一度だけ鳴らなかった電話
ベルが揺れない。スマホも。
フローリングを滑るモップ。珍しく1人分の食器、こつこつと洗い減らしていく。濡れる髪の毛、肩から垂れる水滴と白いタオル。水滴はグレーのタンクトップに落ち、跡を残す。
ベルが揺れない。スマホも。
ふとももからしっかりと見えるパステルカラーのもふもふの寝巻き。黒縁の強い度が入ったメガネ。三角座りの背中がべったりと白い壁に着く。ノートPCの画面に映る好きな映画にハートをつけていく。
ベルが揺れない。スマホも。
ひりりと痛む背中と三角座りの私。ペディキュアが光る。触ると滑らかな感触が分かる。一応、爪も見る。伸びてきたからまた切らないといけない。上を見上げる。私は背が低い。座ってるし、すごく小さい。
ベルが揺れない。スマホも。
スマホの画面が暗い。天井のLED光がいつものように明るい。静かなのに、そこは変わらない。床に髪の毛が一本落ちている、それを拾ってゴミ箱へ入れる。三角座りが更に俯き小さくなる。ありとあらゆるところの影が止まって暗い。
ベルが揺れない。スマホも。
三角座りが下を向く。時計の秒針がカチカチと聞こえる。それだけ。
口の中が焦燥する。大きく溜息をつく。ぐっと喉から押し上げられたものが目から滲みそうだった。
「ごめん、遅くなった。スマホの電源が切れちゃって」
「……」
上を見上げる。小さい私、大きい彼。
「ただいま」
「おかえり」




