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約500文字の毎日  作者: 端役 あるく


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9/12

渡さなかった手紙


 皺が目立ち始める手。古びた木製の便箋箱。僕の手には縁がやや茶色みかかった手紙がある。


 大学を卒業した後、就職した企業は地元の編集会社だった。


 自社発行している地方紙に付属される感想葉書。それを目に通していくのが、新人である僕の仕事の一つだった。毎日数十枚ほどの葉書を流し見る。自分宛ではないその言葉の中に一つ知っている名前を見つけた。


 高校生の時、付き合っていた女性。

 不思議な女性であった。付き合った動機も別れた動機も。少なくとも喧嘩別れでは無かった。別れた後も仲は良好であったし、別の大学に行くことになったがその行き先を互いに知らせあったりした。


 けれども、ぼんやりとした関係。


 記憶中の薄い関係のイメージに対して、気持ちは固くなる。次の休み、僕は彼女の家に向かった。手には彼女がもし実家にいなかった時のために拵えた手紙を持って。


 ドアベルを鳴らす。出たのは彼女の母だった。


「お久しぶりです。佐々木拓人です」


「あら、拓人くん。こっちに帰っていたのね。ちさ、よね……」

 母親の顔に少し影が落ちる。


「ちさ、なんだけどね。えと、あのね。あの子、大学中退しちゃって」


 手の中の手紙に力が入り、脱力する。


「人に会える状態ではなくてね。会えるか、聞いてみようか?」

 迷うけれど、母親の顔が会うことに対しての強い失敗を想起しているのが分かった。


「いえ、大丈夫です」

 彼女はそこに居るはずであるのに、何がその家の中にあるのか全く想像が出来なくなった。


「すみません、帰ります」


「ちょっと待って。上がっていかない?」


「いえ、すみません」


 静止を聞かずに家を離れる。一瞬後ろを振り返る。純白を記憶していた壁は泥汚れと枯れた枝葉が満ちる。赤い郵便受けにサビが目につく。


 少し歩くと真っ赤なポストがこちらに口を開けていた。手には手紙。宛先は空いている。彼女の住所が実家とは変わっていた時のために空欄にしておいた。送り名は自分のもの。


 空欄の手紙。この手紙は誰に届くべきなのだろうか。その答えを知っていて僕は去ったのだ。けれど、それが答えだと思いたく無かった。


 僕は大きく開けられた口に手紙を入れる。


 


 

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