表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡令嬢、溺愛を信じない  作者: 雨の日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

彼たちの恋愛プロトコル


最近、アーサー様が挙動不審だ。


君の瞳は、満天の星空より輝いている。だの

貴方の愛らしい唇から紡ぎ出される言葉は、どんな吟遊詩人の詩より美しい。だの


キザったらしいセリフを言うのだ。

真顔の棒読みで。



「アルベルト様の入れ知恵かしら」

「稀代の遊び人」

「もっと地に足ついた褒め言葉なら素直に受け入れられるのに。爪の形が綺麗だね、とかさ」

「ホントだ、綺麗」

「ありがと、侍女達が整えてくれるのよ。凄い器用なの」


夜会の時、アルベルト様は明らかに面白がっていた。アーサー様の空回りっぷりに。

「こう言えばご令嬢はイチコロだよ」とでも言っているのだろう。辞めていただきたい。

ウチの子は真面目で素直なんです。用意された台本通りに話すのに必死で、表情筋が仕事できないじゃないの!



「でも、カレン酷い。あんなに大切にしてくれてるのに、私に拒否権はないなんて言って。アーサー様、傷つくよ」

珍しく長文を話したユリアに、言葉が詰まる。

「だって、本当の事だし…」

「本音と建前で使い分けるのが、賢い社交術だって言ってたじゃない」

「…真っ直ぐすぎるの、アーサー様は。私には、そんな価値ないのに」

「価値のない人なんていない。これもカレンが教えてくれた事よ?」

「………怖いのよ」

「何が?」

「信じるのが」



信じて全てを委ねて。なのに、裏切られたら?

アーサー様は、真面目で素直な人だ。きっと、私から心が離れた時、彼自身も苦しむだろう。

私は、彼が苦しむのを見たくないのかもしれない。


「………あのクズのせいで苦しまないで、お母さん」

「………っ!えっ…」

「幸せになって」

「えっ、ちょっ、ユリア!?」

「ん?何?…ごめん、寝落ちしてた?」

「えっ、何?ちょっとパニック」

「何が?」


何が?はこちらのセリフだ。何さっきの、お母さんって…。

ユリアとは前世の記憶について話した事がある。出身地も年齢も、私との共通点はなかったはずだ。 

でも、さっきの言葉…あれは前世の娘の…? 

そうだ、本音と建前で使い分けるって話も、価値のない人なんていないって話も。

ユリアとはそんな話していない。その話をしたのは娘とだけ…。


「神様のイタズラってやつ?」

「何が?」

「認めるしかないのかな」

「何が?さっきから何が?の連続だ」

「私、アーサー様と真剣に向き合うよ」

「急展開」


信じるのは怖いけど、アーサー様なら大丈夫かもしれない。

………まぁ、大丈夫じゃなかったらそれはその時考えよう。







「お姉ちゃん、大丈夫?」

理愛の声で、意識が浮上した。

「ごめん、寝てた」

友理はそう言って横たえていた身体を起こす。

「いいよ、まだ寝てて。寝ずの番、ありがと」

「寝てたけどね」

フフフッと、2人で顔を見合わせ笑う。

笑ったのは、何日ぶりだろう。

お母さんが死んで、葬儀までの数日間。ただただ呆然と過ごしてきた気がする。

「今日の葬儀と火葬が終わったら、納骨まで一休みできるね」

「そうだね。理愛、仕事大丈夫なの?新人なのに何日も…」

「忌引きに嫌な顔するの、コンプラ違反だもん。会社に文句言わせないよ」

「相変わらず強気なんだから」

「お母さんに似たんだもーん」

理愛が大学を卒業後、就職が決まり家から独り立ちしたのを見計らったかのように、心不全で急死したお母さん。

クソみたいな父親の仕打ちをバネに、シングルマザーで私たち姉妹を育ててくれた強い人。


「さっき夢見てた」

「えーどんな?」

「お母さんが貴族令嬢で」

「なにそれ、ウケんだけど」

「私も友達の令嬢だった」

「お姉ちゃんが令嬢」

ケラケラと理愛が笑う

「私の名前、ユリアだよ。友理と理愛でユリアかな」

「私もかよ!」

「お母さんに、幸せになれ〜って言っといた」

「……苦労させたもんね」

「ね、これから恩返しの番だったのにね」

しんみりしていたら、式場のひとに声をかけられた。

そろそろ、葬儀の時間が始まる。

私は、棺の中のお母さんを見つめてもう一度

「今度は、幸せになってね」

と言って、静かに覗き窓を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ