いざ、夜会
「まぁまぁまぁまぁ!素敵!」
お母様の感嘆を聞きながら、私は息を呑んだ。
目の前には、とんでもなく美しいドレス。一歩間違えればド派手なゴールドを、上品な色合いに染め上げたドレス。ウエストの切り替えは鮮やかな赤色のリボンで彩られ、ポイントの刺繍は赤色のバラが刺されている。
(見ただけで分かる、高いやつや…)
思わずエセ関西弁が出てしまった。
アーサー様と参加する夜会の1週間前、我が家に公爵家の名前でドレスが届けられたのだ。
『本当は一緒に選びたかったのですが、初めて送るドレスは男側が選んで送るものだと母に言われてしまいました。私の拙いセンスで作らせたものですが、気に入ってもらえれば幸いです』
とのメッセージカードと共に。
「顔合わせの日にアーサー様が婚約を申し出て来た時は驚いたが…仲良くしているようだな。カレンを気に入るとは、さすが公爵家の御子息だ。中々見る目があるようだな!」
うんうん、と満足げに頷くお父様。カルキベア公爵一家をみた瞬間、無理だな…と諦めていたくせに。
「独占欲丸出しの色合いね。カレンちゃん、とっても愛されているのね。ママ安心したわ」
「物珍しいから構っているだけよ」
「もう!素直じゃないんだから!カレンちゃんは可愛いわ!ママの世界一の天使よ!」
(我が子が世界一可愛いと思うのは親だけなんだよ、マミー)
と言う言葉は胸のうちに収めておいた。
「お嬢様、動かないでください」
はい、夜会当日です。また私は化粧台の前で小一時間、顔をこねくり回されている所です。
「ほどほどでいいのよ」
「何をおっしゃいます、お嬢様!パートナーはあのアーサー様なのですよ?」
「そうですよ、お嬢様。一番星の生まれ変わりなのでは?と言われるほどの輝きを纏う方とお聞きします。生半可な仕上がりではその輝きに巻き込まれてしまいますわ」
「目指せ太陽!ですわね!」
我が家のデキる侍女達が、張り切っている。
前回のアレで諦めないあたり、やはりシゴデキ侍女達である。
そして、前回とドッコイドッコイの化粧濃いめのカレンちゃんが完成したのであった。
しかしドレス効果であろうか。あの高級感マシマシの華やかドレスを着たら、あら不思議。
濃いめのメイクも浮くことなく、しっくりくるのだ。
「素敵ですわ、お嬢様!」
「馬子にも衣装ですわ!」
「まるで新月の夜の月のようですわ!」
「おい待て、最後なんだ」
「お嬢様、アーサー様がいらっしゃいました」
良いタイミングで執事が呼びに来た。
「新月の夜は!月は見えないじゃないのー!」
さぁさぁ行ってらっしゃいませ~と背中を押す侍女達に反論しつつ、私はアーサー様の元へと向かった。
「まるで月の妖精のようです」
「新月の夜の?」
「?」
「あっ、いえスミマセン。お褒めいただき光栄です」
アーサー様の褒め言葉も、先ほどの侍女達の言葉で台無しだ。
「アーサー様も、素敵ですわ」
「貴方に釣り合うように頑張ってみました」
えっへん、とでも言うような得意げな様子が微笑ましい限りである。
釣り合いが取れる様に頑張っていたのはコチラの方だが、どうやら次元が違ったらしい。
普段もキラキラしい御方だか、今日は一段と輝いて見える。
男性の正装は基本は黒かネイビーと決まっている。そこに小物でパートナーの色を忍ばせるのが紳士の腕の見せ所らしい。
アーサー様は、カフスボタンや胸元のハンカチを私の色(薄茶色)にしていた。無難な色なので、どんなスーツにも似合うのが地味な色合いの利点だろう。
シャンデリアの輝きが凄い、さすが王家のパーティー会場。
夜会到着早々、アーサー様は彼のお父様と事業提携をしている貴族の方に声をかけられ、しぶしぶ私から離れていった。
なので私は彼が戻ってくるまで待機しているところだ。
「まぁ…あの方がアーサー様の婚約者の方なの?想像していたより…ウフフッ。なんでもありませんわ」
「学園では片時も離れないほどそばにいるとか。逃げられないように必死なのね」
「2回目ですもの、後がないのね」
3匹の可愛い小鳥のさえずりが聞こえるわ。
壁の花に擬態していたのに気づくとは、なかなかの実力者と見た。
チラリ、横目で確認すると小鳥さんたちは侯爵令嬢を筆頭に伯爵令嬢と子爵令嬢だった。たしか、学園には通わず女学院に通ってる子たちだろう。あまり見かけない顔だし。
にこり、と微笑み軽く会釈する。
聞こえてますよ&その陰口効いてませんよ、の意思表示である。
その微笑みに侯爵令嬢はスッと目を細める。
やんのかコラ!とでも言った所だろうか。
やりませんけどね。すぐ頭に血がのぼっちゃうの、女の園にいるわりに煽り耐性ゼロなのね。
「お待たせしました。カレン嬢。何か嫌な思いはされませんでしたか?」
ケンカ売られるの面倒だな…と思っていたら、良いタイミングでアーサー様が戻ってきた。
さすがスパダリ、タイミングもバッチリだ。
「大丈夫ですわ。小鳥のさえずりを聞いていただけですもの」
私がそう答えるとアーサー様は素早く3匹の小鳥達を確認した。
「そうでしたか。妬けてしまいますね。貴方の耳に届く声は、私のものだけでありたいのに」
「まぁ、アーサー様ったら」
そう言って彼の腕にスルリと腕を絡ませる。ピクリとアーサー様の身体が少し硬くなる。あっ、私も触れる時には確認したほうが良かったのかな?
「行きましょう?主催者の方にご挨拶しなければ」
そう声をかけると、アーサー様は私にニコリと微笑みを向ける。心なしか頬がピンクに染まり瞳も潤んでいて、色気ハンパない。
「ヒョぇん」と間抜けな声を出して、小鳥たちはふらついていた。
女学院の子は、男子耐性ないみたいだ。
「アルベルト様」
「やぁアーサー持っていたよ。隣の可愛らしい方が噂の婚約者の方かい?」
「はい。カレン嬢、この方が第2王子のアルベルト様です。学園も同じだし、知っているとおもいますが」
「はい、もちろんです。第2王子様にご挨拶申し上げます。サルザローズ伯爵家のカレンと申します」
王族と話すのは2回目だなぁなど思いながら、定型文通りの挨拶を交わす。
アーサー様は卒業後、王太子の側近として働く予定だが、それはアルベルト様も同様である。
王太子の補佐として王国を支えていこうという大変立派なお方なのだ。
「アルベルトでいいよ。なるほど。うん、お似合いな2人だ。少し遅くなったが、改めて。婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
お礼を言うアーサー様の横で私も静かに頭を下げた。
分かりきったお世辞に、お似合い…?などとツッコむのは野暮である。
「サルザローズ嬢。アーサーとの婚約で困った事はないかい?色々外野がうるさいだろう?何かあれば、私が力になろう」
「まぁ、ありがとうございます。アルベルト様にそう言って貰えると力強いですわ」
フフフッと社交辞令で答えていると、アーサー様が絡めていた腕にクイッと力を入れ私と身体を密着させてきた。
「私の方が力になります。カレン嬢」
「?えぇ、もちろん頼りにしてますわ」
ブブッと吹き出す笑い声。アルベルト様である。
「あはは!面白いものを見せてもらったよ。真面目で面白味のないアーサーに、こんな一面があったなんてね」
「面白いことなど何もしていませんが?」
「うんうん、そうだな。カレン嬢、どうだいアーサーは。真面目が服を着て歩いてるような男だろう?おかげで、なかなか婚約者が決まらなかったんだ。顔だけの男より、話してて楽しい方を人生の伴侶にしたいってさ」
「まぁ、私に拒否権はありませんでしたし」
「「そうなのか!?」」
アーサー様とアルベルト様が見事にハモって聞いてきた。
「元より私は、父の決めた方と結婚するつもりでした。1度婚約を解消された身ですので、もちろんアーサー様からの申し出は大変ありがたいものでしたが」
別に相手がアーサー様だから受けた話ではない。父が決めた人と結婚する、それだけの話なのだから。
「お前…道のりはながそうだな」
「精進してまいります」




