消さなかった通知
最初はほんの小さな興味だった。相手もしてくるのだから別に良いではないか。僕たちは互いに等しく平等であるはずだ。
スマートフォン。そのプライベートを管理する機器を彼女の寝ている間に覗いてしまった。Instagram、X……、これらは特に稼働すらしている様子が無かった。アカウントはあるけれど、僕のものとも繋がっていない。ストーリーも何もするタイプの彼女ではない。
最後に見たのがLINEだった。およそこれが一番重大な個人情報だと分かっていた。だからこそ、最後に見た。途中で彼女が起きるならそれでも良かったし、何かあるなら見たくないと言う気持ちもあったかも知れない。
LINEを開く。未読が並ぶ。1235件、未読の赤い数字の合計はそれを示す。ほとんどがどこかの公式アカウントのメッセージ。貯めるタイプなのは知っている。読んでも未読にしている場合もある。
数時間前に送った『今から行くよ』という僕のメッセージも未読のまま。
ずっと下にスクロールしていく。ずっとずっと続くLINEメッセージ。ようやくその未読欄の最後に辿り着く。
その後だった、安心の間に分け入った見知った名前。彼女の元彼だった。
既読されているトークの一番上。
連絡はとっていないと言っていなかったか。真新しい会話。彼女は何か返信をしているか。
ぐっと震える指が近づく。ゆっくりとしか動かない指。液晶へと指より前に目が画面に付かんとする。
興味と恐怖が混じり居る。心臓の拍動が、汗の一粒一粒になって服に吸われる。
ふっと息をしなおして、画面にはパッと情報が流れる。同時に僕は画面の奥に彼女の目を見た。
「見てるの?」
彼女の声には随分と芯があって、とても寝起きとは思えなかった。声に気圧された僕は言葉を瞬時に返せない。呼吸の前に喉を唾が無理に通ろうとする。
「はやく寝なよ。明日に響くよ」
「え?」
「おやすみ」
「……おやすみ」
答える僕の顔を見て、彼女はそっぽを向いて寝てしまう。彼女の背中は脱力して。
「好きだよ」
背中を向けた彼女が言った。後には静寂が残る。僕の顔を液晶に映るメッセージの緑の光が照らす。下を向けば答えがあった、しかし僕はその答えを閉じる。そして、スマホを伏せて置いた。




