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平凡令嬢、溺愛を信じない  作者: 雨の日


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2/7

これが世に言うスパダリか

あっと言う間に週末。

サルザローズ家はカルキベア公爵夫妻と子息を出迎えるべく慌ただしい空気が流れていた。


「そんなに気合を入れなくても良いのよ。アーサー様は同じ学園だし、今日の顔と学園での顔が違いすぎたらビックリされるじゃない」

化粧台の椅子に座らされ小一時間。我が家のデキる侍女達が、私の顔にあらゆる物を塗りたくり少しでも見栄え良くしようと奮闘していた。

「何を言いますか!聞けばお相手はカレン様の世代の1番の出世頭とか!今気合いを入れずして、どうするのです!?」

「必ずや私達が、カレン様の平凡な顔立ちを華やかな美女に作り変えて見せますわ」

「奇跡のビフォーアフターですわ!」

「あっ、ハイ…スミマセン。お任せしま…ん?なんか今ディスられた?平凡って聞こえたような…?」

「お黙りになって!今からが佳境でございます!」

「ハイ…」


それからさらに半時間かけて、私の顔は作られた。

「これが…わたし…?」

とはならなかった。奇跡は起こらず、ただの化粧濃いめのカレンちゃんがそこに居た。

「ふぅ…終わりました」

「…うん。ありがと。」

可愛いは作れる!の限界を知った。




カルキベア公爵一家は、輝かんばかりの美貌を惜しげもなく披露してくれている。

淡い水色の艷やかな髪に黄金の瞳を持つイケオジ公爵様、燃えるような赤毛に薄紅色の瞳を持つ妖艶な美女の公爵夫人。

そして、夫人譲りの赤毛に公爵家の証しである黄金の瞳の美青年公爵子息アーサー様。


とんでもない家族がいたものである。

カリスマ性が半端ない。オーラで目が潰れそうなレベル。


ちょっと昔からあるだけの伯爵家が太刀打ちできる相手ではなさそうだ。

この縁談は流れるだろう、とすでに父から諦めモードが漂っていた。


「いや、お話で聞いていた通りの聡明そうなご令嬢ですな」

公爵様が挨拶もそこそこに、穏やかに私を話題にした。なんだ、聡明とは。初耳だ。

「本当にそうね。それに、とても愛らしいわ。私、娘が欲しかったのよ」

色気ダダ漏れの公爵夫人がそれに続く。美女の頂点に君臨する様な御方に愛らしいと言われて少し浮足立ったが、公爵夫人の後ろのガラス窓に反射した自分の顔を見て一瞬で現実が見えた。お世辞だ、これは。

「いやいや、国王からお聞きだと思いますが婚約解消をされた訳ありの娘ですので…」

父は謙遜に公爵様は首を振る

「ご令嬢に瑕疵がないのは周知の事実。そのようにおっしゃらないでください。」

「いくら隣国の王家との繋がりができるからと言って、長年の婚約を無下にしたのはお相手側ですもの。酷い話だわ。アーサーもそう思うでしょう?」

公爵夫人の言葉に

「そうですね。」

と一言だけ答えたアーサー様。


はい、脈無しですね、わかります。


美しい黄金の瞳が優しい笑みを纏う。なんという破壊力。これが美の暴力。

しかしながら関心は一切ないと態度で伝わる。

その証拠に、彼の一言で両家が温めた場の空気がスンッと冷えた気がした。


「アーサーもご令嬢を前に少し緊張しているようだ。カレン嬢、もしよろしければ噂のサルザローズ家のバラの庭園をアーサーに案内してくれないかい?」

「そうよ!サルザローズ家のバラの庭園は社交界でも噂の的ですもの!ぜひ案内してもらいなさいな、アーサー」

マジでか!?という言葉は喉の奥に押し留め

「ぜひそうしなさい」

という父の言葉に見送られ、私はアーサー様と2人庭園へ向かった。



「…………」

「…………」

気まずい沈黙。何としてでも婚約まで辿り着きたい両親と無関心の息子。絵に描いた様な展開ではないか。

「こちらが、当家のバラの庭園になります」

「素晴らしいですね」

サルザローズ家のバラの温室庭園。名前にローズとつくからか、我が家の庭園はバラに力を入れており温室には1年中バラが咲き誇っている。

我が家で開かれるバラのお茶会は、社交界でも憧れのお茶会とされている。


「カレン嬢は、落ち着いた方なんですね」

ふと、アーサー様が口にした。ずっと黙り込んでいたので、無口なのか無関心なのかと思っていたのに。

「落ち着いて…見えますか?あまり言われたことはないのですが…」

実際私は落ち着いているとは真逆だと思う。プレ夜会でドレスに飲み物を零すレベルで落ち着きがない女である。

「学園での貴方は、快活に思いましたが…実際にお会いして、そう思いました」

「まぁ、学園で…?」


なんてこった、相手は高嶺の花とタカを括っていた。まさかアーサー様に認識されていたとは。じゃあ今日の化粧が普段より濃すぎることも気づいている?コイツ、めっちゃ気合い入れてんなって思われてる!?


「普段の姿を見られていたなんて、お恥ずかしいですわ」

そう言って顔を伏せる。もう見ないで頂きたいの一心である。

「失望しませんでしたか?」

失望…?何に?1時間以上厚塗りしても大して変わらなかった己の顔面に…?

私の頭に???とでも出ていたようで、アーサー様はフッと笑った


「私にです。面白い事も気の利くことも言えない、面白みのない男でしょう?」

いえいえ、そのお美しさプライスレス。何をしても絵になるアーサー様に面白さなど誰が求めていると言うのか。


「アーサー様は、そんなご自分に失望していらっしゃるのですか?」

「いえ…自分では特に。ただ友人に指摘されまして…真面目なだけで面白みがないと」

友人…となれば第2王子あたりだろうな。公爵子息にそんな事言えるのは彼しかいないだろうし。

「ふふっ」

不意に笑いが漏れてしまった。

「…?面白かった…でしょうか?」

面白かったかって?はい、笑えます。


美貌の公爵子息。頭脳明晰スポーツ万能。さらに将来有望なスーパーエリート。おまけに物腰まで柔らかい。まさにスパダリ。

それなのに、友人の一言を気にする人間臭さも持ち合わせているのだ。

さっきまで、綺麗なマネキンを相手にしてたみたいだったのに、急に人間味出しちゃって。


(なんだか、可愛いところもあるのね)

急に肩の力が抜けてしまった。

政治的なしがらみもないのだ。絶対に気に入られて婚約に漕ぎ着けなければと言うわけでもない。

相手に良く見せようと思わなくて良いってだけで気が楽になった。


「アーサー様が気にしてないなら、変わる必要はないですね。人がどう言おうと、ありたい自分であればいいのでは?」

「ありたい自分で…」

「人に左右されず自分を貫くのは、案外難しいものです。アーサー様は、“面白味のない”ご自分に失望しているわけではない。ただ、指摘されたから変えたほうがいいのか、と思っているだけ、ですよね?」

「まぁ、そうですね。」

「変わるか変わらないか、決めるのは他人ではありませんわ。変えられるのは自分だけ、でしょう?アーサー様が変わる必要がないと思っているのなら、そのままでいいのではないでしょうか」

「…やはりカレン嬢は、落ち着きのある方だ」

「あまり言われたことがないので、何だか気恥ずかしいですわ」


急に饒舌になりだしたアーサー様。人見知りだったのが慣れてきたのかな?

「私を前にして、赤面して黙り込む事も、露骨にアピールすることもない」

「…まぁ、全てのご令嬢がそうとはならないでしょうし…」

「私を、そのままで良いと言ってくれる」

「一般論のお話をしただけですわ。若輩者の浅知恵でお恥ずかしい…」

何だか前のめりで話し出したアーサー様。懐かれたのかもしれない。


「結婚してください」

「はい?」


思ってた以上に懐かれてしまった。





人見知りシャイマダム、カレンママ。空気になる事に成功した模様。

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