世間はそれを溺愛と言うのだ
「これが噂のバラの庭園」
「きれいでしょ?なかなかユリア呼べなかったもんね」
「タイミング合わなかったし」
「ユリアももうすぐ結婚式だし。私もカルキベア家に嫁いだら、ここでお茶会開くことなくなるし、今日お茶会できて良かったね!」
学年が1つ上がり、私達が2年になったある晴れた休日。私とユリアは私の家の庭園でお茶会を開催していた。
ユリアの婚約者のシロホソ様は、私達より少し年上で今年25歳になる。
そのタイミングでお父様が隠居され、シロホソ様が侯爵様になる事が決まったのだ。
ユリアも学園を退学して結婚。侯爵夫人としてシロホソ様と領地を支える決意をした。
この場所でのユリアとのお茶会は、最初で最後になるかもしれない。
「式にはカルキベア様も来るって?」
「うん!王太子との隣国訪問、途中でアルベルト様が代わってくれる都合がついたんだって」
昨年学園を卒業したアーサー様は、予定通り王太子の側近として日夜奮闘している。
ユリアの式が決まった時も、以前から入っていた予定をずらせず、私は父と一緒にユリアの式に参加するつもりでいた。
結婚式では、幸せに当てられて新しい出会いを求める方もいるので、異性の同行者を連れているのは“私は出会いを求めていません”の意思表示にもなるからだ。
それを知った同じクラスのロイド君が、自分が同行しようかと提案してくれた。彼の婚約者はまだ7歳で、長時間の式でじっと大人しくさせるのは可哀想だから一人で参加するつもりなのだと。
「その話を知ったアーサー様の行動力」
「ロイド君が苦笑してたよ。君に同行を申し出た翌日にアーサー様が“お気遣いありがとうございます。私の都合がつきましたので、同行者は辞退させてください”って言ってきたよ〜って」
「子爵家に圧力をかける公爵家」
「言い方!」
「私もロイド君から聞いた。カルキベア様のカレン嬢への溺愛は噂通りだって」
あの日、もう1度信じてみようと思った私にアーサー様はゆっくりで良いと言ってくれた。
これから信じてもらえる様に、言葉でも行動でも伝えるからと。
そうして学園で共に過ごしていたら、いつの間にかアーサー様と私の婚約に否を言う人達は居なくなっていた。
アーサー様が卒業して学年が上がり、新入生たちには「あのカルキベア様に溺愛されている婚約者」と羨望の眼差しで見られている。
「皆、溺愛溺愛って言うけどさ。そんなに?って思う。表現が大げさすぎない?」
「マジでか」
「何がよ」
「カレンほど婚約者にわかりやすい愛情を向けられてる令嬢は少ない」
「そう…?」
「カレンと居る時のカルキベア様の表情、筆舌に尽くしがたい」
「えっ、わかんない。いつもニコニコしてるけど」
「いつも薄く微笑んでいるだけの美貌の紳士、それが我々の知るカルキベア様」
「そうなの?」
「カレンにしか見せない姿。むしろそれが沼と最近評判」
「沼系男子…」
時は流れてユリアの結婚式当日。
「とても美しいです。初めて見るドレスですが、お似合いですね」
「ありがとうございます。アーサー様も素敵です」
王太子と隣国へ行っていたアーサー様と顔を合わせるのは1ヶ月ぶりだ。
そのせいか、彼のキラキラしいオーラがいつもより大きい気がする。
「では、行きましょうか」
スッと差し出される腕に私の腕を添えて、私たちは式場に向かった。
「ユリア、とっても綺麗でした」
「そうですね。モウヤシ侯爵ととてもお似合いでした」
式が終わり、私の興奮は続いていた。
美少女のユリアが純白のウェディングドレスを着た姿、それはそれは美しかった。
彼女と過ごしたのは1年と少しだけど、その思い出が走馬灯の様に溢れ出し、涙が止まらなかったくらい感動的だったのだ。
「私たちも、そろそろ式の準備を始める頃でしょうか?」
ふと私は疑問を口にする。
周りの女生徒の中には、ユリアみたいに中退して結婚するものが出る頃だ。
アーサー様は少し驚いた様に目を見開いた後、優しく微笑んだ。
「せっかく学園で学んでいるのです。卒業まで待ちますよ」
「そうですか?王太子の側近は外交の際にパートナー同伴が多いそうですが…」
「多い、というだけで絶対ではありませんから」
そう言われても、何だかモヤモヤしてしまう。
そういう時は、女性職員をパートナーとして側に置くとアルベルト様から聞いたから。
「心配しなくても、私はカレン嬢しか見ていませんから」
「………別に心配していませんよ」
「では、ヤキモチを焼いてくれたと自惚れてもいいですか?」
「…………知りません」
アーサー様はいつでも真っ直ぐなのに、どうして私はこうなのだろう。
それが最近の私の悩みだ。
「アーサーと仲良くしてくれて、私とっても嬉しいわ」
赤毛の妖艶美女こと、アーサー様のお母様である公爵夫人。今日は夫人に呼ばれ、カルキベア邸でお茶会をしている。
公爵夫人になる為の勉強が一通り終わったからだ。
屋敷の指揮は専業主婦時代のノウハウがあったし、領地経営の補佐は、社会人時代の事務仕事と同じ要領ですれば良かったから思ったより大変ではなかった。
特に社交術に関しては『まるで百戦錬磨の社交界の闘牛士の様だ』とのお墨付きを貰っている。
「あの子、縁談なかなか決まらなかったのよ!顔合わせしても、ピンと来なかったみたいで」
「真面目すぎて、相手に断られているとアルベルト様から聞いていましたが…」
「それもあるの!お相手が恋に恋するタイプだと、アーサーからの情熱が感じられなくて物足りないとか」
顔合わせで情熱感じるくらいアピールされたら逆に怖くないか?
初対面でプロポーズされてた私が言うのもなんだけど。
「だから、カレンちゃんと婚約したいって言ってきたあの子の顔を見て…恋しちゃったのね!って」
キャッと乙女のように両手を頬に当てる公爵夫人。
妖艶美女なのに、可愛すぎる。
「アーサー様には、大切にしてもらっています」
「そうよね、そうよね!我が息子ながら、良くやっていると思うわ!」
「だから、申し訳なくて…私、素直になれなくて」
照れ隠しと言えば聞こえがいいが、可愛げのない対応をしていると思う。
「まぁ…カレンちゃん。そんな事気にしないで」
ギュッと手を握られる。こんな時、2人は親子だなと感じる。何かを伝える時、手を握ってくる所。
「あの子の人の話を真に受けすぎる所も、真面目すぎて逆に奇行に走っているように見える所も。全て動じることなく受け入れてくれるもの。カレンちゃん、それが貴方の愛情表現だってアーサーは知ってるわ」
もちろん、私も旦那様もね。と目の前の美女がウインクをした。
「お母様、カレン嬢。ただいま戻りました」
「あら、おかえりなさい。今あなたの話をしていた所よ」
じゃあ、私は先に失礼するわね。と公爵夫人は席を立った。
「アーサー様、おかえりなさい。お仕事お疲れ様でした」
「………良い」
「いい?」
「仕事から帰ってきたら、カレン嬢がいる。最高です。やっぱり、もう結婚しましょうか」
「卒業まで待つんじゃなかったんですか」
公爵家の一室には、代々の当主夫妻の肖像画が飾られている。
その中に、有名な肖像画が1つ。
“溺愛公爵夫人”という一世を風靡した恋愛物語のモデルになった夫妻の肖像画である。
モデルとなった公爵夫人は、“冴えない見た目”でありながら美貌の公爵の心を捉えてはなさい魅力的な人物と言われている。
実際に肖像画を見たものは、皆口を揃えてこう言った。
描かれた夫人は笑顔の美しい人であるのだと。
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