19. ヴィクトル殿下の帰還
「今、戻った。」
「ヴィクトルさま~!」
そういうと、エリカが思いっきりヴィクトル殿下に抱きついた。王太子は外されたけど、今も王子だし、なんなら、まだ王太子夫妻の息子であるエルキュール王子の魔法属性が判定されていないから、王位継承権だって第2位のままだ。人前で抱き着くのはさすがに…。
「…おい、エリカ。皆が見ている。」
「はい!すみません。殿下がご無事なのがうれしくて。」
そういうと、少し名残惜しそうにエリカが離れた。ヴィクトル殿下が紫色の瞳をこちらに向けた。
「君は…、エリカの姉のリリアーヌ嬢だな。来訪に関してはエリカから聞いている。遠方からご苦労だった。」
「お久しぶりです、殿下。リリアーヌ ブロワでございます。無事のお戻り、何よりです。」
カーテシーで挨拶する。
「楽にしてくれ。君とはもともと同級生だろう。それでボナパルト大佐と結婚することになったそうだな。」
「はい。実は婚約がそのままになっておりましたので、こちらから戻り次第、婚姻届を出そうと思っております。」
「それは良かった。私も友人として大佐のことを案じていたのだ。そうだエリカ、三日前国境沿いで報告された紅龍は無事討伐した。珍しく客人が来ていることだし、もてなしのディナーにするのはどうか?」
「そうですわね。ドラゴン料理はこの土地ならではのごちそうですもの!」
昔からこの土地のものはよく魔獣を食べる。ここに来るまでの街と違って、ウサギや子羊よりも魔獣の方がありふれているのだから仕方あるまい。魔獣は、魔力のコアである核を加工して魔道具の原動力として利用されるほか、皮や鱗を加工して武具や防具にしたり、その肉を食したりする。ドラゴンの肉は魔獣の肉の中でも美味とされていて、特にその肝臓はこの世界の三大珍味の一つである。
「殿下、エリカ、お気遣いありがとうございます。アベルと息子のシモンも喜びますわ。」




