24. 城下町へGO
ブロワ領について二日目の朝だ。朝も父のもとに行ったが、反応はなかった。
今日は城下に行こうと思う。ブロワの城下町は冒険者の街だ。国内各地いや隣国からも多くの冒険者が集う。実はこの町には魔法学園を出ていない『野良魔導士』が結構いる。平民は高額の魔力検査を受けられないからだ。彼らの多くは親兄弟から簡単な攻撃魔法を学び冒険者になったり、ダンジョンに入る際のお守りを作ったり、魔法でポーションを作ったりして生計を立てている。
「今日はマールのみんなにお土産を買いにいきます。」
「ぼくもいくー!」
こうして私たち三人は馬車で城下におり、町に繰りだした。シモンはすれ違う人々や町の看板に興味津々だ。冒険装備に身を包んだ冒険者を見るのは初めてだし、ギルドや装備屋を見るのも初めてだからだろう。
「このお店みたい!」
ポーション屋だ。治癒魔導士のネモフィラに連れられて、騎士隊の診察風景をみたって言っていたし、シモンにも馴染があるのだろう。
「いっらしゃい。」
「わー!いろいろな色のお薬があるよー。」
「そうね!シモン。でもさわっちゃだめよ。」
こういう薬は中にはとんでもない"劇薬"がある。割ったら本当に大変なのだ。
「なにかお土産になりそうなものあるかしら。」
「旅の土産ですか?それならこちらはどうです。体力回復ドリンクです。効果てきめんですぞ。」
青色の液体が入った大瓶をみせられる。
「それで一回分なの?」
「いやまさか、これはおよそ百回分です。一回分ですとこのサイズです。」
お土産としては悪くないか。どうしようかな?悩んでいると後ろからアベルの声がした。
「俺が買う。店主、一回分を百本くれ。」
「毎度!」
確かに騎士隊員たちにとってはいいお土産だ。百本は多い気もするが。店を出た後、一旦馬車に戻りポーション百本を積み荷としてのせた。
「私、お守り屋に行きたいのよね。」
お守りと言っても、魔道具だ。守護の魔法がかけられており、攻撃を跳ね返したり、吸収したりする。アベルがアレクサンドル王太子殿下にもらったという耳元のピアスも"お守り"の一種だ。
「町はずれのお守り屋さん、確かこの辺にあったはずなんだけど。あった!」
少し怪しげな店内に足を踏み入れると、初老の夫人が出迎えてくれた。
「何かお探しで?」
「旅のお土産になるような手頃なお守りを探しているの?」
「これなんかはいかがか?様々な物理攻撃からその身を守ってくれるペンダントじゃ。」
きらりと緑色の石が光る。悪くはない。
「それとこれも面白かもしれないな。変装用の指輪じゃ。」
つけると髪の色が指輪にはめられた石と同じ色になるらしい。
「あとこれじゃ。無病息災ブレスレットじゃ。」
複数の透明な石がキラキラ光る。これは病気を防いでくれるお守りで、特に感染症のリスクを下げてくれるらしい。マールは他国との交易が盛んなため、伝染病が伝播されやすい。これはいいお土産かもしれない。
「これください!」
マール伯爵夫人とフルール商会の女性従業員へのお土産として購入したら、なかなかの金額になった。
「またいらしてくださいねー。」
夫人がにっこり笑って見送ってくれた。
次はワイン屋だ。実はブロワ領の南側は王国内でも有数のワインの産地だ。最近はブロワ領の赤ワインの人気がうなぎ上りだと聞く。少しかさばるが、マール伯爵と商会の取引先、男性従業員へのお土産として、去年製造された赤を購入した。酒には一過言あるバーテンダーのローズが喜んでくれるとうれしい。
そろそろお腹がすいたので、町の食堂に入ることにした。魔獣料理が売りだ。私はワイバーンの赤ワイン煮込みを注文した。ワイバーンは広義でドラゴンの一種だが、知能や機動力でいわゆるドラゴンには劣るため、中級の魔獣に分類されている。シモンとアベルは日替わり魔獣の串焼きを食べている。今日の魔獣はトロールだ。
「うーん。なんか面白い味。」
シモンが眉間にしわを寄せている。トロールは肉が臭いからハーブや香辛料で匂いをごまかすのだ。
「苦手ならこっちを食べる?」
「うん!味見したい。」
シモンはワイバーンの方が気に入ったらしい。ふと奥の方の席から、殿下とエリカの話題が聞こえてきた。あまりじろじろは見れないが、服装を見た感じ冒険者ではない。ブロワ家の私兵だろうか。
「エリカ様と殿下、結婚しないのかねー。」
「エリカ様はぞっこんって感じじゃね?昨日も殿下が討伐から帰ってきたら抱きついてただろ。それに殿下だって男だ。あの胸に"ぱふぱふ"されたら一溜りもねえだろ普通。」
「ああ、俺もエリカ様に"ぱふぱふ"されてえ。」
"ぱふぱふ"...たぶんそれは別のゲームだ。前世ゲームクリエーターとして突っ込みを入れたくなる。
「殿下が領主になってくれたら、この町の結界も安定するし、いいことづくめなのにな。」
「そうだな。呪いの件、はじめ噂で聞いてどうかと思ったけど、案外ちゃんとした人だしな。」
「結婚式やるなら俺たちもごちそう食えるかな。」
「そりゃそうだろ。普段こき使われてんだ。そのぐらい振舞ってもらわなきゃ困る。」
あまり聞き耳を立てるのも悪いと思ったが、思わず聞き入ってしまった。お昼を食べ終わった後は、おもちゃ屋さんと本屋さんも見て、自分たちのお土産も買った。シモンは魔獣図鑑が気に入ったようだ。そうこうしていると、あっという間に日暮れ時になり、あわてて馬車に乗り込んだ。




