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平凡令嬢、溺愛を信じない  作者: 雨の日


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6/7

信じない、信じたい


「貴方の髪は、まるで母なる大地のような…」

「アーサー様、アルベルト様に何か言わされてますか?」

「……やはり、わかりますか」 

「はい。バレバレです」


ユリアにアーサー様と向き合う宣言をした翌日。顔を合わせた瞬間、例の棒読みを始めたアーサー様に問いかける。


ちなみにユリアはあれ以降、いつも通りだ。あの時何を言ったのかも覚えていないし、もちろん娘の生まれ変わりでもない。

まるで一瞬だけ、ユリアの身体を借りて娘が語りかけてきた様な。神様の気まぐれ、妖精のイタズラ、みたいな奇跡だったのだろう。

「幸せになって」

その一言が私に勇気をくれたのだ。もう一度、信じてみようという勇気を。

それだけで、充分だった。


「…私の何処が良かったのですか?」

私の質問に、アーサー様は真剣な表情を見せた。

「ありたい自分であればいいと、言ってくれました」

「…言ったのが私以外の人であれば、その人に好意を持ったということですか?」

「違います!そうじゃなくて…」

少し、意地悪な聞き方をしてしまっただろうか。

でも、知りたかった。アーサー様を、信じたいから。


「……国王の方からカレン嬢との縁談を持ちかけられた後、学園で貴方の様子を気にかけていました。どのような女性なんだろうと」

覗き見をしてすみません、とでも言うように申し訳なさそうにこちらを見つめるアーサー様。

気にしないで、と目線で伝え話の続きを促す。


「学園で見る貴方は、いつもニコニコとして周りをよく見ていると思いました。何か困った事が起きた人にすぐ気付いたり、手を貸されていて。生徒会の書記は貴方と同じクラスですが、会話に入れず孤立しているご令嬢がいれば会話の輪に入れるように手助けをしたり、クラスで目立つタイプではないが皆が頼りにしているのだと教えてくれました。だから顔合わせの前から、素敵なご令嬢だと思っていました。顔合わせの日、実際に話をしてみてそれが確信になったんです」

そんなにお喋りじゃない筈のアーサー様が、必死に想いを伝えてくれる。

それだけで胸がいっぱいになる気がした。


「私は地味ですし、アーサー様の隣に立つには不釣り合いでしょう?」

「誰がそんな事を?貴方は、表面だけで人を判断しない人だ。だから、表面だけを見て何かを言う人達と同じ舞台には立っていない。貴方は、貴方である。それだけでいいと、そう言っていたではないですか」

「ウフフ。そうですね。ありたい自分で、と言っていたのは私でしたね」


向き合う時が、来たみたいだ。

アーサー様と。

怖がりな自分に。 


「私は、男性からの愛情を信じきれません」

私が話し出すとアーサー様は何か言おうとして少し考え、口を閉じた。そのまま私の話を聞くことにしたようだ。

「男性からの愛情は一時的な感情の高ぶりです。熱が過ぎれば、また別の方に愛情を向ける、そんな生き物だと思っています」

「元婚約者の方のように?」

いや、前世の元旦那です。とは言えないので、私は曖昧な笑みを浮かべておいた。

思わぬ所でヘイトを向けられた元婚約者には悪いことをした…、けど一方的に婚約を無しにされたのはやっぱりムカッ腹だったので別にいいや。


「私に対しても、その様にお考えなのですか?」

アーサー様の真っ直ぐな視線。美しい黄金の瞳に悲しげな色が浮かぶ。

そんな顔、しないで欲しい。

「アーサー様は、真面目で誠実な方だと思っています。今の私への愛情を疑ってはいません。けれど、人の心は変化してゆくものなのです」

「私の貴方への愛は変わりません。一生変わらないと誓えます」


どうしてだろう。どうしてこんなに真っ直ぐな言葉で気持ちを伝えてくれるのだろう。

アルベルト様直伝の、遠回しな口説き文句ならスルー出来るのに。


「信じて、裏切られたらと考えてしまうのです」

「私は裏切りません」

「……愛してしまえば、その恐怖が付きまといます」

「恐怖を忘れるくらい、愛を伝えつづけます。だから…」


そこでアーサー様はそっと私の手を握り、真っ直ぐに私を見つめて言ってくれた。



「安心して、私を愛してくれませんか?」



ポロポロと涙が自然と流れ落ちる。

心の中で硬く凝り固まっていた猜疑心が、涙と一緒にポロポロと崩れていく気がした。



「貴方に触れてもいいですか?」

相変わらず律儀に確認してくるアーサー様に、コクンと頷く。

私を優しく包み込む両腕の動きはぎこちなくて、それでも一生懸命に私を慰めようとしていた。



もう、疑うのはやめよう。

男はクソとか、主語が大きいのはわかっていたことなんだから。



私を抱きしめるアーサー様の背中に、私も腕を回してギュッとする。

アーサー様は少し硬直した後、私を抱きしめる腕の力を少し強くした。

背の高いアーサー様の胸元に耳を当てると、凄い速さの心拍を感じて、私の心も温かくなった。




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