表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/59

6. 出奔、そして出産

この日、悪役令嬢トリオはいつも通りアマリリスのお屋敷に集まっていた。


「はあ、どうしよう。。。」


私がため息をつくと、アマリリスがルイボスティーを出してくれた。


「半年休学にしてご実家に帰るのはどう?ご両親の子として育てるのは?」


うちの実家は端的に言ってやばい。もともと父と母は政略結婚でお互いに無関心だった。母は自分が王子妃に選ばれなかったことがずっとコンプレックスで、娘にその夢を押し付けた。私が王太子妃候補だった頃は、辺境のブロワ領に寄り付かず、王都でひたすら私に教育を施した。そしてたまたま魔法の才があった私は、王国至上最年少で精霊契約を行い、王太子妃候補最有力とも言われた。


でも知っていた。アレクサンドル殿下を出し抜きたい、それだけの理由でヴィクトル殿下が好いてもないアマリリスを選ぶことを。だから、選ばれなかったことを特に不満にも思わなかった。だけど母は違った。アマリリスが王太子の婚約者に選ばれて以来、おかしくなった。王都から辺境領に帰ると精神を害し、最期は自ら命を絶った。


母が死んだあと、父は愛人を後妻に据え、義母と異母妹を城に連れてきた。最初こそ彼女らは遠慮していたが、父の興味が家の中にないのをいいことに強欲の限りを尽くした。歯向かう使用人はクビになり、いつの間にか実家に私の味方はいなくなった。


今あの家に帰ったらどうなるだろう。アベルは妊娠など知ったものかと婚約そのものを破棄するかもしれないし、そうなると父親がわからない子を妊娠したということになってしまう。ますます肩身が狭い。婚約を破棄され、その上お手付きともなれば嫡子であっても今後まともな縁談は見込めないだろう。異母妹もいるから醜聞を恐れて修道院に入れられ、子どもは親戚の家に預けられる、というのが関の山だろうか。


ふと、伯父のマール伯爵のことを思い出した。彼は私の母の兄でずっと母と私のことを気にかけてくれた。母が亡くなった時も、政略結婚だからってあんな男のところに嫁に出さなきゃよかった、自分があの時当主だったら絶対に止めていたと言って涙を流してくれた。


週末、転移魔法でマール領に赴くと、伯爵夫妻がいつも通りやさしく迎えてくれた。娘がいない彼らは私のことを本当の娘のように大切にしてくれる。私は泣きながら、妊娠の経緯や婚約者の心変わり、実家の状況を包み隠さず話した。夫妻はとても心痛な面持ちで私の話を聞いてくれ、子を産むことも、戸惑いながら賛成してくれた。そして話し合いの末、一旦出奔して、彼らのところに身を寄せることにした。まずは母子の健康が大切だと。


つわりが良くなってからは何度か転移魔法でアマリリスの屋敷に戻り、化粧品事業と現在のヒロインの攻略状況について談義した。卒後結婚式を挙げる予定で伸ばしていた髪は短くしてボブヘアにした。妊娠後期になるとお腹の子が腹を蹴るようになり、より愛着がわいた。段々と子の魔力が強くなり、安定して長距離の転移魔法が使えなくなったため、アマリリスとネモフィラが馬車でこちらに来てくれるようになった。私は来たる出産とフルール商会の事業に専念することにした。


出奔から半年後、無事男の子が生まれた。幸い安産だった。名前はシモンと名付けた。顔立ち、瞳の色は私に似ている。真っ赤な髪の色は父親譲りか。魔法属性は火属性、産まれた瞬間に属性が分かるくらい魔力が強い子だ。この子をボナパルト家にみせれば、間違いなくアベルの子だと信じてもらえるだろうが、今更アベルに会う気も起きなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ