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悪魔の薬

掲載日:2026/06/27

【第一話 主人公死す】



「ミネルバ!ミネルバ・グリークはいるか!」


パーティー会場から一段高い場所から令嬢の名を叫ぶ一人の男性が立っていた。

男性の脇には庇護欲をかきたたせるような見目麗しい令嬢が男性に縋るようにいる。

そして、そんな二人を守るかのように二人の男性が立っていた。

二人は帯剣していた。

パーティー会場での帯剣は警備兵以外ご法度のはずなのだが、令嬢の名を叫ぶ男性の指示であるならば許された。

何故ならば、大声で令嬢の名を叫ぶ男性はこの国の王太子であった。

そして、彼は私の婚約者でもあった。

私の婚約者でもあるのにも関わらず、男性の隣には違う女性が寄り添っている。

これが婚約者と私の関係。

婚約者は未だに私の名を叫んでいた。


「ここにおります」


会場が割れる。

私と婚約者との間に道が出来た。

婚約者の男は私を見付けると獲物を捕えたかのように睨み着けていた。

整った顔も歪められ醜く見えた。

私が所定の位置に着くと闇深い笑みを浮かべた。

これから行うご自身の行為にさぞ酔いしれておられる事でしょう。

私は忍ばせている小瓶をさりげなく確認した。


「ミネルバ!お前はここにいるミーファに嫉妬し散々嫌がらせをしてきた」


ミーファではなくミーファ嬢。

断罪したいのに此ではご自身が『不貞しました』と言っているようなものなのだけど酔いしれている殿下は気づいていないようであった。

尚、嫌がらせのような事をしてきた覚えはない。

しかし、そんな事などどうでもいい事なのでしょう。

どうせ、私に反論する時間も設けようとは思ってないのでしょうから。


「私が散々咎めたにも関わらず、嫌がらせが治まる事はなかった」


それも嘘。

私と婚約者はここ三年間言葉を交わした事などない。

お茶会や誕生会はすっぽかされ続けた。

手紙も届いた事など一度もない。

そのような嘘が口から出てくるのだから彼は騙されているのではなく共犯者だと自白している事に気付いていない。


「そして、あろうことか貴様は彼女を階段から突き落とすという愚行を行った」


それはあり得ない。

私は薬の研究を行っており、その日は新薬の関係で王妃と話をしていた。

学園にいない私がどうやって彼女を突き落とせるというのだろうか。


「このような愚行を行う者を将来の王妃などあり得ん。よって私はミネルバ・グリークとの婚約を破棄するものとする」


漸く本題に入った。

長々と話をしているが結局彼は浮気を正当化したいから責任逃れとして私を責めているだけ。

彼の方があのような愚行を行う者が将来の王などあり得ないと思う。

しかし、王家と臣家の立場。

立場を利用され有無を言わせず押しきるつもりらしい


「それだけで済むと思うな!」


婚約者の男はニヤリと笑う。

これから先の発言で私が不幸に堕ちていく事を想像しているのでしょう。

なんて性格の悪い婚約者なのだと再認識してしまう。


「貴様が犯した罪は消えない。貴様には新しき婚約者となるミーファの侍女として・・・」


「お断り致します!」


「なっ!?」


ご自身が酔いしれながら喋っている最中に遮られ、予想外の返答に眉間に皺を寄せて睨みに凄みを増せていた。


「私には身に覚えのない事でございますので、そちらに従うつもりはございません」


「巫山戯るな!」


「ええ。私には反論さえ許されないのでしょう。ですから私は命をもって反論致します」


私は忍ばせていた小瓶の中に入っていた液体を飲み干した。

視界がボヤけ初め、ふらつき出す。

婚約者の顔がボヤけて良く見えないがかなり慌てているのではないかと思うと滑稽に思えてしまった。

暫くして私はその場で倒れ込んだ。


「「「キャーーーー!!!!」」」


会場がパニック状態となった。

次々と会場から人が出ていく。

慌て過ぎて倒れる者もいたが、構わずに倒れた者を踏みつけ我先にと会場から逃げ出そうとしていた。

しかし、婚約者であった男は何があったのか解らず倒れた倒れた婚約者の方をただ見下ろして立ちすくんでいた。


ミネルバ・グリーク 享年18歳

婚約者の前で無実の抗議にて服毒し人生を終えた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【第二話 王太子の斜陽】



私の名はレオナルド・レオンハート。

この国の王太子だ。

私には婚約者がいる。

初めて見た彼女は美しく私の婚約者として合格だった。

しかし、相性が悪すぎる。


彼女は何をやらせても上手く行う事ができ私が何をしても彼女と比較されてしまう。

私にはそれが彼女の嫌味に感じた。

だから私は彼女を婚約者として扱う事はしなかった。

ミネルバが私の婚約者など認める事など出来ない。

私のプライドが彼女の事を許せなかった。


そんなある日、ミーファと出会った。


ミーファは私のプライドを揺さぶるような事はしない。

ミーファは私の事を肯定してくれる。

ミーファはミネルバと違いか弱かった。


私はそんなミーファに惚れてしまった。

彼女こそを妃にしたいと思ってしまう程に

だが・・・それには・・・ミネルバが邪魔だ。


だから私は彼女を罠に嵌める事にした。

彼女さえいなくなればミーファと一緒になれる。

いや、いなくなるだけでは駄目だ。

ミーファには王妃となる器ではない。

ミーファを妃とさせるためにはミーファを支える者が必要だ。

そう、ミネルバのように優秀な者が。

ミネルバを断罪し罪としてミーファの侍女としてミーファの事を支えさせればいい。


私の作戦は完璧だ。

後は私が台詞を格好良く喋るだけであった。

なのに・・・何があった!?

ミネルバが何かを飲み干すと倒れて動かなくなった。

会場が慌ただしくなったが、私は目の前で何が起きたのか理解出来ないでいた。


「息をしておりません。既に亡くなっておられます」


誰が呼んだのか解らないが王家専属医師が倒れたミネルバの容態を確認し、目の前で起きた事は演技ではなく現実である事が告げられた。


上手くいっていた筈であった。

何もかも。

ミネルバの命を奪うつもりなどなかった。

ミネルバにはミーファのために働いて貰わねばならないのだから。

なのにミネルバは自身の無実を証明するために毒を飲んで亡くなってしまった。


(私が殺したのか?)


私が冤罪をかけなければ彼女は死なずに済んだ。

いや、私は悪くない。

私は彼女を殺そうなどとは思っていない。

しかし現実としてミネラバは倒れてしまった。


「国王様が呼ばれております」


何故、もう父上が?

誰が告げたのか解らない。

ただ解るのは、私が思い描いた未来とは違う方向へ大きく傾いてしまった。

私はミーファと側近達をおいて父上の元へと向かった。

皮肉な事にその方向は日が沈む方向であった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【第三話 国王の憤怒】



ワシの名はオルキニス・レオンハート。

この国の国王だ。


ワシは息子のために優秀な婚約者をあてがった。

ミネルバ・グリークは侯爵家の令嬢で幼き頃より多くの薬を開発するなど優秀な事で有名であった。

彼女ならば愚息を補うだろう。


ワシの見立ては間違いではなかった。

令嬢は騎士の職業病である足の病気や鍛冶屋の職業病である目の病気など、この国を多々なる薬によって環境が改善されていき、国民から未来の王妃として期待されるようになった。


それが息子は気に食わなかったのだろう。

息子は彼女に会おうとしなかった。

それどころか、あろうことか別の令嬢に熱を上げてしまった。


侯爵家から苦言を言われる。

王妃からも散々苦言を言われた。

婚約は解消すべきだと。

しかし、まだワシは『若気の至り』『成人すれば』と軽く見ていた。

それがこのような悲劇を招く事になろうとは。


息子が婚約破棄を宣言したと聞いた時は一瞬鼓動が止まり思考も止まってしまった。


婚約破棄?

断罪?

服毒?


ミネルバ令嬢が無実を証明するために服毒した事を知った時はワシは鼓動がそのまま止まったままでいる事を願った。

あれ程の人気がある令嬢との婚約破棄ですら大問題となるであろうに、服毒となれば国民になんて言い訳すれば良いのだ。


何て事だ。

こんな事になるのならば王妃が申す通り早く婚約を解消するべきであった。

隣に座る妃はワシの事を見ようとしない。

こんなことなら、レオナルドを王太子等にするのではなかった。


私の呼び出しによって息子が姿を現した。

何故だろうか、あれ程可愛らしかった息子が今や憎たらしくて仕方がない。


「説明しろ!」


初めて息子へ冷たい視線を浴びせながら、国王になって初めて周りが凍てつくのではないかと思われるほど冷たい言葉で息子を問うた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【第四話 罪人達の末路】



父上から問われた。

このような冷たい視線と室内の温度が数度下がったのではないかと思われるような声は今まで聞いた事がなく、体が震え出す。


「早くしろ!」


「は、はい。」


父は少しも考える猶予は与えてはくれないようであった。

私は懸命に説明した。

罪人が少しでも己の罪を軽くしようと所々に言い訳を挟み、自身に都合の良いように言葉を変換して説明したが、父上の目はそれら全ての言い訳を見抜いているようであった。


「証拠は?」


「えっ?」


「何を驚く、人を裁くのに証拠が必要だ。証拠を示せ!」


「ミーファより叩かれた事や教科書をズタズタにされた事、階段から突き落とされた事等の告発を受けております。また、側近の二人も階段から突き落とす現場を見た等の証言を得ております。それにズタズタされた教科書も・・・」


「聞くが令嬢は階段からミネルバ嬢に突き落とされたと申したのだな?そしてお前の側近が目撃者であるのだな?」


「えっ、は、はい」


「そうか」


父上が右手を軽く上げて合図を送ると一人の兵士が出ていった。

何の合図かこの時は解らなかった。


「聞くが嫌がらせに対しミネルバ嬢は何と申していた?」


「・・・」


「どうした?」


何も言えない。

彼女との会話などの記憶などない。

ここ数年、話したことすらなく、彼女がどんな声だったのか、どんな顔だったのか先ほどまで解らなかった。

だから私は名を呼び名乗り出てくるのを待っていた。


「まさかと思うが、ミネルバ嬢に問わなかったのか?」


「は、はい」


「だが、お前は会場で『何回も咎めた』と申したそうではないか」


「そ、それは・・・」


「嘘だと申すか?」


「嘘ではなく・・・過剰表現と申しますか・・・」


「過剰表現とは1の事を100にして言う事を言う。だが、お前は話した事がないのだから1ではなく0ではないか?0を100にして言う事を虚言と言うのだ」


「・・・」


「今一度、聞くぞ。お前は虚言を申したのか?」


「・・・はい」


「なるほど・・・」


父上が喋らなくなった。

重苦しい空気で潰れそうだ。

早く次の言葉を喋って欲しい。

すると、先ほど出ていった兵士が戻ってきた。


「終わったか?」


「はっ!」


「連れてこい!」


「はっ!」


再び兵士が出ていった。

誰を連れて来るのか?

ミーファか?

それとも側近の二人?

何故に連れて来るのだろうか?


もしや、父上は既に処置を終え、ミーファとの婚約を認めて下さるのでは。

何だかんだいって父上は私に甘い。

今までと空気が違い恐れてしまったが、やはり父上は助けてくれたのだと思った。


しかし、兵士が連れて来た三人を見て、父上が助けてくれないものだと悟った。

三人は首だけがお盆に乗って私の前に並べられた。


先程まで私の隣で寄り添っていた者。

先程まで私と将来を語り合っていた者。

先程まで意気揚々と断罪に協力してくれていた者。


皆が生首の状態で目を見開いて私を見ていた。

胃の奥から異物が込み上げて来る。

暫く嗚咽が止まらなかった。


「何故・・・彼等は?」


「お前がその娘が階段から突き落とされたとされた日はミネルバ嬢は王宮に来ており学園には通ってなどいない。これは登城記録に記されている」


「そんな・・・」


「そんなではない。その娘は虚偽の被害を訴えた。お前の側近は虚偽の証言を申した。相手はただの侯爵令嬢ではない。未来の王妃となる者を貶めたのだ」


「だからといって、このような・・・」


「このようなではない。ミネルバ嬢を死なせてしまったのだから仕方がなかろう」


「ですが、私共は死なせよう等とは・・・」


「死なせようと思ったかどうかなど関係ない。結果、死なせてしまったのだ。死は死をもって償うしかあるまい」


「そんな・・・」


私は再び彼等を見て喉の奥から再び胃液が込み上げてきた。

彼等に申し訳ない。

私が不甲斐ないせいで。

私の誤った行動のせいで。


「もしやと思うが、お前はこやつらの事、憐れんでいるのではないだろうな?」


「えっ?」


「主犯はお前なのだ。何故にお前だけが何の咎めがないなどと思う」


「ま、まさか・・・」


「先程申したであろう。『死には死を』と」


冗談ではないのか?

今までだって様々な不祥事を父上は揉み消して下さった。

今回だって同じだと思っていた。


だが、父上から漂う凍えるような威圧が偽りでない事を語っていた

嫌だ・・・・

死にたくない。

私は王太子だ。

このような事で死んでいい訳がない。


「い・・・嫌だ・・・母上・・・」


母上に助けを求めたが母上は涙を流すだけで一言も発する事はなかった。

憐れんでくれているが助けようとはしてくれなかった。


私は腰が抜けた状態で少しでも父上から遠ざかろうと這いつくばりながら後退りした。

私の行く先を兵達が遮る。

私の目の前に一つの小瓶が置かれた。


「ミネルバ嬢と同じ薬だ」


「嫌だ・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」


私は拒むも羽交い締めにされ無理矢理小瓶の中の液体を無理矢理に飲まされた。

少しずつ視界がボヤけてきた。


嫌だ。

私は死にたくない。

こんな事ならば断罪するのではなかった。

こんな事ならば婚約破棄をしなければよかった。

こんな事ならばミネルバと仲良くしておけばよかった。

こんな事ならばミネルバに嫉妬しなければよかった。


もう遅い。

今更、後悔しても。

もうミネルバは死んでしまい、いなくなってしまったのだから。

私は薄れ行く意識の中で後悔の念にかられていた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【第五話 騒動の落としどころ】



市井に衝撃のニュースが流れた。

皆が慕い将来の王妃として期待していたミネルバ・グリーク侯爵令嬢がレオナルド王太子に疑われた罪に対し、身の潔白を証明するため服毒してこの世を去ってしまった事が知らされた。


グリーク侯爵邸には彼女の死に悲しむ民の献花の列が数日続くほど悲しみの声が寄せられ、王宮では恩人を死へと追いやった者達への抗議の声が集まったが数日後には収縮した。


虚偽の被害報告をした令嬢と嘘の証言をした王太子の側近二人の生首が晒され、後日にレオナルド王太子が責任を感じ、太子の座を返上し自死を選んだ事が発表されたからだ。


また、後日に王妃とミネルバ嬢が妃教育によって信頼関係の仲で、ミネルバ嬢から数々の調薬の配合を教えて貰っていた事が解った。

失われたミネルバ嬢の薬は王妃によって復元された。

これによってミネルバ・グリーク侯爵令嬢の死によって燃え上がった市井の怒りは完全に沈下する事が出来た。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【第6話 悪魔の薬】



薄暗い部屋。

ミネルバ・グリークの遺体は王妃の指示により密かにここに置かれていた。

ここの場所は国王ですら知らない。

そのような場所でミネルバは静かに目を開けた。

自身が何処にいるのか解らず目を右往左往させて探って見た。


「本当に目覚められたのね」


話し掛けられた方を見ると王妃が静かに立っていた。

王妃は何時からそこにいたのだろうか。

まさか、私が目覚めるまでずっとそこにおられたのだろうか。

王妃・・・悪魔の薬を知る唯一の共謀者。


私は数度の調合実験により悪魔の薬を生む事が出来た。

この薬を飲むと一時的に脈が止まり、呼吸も止まる。

どんな優秀な医師でも死と判断してしまう。

だが、時が来ると再び脈も呼吸も動き出す。


あの断罪のなか、泣いても否定しても結果は変わらなかったと思う。

レオナルド殿下が予測出来ない行動が必要だった。

だから私は死を演出した。


だが、私の計画には王宮内に味方が必要であった。

内部に強いものであれば強いものほど良かった私は味方に王妃を選んだ。


王妃とは妃教育の関係で度々お会いしているうちに王妃もレオナルド王太子の事を疎ましく思っている事が解った。

理由は解らない。

が、そんな事はどうでも良い。

目的が一緒ならば。


結果、王妃は私の話にのって下さった。

いや、まだ安心できない。

今、この場で私は彼女に殺されても誰も不思議に思わない。


「安心しなさい。わたくしには貴女を始末する理由はありません」


「本当ですか?」


「ええ。貴女のお陰で王宮内における私の発言力はかなりのものとなりました。邪魔なレオナルドを処する事も出来ましたし貴女には感謝しかありません」


邪魔なレオナルドか。

実の母親にそのように思われていたと知ったらレオナルド殿下もどう思っただろうか。

理由は知らない。

知らない方が良い。

だから、追及はしない。


「ふふ、やはり貴女は聡いわね。好奇心によって身を滅ぼす道を歩もうとしないのですから」


知ろうとしないのではない。

知ることが出来ないのだ。

『どうしても実の息子を』等と聞いてしまったら、今度は私が王妃の邪魔な存在となってしまう。

今の私は赤子みたいなもの。

王妃の気分しだいで私の生死は決められていた。


「私にも色々と事情がありますので」


「それでいいのよ」


「この後の段取りはどうなっているのですか?」


「隣国の男爵夫婦の養子となるよう話をつけてあります。薬草園も研究施設も用意してあるわ」


「そうですか」


「ユワンダ」


「はい?」


「これからは貴女はユワンダ、ユワンダ・ドナルドよ」


ユワンダ・ドナルド。

これからの私の名。

ミネルバ・グリーク侯爵令嬢は死んだ。

冤罪の抗議によって。

これからはユワンダ・ドナルド男爵令嬢として生きる。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【第7話 悪魔に魂を売った母親】



私のはフローラ・レオンハート。

この国の王妃。

私には三人の息子がいる。

その一番の長男のレオナルドが王太子となった。

このままではレオナルドが王となってしまう。


三人は私が産んだ。

だから三人とも心から愛している。

愛しているがレオナルドを王にさせる訳にはいかない。


たった一度の過ち。

王の子かもしれないが、そうでないかもしれない。

疑わしい血を王にさせる訳にはいかない。

何としても・・・

それが悪魔の道だとしても・・・


レオナルドが愚か者となるよう育てた。

優しく、甘い言葉を投げ掛け、少しずつ少しずつ王の器からふるい落とされるように。

私の計画は問題なく進んでいた。

ミネルバ・グリーク侯爵令嬢が現れるまでは。


ミネルバ・グリーク侯爵令嬢は優秀であった。

優秀過ぎた。

レオナルドの愚かさを補える以上に。

私の計画を邪魔する女。

目障りな女は早く排除しないと。


私はミネルバ・グリーク侯爵令嬢を排除するタイミングを謀るため、度々顔を合わせる事にした。

妃教育。

息抜きのお茶。

理由は様々。


彼女と何度か顔を合わせる度に気付いた。

彼女は妃になる事を望んでいない。

少なくてもレオナルドの事を好いてはいない。

そして彼女は恐れている。

レオナルドとの婚約を。


理由は解らない。

いや、理由など関係ない。

彼女をどうやって排除しようか悩んでいた。

彼女は国民に愛され過ぎる。

そのような人物を無碍に排除すればどんな副作用が発生するか解らない。

ならば・・・味方にしてしまえば・・・。


様子を見ることにした。

彼女は絶対に行動に出る。

その行動を待つことにした。


「王妃様、こちらを」


彼女がテーブルに一つの小瓶を置いた。

小瓶には淡緑色の液体が入っていた。


「こちらは?」


「悪魔の薬です」


「悪魔の薬?」


「はい」


彼女曰く、この薬を飲めば死を体験出来るらしい。

だが、解らない。

それが、何を意味するというのか。


「今度のパーティーにて私はレオナルド殿下に冤罪をかけられ婚約を破棄されます」


「あら、貴女がレオナルドとの婚約に執心しているとは思わなかったわ」


「婚約などはどうでもいいのです。問題は冤罪によって私はミーファの侍女として今まで通り仕事をさせられます。私は存在しないものとされてしまいます。私は死にたくありません。ですが、シナリオ上、運命から逃れる事は出来ない。ならば、私はこの薬を飲んで死と言う演出を自ら作るつもりです」


彼女の言葉には意味不明なものもあるが、要は『今度のパーティーで断罪が行われ、彼女はこの薬で死んだふりをする』。

だけど・・・


「わたくしに何故話したのですか?」


そう、疑問に思うのは彼女は何故この話を私にしたのか。

計画を遂行させる為にはこの薬の存在を明かしてはいけない。

そもそも、対象者の母親にするような話ではないはず。

ならば、彼女の目的は・・・


「王妃様に話した理由は3つございます」


「一つは、共謀者となって頂く事」


「共謀者?」


「はい。私が悪魔の薬を服用した後、信頼ある方に私の死を断言させて欲しいのです。また、目覚めた時に人の目に触れないようにもお願い致します。

もし、可能であれば、今後の生活場所などを紹介して頂けると助かります」


「二つ目は国民の鎮圧です。王妃様には私が開発した調合薬の幾つかのレシピをお渡し致しますので、こちらを使って鎮静化を謀って欲しいのです」


「三つ目は私の死を王妃様に利用して頂きたいのです」


「利用?」


「はい。王妃様も色々とお悩みがあろうかと。その悩みの解決の材料に使って頂ければと思っております」


「そう、何の事を仰有られているのか解りませんが、有り難く受け取っておくわ。それと、隣国に知人がいるのだけど久しぶりにお話ししたくなりましたわね」


彼女が味方となった。

優秀だと思っていたけど、想像を超える優秀さ。

手放すのが欲しいくらい。


でも、一番の目的はレオナルドを王太子から引きずり降ろすこと。

それには彼女から得られた情報は最高なものであった。


彼女が言っていた通りレオナルドがパーティー会場で断罪による婚約破棄を宣言し、ミネルバ・グリークは無実の証明として毒を飲んで倒れた。


私は王宮専属医師に様態を確認させ死を証明した。

遺体も誰にもばれない場所へと保管した。

彼女の望みは叶えてあげたい。

彼女は私を悩みから救ってくれたのだから。


願いが叶いレオナルドが王となる事はなくなった。

まさか処刑されるとは思わなかった。

母親として悲しい。

だが、それ以上に安堵してしまった。


これで疑わしい者が王となる事はなくなった。

安堵した私は彼女が私に献上した悪魔の薬をどのように使おうかと小瓶をなぞった。

お気づきの通り、ミネルバは転生者です。

薬の知識は前世によるものかどうかはご想像にお任せします。

今回は王子を悪の被害者とし、悪役令嬢を正義の悪として描いて見ました。


読んで頂いた方には是非に★やコメントをお待ちしております。

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