書きかけのまま止まった日記
「なんで書かなくなったって言えば、日記って未来ありきだと思ったからだよ」
友人が私の書いた絵日記を下を向いて読む。私はその姿を鏡越しに見る。肌を整地する。
「未来って、あなた死ぬの?」
「死なないけど?」
「じゃあ、どういうことなのさ」
メイクをしていく。凸凹として自由な姿だった私は無くなっていく。
「エゾノギシギシって知ってる?」
「エゾノギシギシって植物の?」
「そう」
「それがどうしたの?」
「私、絵日記に植物を書いていたの、毎日ね」友達は私の顔を鏡越しに見ている。
「子供の頃は、なんの気無しにただ庭の地面に生える植物を描いてた。私はそれを綺麗だと思っていたし、私らしいと思ってたの」
「うん」
私の肌は完璧に整地され、作られた肌色へと統一されていく。
「でも、家の近くが住宅地に作り替えられるって事になって空き地だった近所の草むらはすぐさま綺麗に平されたの。そこで最後に見た植物がエゾノギシギシだった。強い種は残るものよね。私はそれを絵日記に書き記して満足した」
「変わるものの中に残るものを見ればいいって思った」
目元のメイクに移って私は仕上げにかかる。
「でも私は知らなかったの『エゾノ』なんて名前だけれど、エゾノギシギシって外来種なの」
私の垂れ目はキリッと上を向く。まつ毛も何処を目指しているのか。
私は下に開かれた日記をそっと大事に閉じた。




