、そしてニンニクとハーブの香りがガツンと脳天を突き抜ける。荒々しい旅の途中で乾ききっていた彼の胃袋に、これ以上ないほどの贅沢な旨味が染み渡っていった。

「う、旨い……っ! なんだこの麺の絶妙な歯ごたえは……! ソースの絡み具合といい、絶妙な塩加減といい、王都の高級レストランの料理よりも遥かに美味いぞ……!」

 ドグラは目を剥き、夢中でフォークを動かしてパスタを胃袋へと掻き込んでいく。

 周囲の村人たちやフィオラも「やっぱりレナードさんの作るご飯は最高だね!」「この手打ちパスタ、もっちりしてて大好き!」と満面の笑みで同じ食卓を囲んでいた。

 スープを飲み干し、皿をきれいに平らげたドグラは、満足感と驚愕が入り交じった複雑な顔でレナードを見上げた。

「……参った。お前のその建築の理屈といい、この信じられないほど美味い料理の腕といい……お前はいったい何者なんだ?」

 レナードは優しく微笑み、丸メガネのブリッジを押し上げた。

「ただのお節介焼きの元・研究者ですよ。ドグラさん、もし行き場がないのなら、この村の工房でその優れた腕を振るってみませんか? あなたの技術があれば、この村はもっともっと快適で強い街になります」

 ドグラはしばらくじっとレナードの顔を見つめ、やがてフッと豪快に笑い声をあげた。

「はっ! 面白い! 王都の堅物どもに見捨てられた俺を、こんな美味い飯と面白い構造設計でスカウトするたぁな……上等だ、レナード! 俺がこの村の建物も工房も、すべてびくともしねぇ要塞にしてやらぁ!」

 頑固なドワーフの職人をも巻き込み、開拓村はさらに強力な技術と仲間を得て、理想の楽園へと猛スピードで突き進んでいくのだった。

後書き

ここまでお読みいただきありがとうございます!

第10話「頑固なドワーフ職人と、はじめての仕込み」、いかがでしたでしょうか?

ついに新しい仲間としてドワーフの職人・ドグラが登場し、レナードの建築理論に驚きつつ、手打ちパスタの美味しさに心を奪われるエピソードでした。各種族がそれぞれの特技を持ち寄り、村がどんどん活気づいていく様子を楽しんでいただけたなら幸いです。

次回は、ドグラの鍛冶・石工技術とレナードの建築知識がタッグを組んで、村のインフラをさらに大規模にアップデートしていく展開へと進んでいきます!

「面白そう」「続きが読みたい」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、いいねをいただけますと大変励みになります。それではまた第11話でお会いしましょう!

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